第205話:魔法武具の扱い

私がハールさんへのお土産に持ってきたのは魔法武具の短剣だ。

ただ、国王になったハールさんが実際に剣を使う場面は無いだろうと思い、儀式用や展示用に装飾を重視した短剣を製作した。


この短剣は、ドランドが剣を作り、ドランドの奥さんのカベアさんが細かな装飾を施し、私が魔法効果を付与したものだ。


刃の部分は、魔鋼にフォレストタイガーの爪を粉末状にしたものを混ぜ合わせることで、白銀とでもいうような色味をしている。剣としての性能はもちろん最高級だ。そして刃にもカベアさんが細かな模様を彫り込んである。

そして柄の部分は木製で、魔法武具としての性能を高めるために芯にはフォレストタイガーの牙を使っている。更にフォレストタイガーの毛皮を加工して作った糸を森で採れた木の実を使って綺麗な白に染色して織り込んである。

鞘もメインの素材は魔鋼で、白く色が塗られている。その上に、細かな魔石や金属を使って模様を描いてある。


そして魔法効果。

この短剣は、以前実験した『魔刃』を放つことができる。魔鋼を作る際に混ぜ込む魔石の量を増やし、剣全体に魔素に親和性の高い素材をふんだんに用いることで、剣全体の魔力の通りがかなり良くなっている。加えて、鞘の部分に魔石を散りばめることで、鞘が魔力の供給路の役割を担い、短剣にはかなりの量の魔力が蓄積されている。そのため、『魔刃』の発動には軽く魔力を流し、剣から刃が飛んでいくイメージをしながら剣を振るうだけでいい。切れ味増強と刃こぼれの自動修復は盛り込んである。短剣で、しかもハールさんに贈るものに必要かはともかく、ね。


そんなことを説明したんだけど・・・・・・


「あれ? あんまりだった?」


剣を見ていた2人の様子がおかしい。それに、後ろにいるグレイブさんたちや近衛騎士さんたちも。剣をじーっと見つめて、何も言わない。


「えっと、あんまりだったら、別のものを考えるけど・・・・・・」

「いやいやいや。コトハ殿、今の話は真なのか!? いい、真なんだろう。真なんだろうな・・・・・・」


いきなりアーマスさんがそんなことを言いながらブツブツ言い出し、頭を抱えた。

次いでハールさんが、


「コトハ殿。この短剣は、クルセイル大公領で作られたということで相違ないんだな?」

「うん。今回の為に作ったよ。一応、招待されてるんだし、お土産くらい持って行こうかなって」

「そうか・・・。つまり、同じような短剣を量産できると? いや、短剣だけでなく、騎士が使う様な剣も?」

「えーっと、そうだね。できるかで言えば、できるかな。問題はあるけどね」

「問題とな?」

「うん。まずこの『魔刃』って、結構扱い辛いんだよね。特に集団で戦う騎士にとっては。魔力でできた刃を飛ばすんだけど、かなりの威力だから前方にいる味方まで巻き込みかねないんだよね。今回はハールさんに送るってことで、万が一の護身用として」

「護身用?」

「うん。1人の時に襲われた場合とかに、目の前の敵に魔刃を放てば、敵は真っ二つに吹っ飛ぶし、逃げる時間を稼げるかなって。逆に、護衛が近くにいるときは護衛の皆さんの安全の為に、後ろから『魔刃』を放ったりしないでね。うちの領でも『魔刃』を放てる剣を使って戦闘訓練してみたんだけど、連携が上手くできないから騎士団の通常装備に採用するのは見送られたんだよね。目眩ましや逃走の時間稼ぎの手段として、騎士団は一定数持ってるけどね」

「・・・・・・なるほど。にしても、凄いな」


私の説明を聞いて、疑っているのか驚いているのか、アーマスさんたちの言葉が少なくなった。

すると、


「国王陛下、父上。この短剣の『魔刃』、がどういう性能かは分かりかねますが、うちの領がクルセイル大公領で購入させていただいた魔法武具はどれも高品質です。支給している騎士たちからも、かなりの好評が届いています」

「・・・そうか。アーマスよ、この短剣、価値はどれほどと思う?」

「分かりませぬな。コトハ殿が言うように、騎士が使用するには向かないのでしょうが、控えめに言っても国宝クラスかと・・・」


は?

