第209話:世界の理?
ダーバルド帝国とその国教であるバルド教については、「やっぱり」という感想しか出てこなかったが、あの国がやってることを考えれば仕方がない。
日本で育ち宗教への馴染みが薄い私にとっては理解するのが難しいが、信仰している宗教はその人の生き方の中心に据えられ、言動の基礎となる。おそらく、そのバルド教とやらを信仰しているダーバルド帝国の国民は、『エルフ』や『ドワーフ』を奴隷にすることに対する疑問など抱かないのだろう。そういえば、ドランドたちを助けたときに捕まえて始末した奴隷商人もそんなことをほざいていた気がする・・・
指導層も同じく篤い信仰心から行動しているのか、宗教を方便に統治や自分らの利益のために動いているのかは分からないけど。
ひょんな事からこの世界の宗教について勉強することになったが、有意義な時間だった。マーカスに礼を言って、自分の中で話を戻す。
マーカスの話を総合しても、この世界の神は前世の地球のように、生きている人が作り上げてきた存在が主であると思う。異世界だから実際に神が降臨して・・・、とかが起源でも驚かなかったと思うが、そんな話はなさそうだ。
そうすると、「神の視点」というのは難しいかな?
もちろん現代の人々が信仰している神とは全く関係なく、この世界に神が存在している可能性はある。
それ以外となると・・・・・・
「神の視点」と言っていることは同じだが、「世界の理」というのはどうだろう。違いは神様がいるかの議論を省くだけなんだけどね。
『アマジュの実』が魔素を多く含み回復作用があることも、カイトが『身体強化』を使えることも紛れもない、この世界における真実なわけだ。『鑑定』は、ただそれを表示しただけ。
そう考えると、『鑑定』については説明がつく。結局「世界の理」などという曖昧で観念しづらいものに頼っているので、人に説明するのは難しいが、自分で納得することはできる。
そして「世界の理」だと割り切ると、呪文についても納得はできる。
とある呪文を詠唱すると、対応する魔法が発動する。この対応関係が「世界の理」であるとすれば、呪文を読み上げただけで魔法が発動できることの説明も付くわけだ。もちろん、そもそもイメージで発動する魔法が起源なのか、呪文で発動する魔法が起源なのか、といった議論や、両方が問題なく使えるのはどうしてなのか、といった疑問は尽きない。しかし、「特定の呪文とそれに紐付けられた特定の魔法がある」ということ自体の説明はできる。
そしてもう1つ。従魔契約を結ぶときに使う『適合化の魔法陣』やゴーレムを作るときに使う『ゴーレム生成の魔法陣』について。レーベルに教わる前に『適合化の魔法陣』を使った時は、従魔契約というかリンやマーラたちと仲良くなりたいと思った覚えはあるが、対象の足下にあんな魔法陣が展開することをイメージした覚えはない。ゴーレムについても同様だ。そうすると、この2つもこの「世界の理」なのかもしれない。かなり甘い仮説だろうが、自分なりに納得はできた。
さらにスキルもだ。カイトお得意の『身体強化』は、カイトが使う前から身に付いていた。『身体強化』は、身体に魔力を流して身体能力を向上させるものだが、魔法に近い面があると思う。しかし『ステータス』や『鑑定』では、魔法という分類ではなくスキルとして分類されている。だとすると、魔法の分類よりも更に細分化されて体系化されたものを指すのではないだろうか。
ついでにマーカスに聞いてみる。
「マーカス。もう1つ聞くけどさ、スキルってどんなイメージ?」
「スキル、ですか? 生まれつき身に付いているもの、若しくは大変な訓練を経て獲得するもの、ですかね」
「なるほど・・・。例えばさ、うちの騎士たちって『身体強化』持ってる人が多いでしょ? あれは?」
「『身体強化』を生まれつき持っている者は精々が2割ほどでしょうか。それでも、一般に比べれば多い方です。おそらく、その様なスキルを持っているから騎士を志した、という者が多いのでしょう。そのため多くの新人騎士にとっては、『身体強化』を身に付けることが訓練の目標になります。身体に魔力を流して身体能力を向上させ、それをコントロールする訓練を行うことで獲得を目指します」
「・・・みんな獲得できるの?」
「そうですな・・・。バイズ辺境伯時代は、新人の半分が入隊から数年以内に獲得する感じでしょうか。ですが、うちでは訓練開始から半年足らずで獲得率がほぼ100%です」
「そんなに違うの?」
「はい。うちの騎士はコトハ様に確認していただいたので覚えておられるかと。バイズ辺境伯のときは、新人騎士を定期的に教会に連れて行き、『ステータス』を調べることで確認していました」
確かにマーカスに頼まれて確認した覚えがある。魔法が使えるようになった騎士も結構いたし、魔素が豊富な環境や『アマジュの実』を定期的に摂取しているのが影響しているのだろうか?
