第211話:実戦投入

〜藤嶋浩也 視点〜


召喚された広場に集められた俺たち。俺を含めて7人の前に出てきたのは、バトーラだ。


「ふむ。貴様らは、我々の設けた基準をクリアした。褒めて遣わす。そんな貴様らには、我らが皇帝陛下から栄えある役目が与えられた。『エルフ』や『ドワーフ』などという下等な種族と手を組み、『人間』としての誇りを忘れた愚かな国、ジャームル王国の討伐である。その第一歩として、ノイマンという町を攻め落とす。この役目を光栄に思い、死ぬ気で励むことだ」


と、仰々しく、偉そうに宣言した。


というか、待ってくれ。町を攻め落とす? 確かこの国の名前はダーバルド帝国だったから、ジャームル王国ってのは別の国だよな。つまり・・・・・・、戦争ってことか? 俺たちに戦争に参加しろって言ってるのか!?


冗談じゃない! 仮にジャームル王国ってのが悪辣非道な国家だったとしても、俺たちには戦争に参加する義理なんかない。というか、無理矢理召喚し、ボコボコにしておいて、俺たちを戦力扱いだと? ふざけんなよ、クソが。なーにが、皇帝陛下だ。なにが、栄えある役目だ・・・


けど、俺たちに逆らう手段はないんだよなぁ。逆らえば、よく分からない呪文によって苦痛を与えられるのがオチだ。

ではどうする・・・?


そう思っていた時、部屋に集められた1人、おそらく2番と呼ばれていた女性が声を上げた。


「あ、あの。直哉はどこですか? 私たち以外の人たちは?」


と、聞いた。

分かりやすく顔を顰めるバトーラ。近くにいた魔法使いが制裁のために彼女に近づく。そして、いつもの痛めつけるための呪文を唱えようとして、


「ふんっ。相変わらず礼儀も知らぬ蛮族どもめ。だが、あの役立たず共にも使い道があると知れたことは僥倖。それに免じて許してやろう。いいか、貴様ら以外の『異世界人』は戦闘の役には立たないようであった。故に処分する予定であったが・・・、貴様らの働きによっては扱いを変えてやろう。貴様らが成果を上げれば、貴様らが望む者は助けてやる。逆に成果を上げられなければ、貴様らに待っている罰と同様の罰を、苦痛を与えることとする」


と、宣言した。

・・・・・・嘘、だな。どれだけ俺たちを馬鹿にしてるのか知らんが、これはハッタリだ。そもそも、そんな人質みたいな使い方をするのであれば、残りの人たちもここに連れてくるはずだ。そして、見せしめに1人か2人を痛めつけるか、殺す。こいつらはそういう奴らだ。


だが、最初は俺たち以外の存在について触れる気もなかった様子だ。戦闘の役に立たないというのは本当だろう。俺たちを痛めつけていたのは、その戦闘に役立つ能力とやらを調べるため。だとすれば、それは全員に対して行われたはず。そして、俺たち7人だけが集められた。つまり、そういうことか・・・・・・


佳織は、結葉は・・・・・・

いや、決めつけるのは良くないか。

これから俺たちは戦わされるのだろう。戦いでの成果・・・・・・、戦争での分かりやすい成果と言えば敵を殺した数、とかか? だが、それを馬鹿正直に信じても、事態が好転する気なんてさらさらしないな・・・



いろいろ考え込んでいたが、演説が終わったバトーラの指示で、兵士たちに槍を突きつけられた俺たちは移動した。

行き先は外、この建物の中央にある庭のような場所だ。召喚されて初めて屋外に出たが、嬉しくもなんともないな。

灰色の空に、黒い建物、手入れされていない芝生、今の感情も相まって、絶望しか感じなかった。


とはいえ、諦めるわけにはいかない。絶望的な状況が、却って俺の心を落ち着かせてくれた。

困難な状況であればあるほど、冷静に状況を分析する必要がある。ピンチの場面で投げていた時も、常にそうしてきた。野球で培った精神力をこんな場面で役立てることができるとは思わなかったが、冷静なのは都合がいい。もしかしたら、この地獄のような日々が、図らずも俺の精神力を鍛えてくれたのかもしれない。

俺がやることは決まっている。佳織と結葉、2人を探す。死んだことを確認するまでは、諦めない。


そのためにすること、まずはある程度の自由を手に入れることだ。今までは、自分の部屋で休んでいる数時間以外は常に見張がいた。それに、部屋では自由と言っても、狭い部屋に閉じ込められ、出歩くことなどできなかった。

この状態をどうにかするには? 今からの戦いで活躍する?