国宝クラス? これが? 私とドランドが数日で作ったやつだよ? そりゃあ、カベアさんが装飾を施すのには結構時間が掛かってたけど。それに、ドランドから聞いた魔法武具の話から私たちが研究してるのは、もっと凄いヤツなんだけど・・・


再びハールさんが向き直り、


「コトハ殿。改めてだが、この短剣を私に譲ってくれるのだな?」

「うん。そのつもりで作ったから。よかったら、護身用の武器にでもしてよ」

「相分かった。ありがたく受け取らせてもらおう。国王の護身用の武器として、引き継ぐことにしよう」

「ん? いるのなら、ご家族の分も作るけど?」

「いやいや。それには及ばない。というより、魔法武具についてなのだが・・・」


そう言ってハールさんに言われたのは、売る相手を慎重に検討してほしいとのこと。

切れ味増強や自動修復程度であれば、それが多く出回ってもそれほど問題にはならない。いや、継戦能力は上がるだろうけど。しかし、『魔刃』の様な攻撃を行える武器が多く出回れば、戦いの常識が一気に変わる。腕利きの冒険者数人が所有する程度ならともかく、軍隊が部隊単位でそれを入手すれば、戦力バランスが大きく変わってしまう。

ハールさんやアーマスさんは、カーラルド王国を建国し、どうにか国内を平定したところだ。直ぐ側では睨み合っているジャームル王国とダーバルド帝国の存在がある。特にダーバルド帝国は、いつ攻撃の矛先をこちらに向けても不思議ではない。そして、ラシアール王国は他国と通謀した貴族によって滅ぼされた。


そんなわけで、国内の貴族の騎士団が、強力な魔法武具で武装することは、一概に喜ばしいものではないわけだ。そのため、無闇矢鱈に高性能な魔法武具を貴族に売るのは控えてほしいとのことだった。

これについては理解できるし同意できる。とはいえ、技術が進歩し武器の性能が上がっていくのは世の常。それに、貴重な収入源を失うわけにもいかない。そんなわけで、相手をきちんと選ぶことや、飛び抜けた性能の武具については扱いに注意することを確認しておいた。


それから、ホムラについてもいくつか聞かれたが、事情は知っていたようで、珍しそうにホムラを見ていただけだった。ホムラは我関せずと、シャロンの上で寝ていた。

ただ、『古代火炎竜族』全体を従えていることは公にしないでほしいとのことだった。調子に乗った貴族が、私を利用して他国へ攻めようとか言いだしかねないんだとか。



 ♢ ♢ ♢



魔法武具や私に関する話は一段落した。


「こちらからの話は以上だ。他にも検討していることはあるのだが、貴族間での調整も済んでおらぬ故、後日話そうと思う」


そう、アーマスさんが締めくくった。


「それで、コトハ殿の話とは?」

「ああ、とりあえずギブスさんの所、サイル伯爵領での出来事を話すね」


そう言って私は、サイル伯爵領で起こったこと、最後に現れた相手のことを説明した。

そして、


「最後の『エルフ』の女性については、レーベルに心当たりがあるみたいで、調べてくれてる。分かったら教えるね。逆に、似たような話を聞いてたりしない?」


私の問いかけにアーマスさんが、


「いや、聞いたことは無いな。今回の件も、ギブスから早馬で報告を受けたが、同種の事案についての情報は無いな。何か掴んだら知らせよう」

「うん。お願いね」


宰相のアーマスさんが聞いていないのなら、仕方がない。


次いでハールさんが、


「それでコトハ殿。その禁術、とやらを使ったのは、ダーバルド帝国なのか?」

「うーん、これはあくまで推測だけど。禁術を使われたミリアさんっていう『エルフ』の女性は、その言動から長い間ダーバルド帝国で奴隷として捕らわれていたと思う。ミリアさんによれば、他にも『エルフ』が捕らわれているそうだし・・・」

「ダーバルド帝国が奴隷を使って実験を行った可能性が高い、か」

「うん。それに、彼女たちがいた場所を考えると、ダーバルド帝国からクライスの大森林を抜けてきた可能性が高いんじゃないかなって・・・」

「なるほど。確かに、ダーバルド帝国の東部はクライスの大森林に接している。クライスの大森林を通り、北上すれば南側をクライスの大森林に接するサイル伯爵領に出るか・・・」


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