そういえば、どうして教会で『ステータス』を確認できるんだろう。
神がある世界を作り出し、その神を信仰する宗教の教会がある。のであれば、その教会が神を通してこの世界に住む者の能力を可視化できても不思議ではない。いや、前世の常識で言えば十分ファンタジーなんだけど、それは置いておこう。
そう考えると実際に存在する神様を祀っている宗教がある可能性が高まるか? または、同じく「世界の理」とか・・・・・・?
いや、人々の信仰とは関係なく、創造主のような存在が居ても不思議ではないのか・・・。事実として、教会ではステータスを調べることができる。そして少なくとも教会で調べたステータスに『身体強化』があればそれを使えるのだから。
「『身体強化』を獲得したかどうかは、自分では分かんないの?」
「人による、としか。いきなり動きが良くなったり、魔力の消費量が減ったりと、変化がある場合には気付くことができますが、そうでない場合は難しいです。それに確定はできません。私は、戦闘中にスキルを獲得しましたので、無我夢中で戦っており、なんとなく不思議な感覚があったのみで、後日確認しました」
「分かった。ありがと」
「いえ、お役に立てたようで良かったです」
マーカスの話を聞くかぎり、さっきの仮説は正しいかも。
「世界の理」に含まれているスキルは、訓練をすることで身に付けることができる。訓練方法や身に付くタイミングは人によるのだろうが、この世界にとっての『身体強化』を発動できるようになったタイミングで、『身体強化』のスキルを得る。おそらく魔法も同じだろう。
そうすると呪文は? こんなものが先天的に存在していたとは思えない。少なくともある程度の知性が無ければ使えないと思う。何らかの理由で詠唱が始まったのだと思う。それは、私が考えていたようにイメージの補完かもしれないし、神への祈りかもしれない・・・
理由はともかく、長い間に渡って、呪文が詠唱され、魔法を発動していた。その結果、呪文を読み上げると対応する魔法が発動するようになった、つまり「世界の理」に組み込まれた。
そしてスキル。『身体強化』であれば魔獣・魔物が無意識に使っていたとしても不思議ではない。人型種でも、無意識に身体に魔力を流して身体能力を向上させていたのかもしれない。そうした行動が積み重なって、スキルとして固定されたのではないだろうか・・・
確かに、従魔契約にしろゴーレムにしろ、私がこの世界で初めてやったわけではない。これらが先天的なものなのか、昔は一般的なもので誰もが使っていたのかは分からない。だが、この世界に刻まれているおかげで、私の浅いイメージで発動できたのではないだろうか。
そういえば『ステータス』には、称号もあった。私には『世界を渡りし者』とかいう大層なものと、従魔たちの主であることを示すもの、そしていつからか、『■■■■■』と、読むことのできない称号が付されていた。称号自体は、「世界の理」による説明で納得可能だが、この読めないのはどういうことなんだろうか・・・
まあ、これ以上考えても詮無きことか。
いろいろ考えるのは楽しいが、所詮は想像に過ぎない。いつか、創造主のような「世界の理」を作った人とか管理している人に会う機会でもあれば聞いてみたいが、そもそもいるのか不明だし、いたとしてもそんな機会はないだろうし・・・。読めない称号も、気になるがどうすることもできない。
魔法の辞典を一通り眺めてみたが、特に面白い魔法は乗っていなかった。本当に基礎というか簡単な魔法が纏めてあるだけだ。1つだけ、まだ出会っていない『回復魔法』についての記述があったが、ベルティア教の信徒には使える者がいるらしい、と書いてあるのみだった。今度試してみようかな。
それでもまあ、いろいろ考えるきっかけになったし、詠唱について知れたので図書館に行った意味はあったかな。
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