・・・いや、それは無理だ。確かに、一方的に俺たちを召喚したこいつらはもちろん、向かう先の相手についても、佳織や結葉と比べる必要がないくらいにはどうでもいい。しかし、相手にとって俺たちは侵略者で敵なのだろう。となれば、簡単にやられてくれるわけがない。というか、戦いの経験なんて無い俺に勝ち目はない。


とすれば、隙をついて逃げる、か。仮に成果を上げても間違いなく自由にはなれない。なら先に自由を手に入れ、2人を助ける術を考えた方がいい。だが、逃げようとすれば呪文によって苦しめられ、取り押さえられるのがオチだ。


考えていると乗せられた馬車が動き始めた。

一緒に乗っているのは3人。板倉の姿は無い。他には兵士が2名と魔法使いが3名。逃げられるはずがない。

可能性があるとすれば、戦いが始まってから、か・・・



 ♢ ♢ ♢



出発してから10日ほどが経過した。

一度も町に立ち寄らず、野営をしながら進んでいた。馬車の外を見ることは禁じられていたが、不意に見えた限りでは、森や草原、岩場のようなところを進んでいた。自然の風景は、地球と変わらないらしい。それに途中でこちらに道を譲っている馬車も見えた。


今朝、兵士から受けた説明では、後3日ほどで最前線に設けられた基地に到着するらしい。そこからは徒歩で、目的の町に向かうんだとか。つまり、時間が無いってことだな・・・。


そんなことを考えながら馬車に揺られていた時だった。

いきなりもの凄い轟音が鳴り響いた。それと同時に馬車が大きく揺れ停止した。


「おい! 落ち着けって!」


馬車の御者をしていた男が必死に馬を宥めているが、暴れだした馬を止めることができていない。

御者はやむなく馬と馬車を繋いでいたロープを切断した。馬車から解放された馬はそのままどこかへ走り去る。逃げることができた馬が羨ましい。


「全隊止まれー! 魔法使いは前に! 兵士は『異世界人』を見張れ!」


という声が前方から聞こえてきた。その声に従い、同じ馬車に乗っていた魔法使いが3人、馬車から降りて走って行く。そして2人の兵士が馬車を降りた。

・・・・・・チャンスか? 魔法使いが向かったのと反対方向に逃げれば・・・

そう思い、馬車から降りた。

しかし、


「お待ちください、藤嶋浩也様」


と、いきなり兵士に声を掛けられた。

逃げようとしていたところで声を掛けられたことよりも、呼ばれないはずの名前で呼ばれたことよりも、こいつが敬語を使っていることに驚いた。


「あ、ああ。そうだが。なんで敬語? というか、名前を・・・」


他の人に聞こえないように小声で返す。

見ればもう1人の兵士は馬車の前側に移動していた。そして2人の同郷者は馬車の前に行き、様子を見ている感じだ。


話しかけてきた兵士に、


「あなたのことは、長峰結葉様より伺っております。どうかお話を聞いていただけませんか」


と言われた。

結葉の名前を・・・

そんなことを言われれば、俺の答えは1つしか無い。


「分かった、聞く。けど先に教えてくれ、2人は生きてるのか?」

「2人、と言いますと長峰結葉様と藤嶋佳織様ですね。お二人は生きているはずです。既に脱出していますので、確たることは・・・」

「脱出? それは本当か?」

「はい。私と部下が、殺すよう命じられていたところを連れ出しました。5日前のことです。順調にいけば、すでにこの国からは出ているかと」

「・・・・・・嘘じゃ無いんだよな?」

「もちろんです」


どう考えても嘘にしか思えない。こんな話をされても、信じろという方が難しい。

けど、この男に2人を助ける理由なんてないだろうし、それを俺に伝えてくる理由もない。まあ、助けたという話自体が嘘の可能性も高いが、だとしても俺にはあまり関係ない。どのみちここから逃げる予定だった。2人が捕らわれている前提でも、一度逃げてから助けるのが最善だと思っていた。そう考えると、この男の、2人が既に逃げているという話は聞いておくべきだろうと思う。少なくとも、無視していい話ではない。


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