第204話:謁見の予定

私の扱い、クルセイル大公領の扱いについて聞いたが、あの時の約束を守ろうとしてくれていることがよく分かった。


「約束を守ろうとしてくれてるってわけね。ありがと」

「ああ。このことは、コトハ殿に紹介した高位貴族たちにも説明してある。だが、詳しいことは私とアーマスが考えたのでな。グレイブたちには伝わっていなかったのだろうな」

「そっか。別に怒ってるわけじゃないし、そういうことなら了解。というか、そもそもグレイブさんたちは、ハールさんのお付きの人?」

「いや、そうでは無い。彼らの父親は、先ほど言った高位貴族たちなのだが、現在、種々の仕事に追われておる。そのため、王城との連絡役として派遣されておるのだ。今後の王国を担う存在であるし、その勉強も兼ねてな。そして、コトハ殿、クルセイル大公が到着したということで、挨拶がてら付いてきたのだ」

「なるほどねー。そういうことなら、初めまして。コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイルです。よろしくね」


私がそう挨拶すると、6人の男性がそれぞれ自己紹介をしてくれた。正直覚えられる気はしないが、グレイブさん含めてとても友好的だったのはありがたい。


「挨拶は済んだようだな」

「うん。改めて約束を守ろうとしてくれてありがとうね」

「いや、当然だ。こっちから頼んだわけだしね」

「ううん。それに、領民を受け入れてから少し経つけど、今の生活を楽しんでるから。私にできることならなるべく協力するよ」


貴族になることを打診されたときは、「貴族=面倒」との考えで、結構な無理難題をふっかけた。2人がそれを受け入れてくれたから、今の状態があるわけだ。

そんな私だが、少し気持ちは変わっている。いや、「貴族=面倒」が覆ったわけではない。前に聞いたカイトたちの結婚に関する話など、御免被りたいものは多くある。しかし、フォブスやノリス、サーシャなどサイル伯爵家の人たちと接するにつれて、そしてこの国で暮らす多くの人を見るにつれて、できることはやろうという気になりつつあった。

そもそも、私に期待されているのは物理的な戦力だ。戦うことに抵抗はないし、それで関わりのある人や懸命に生きている人を守ることができるのなら、それに越したことは無い。

そんなわけで、貴族のドロドロしたもの以外であれば、できる限りは協力しようと思っている。


そんなことを伝えると、


「感謝する、コトハ殿」

「ああ、これからもよろしく頼む」


ハールさん、アーマスさんにそう言われた。


「うん。よろしくね」



 ♢ ♢ ♢



「では、今後の話をしたいと思う。コトハ殿にも話があるようだが、先に良いだろうか?」

「うん。こっちの話は事後報告と、不確定な話だから」

「相分かった。まず、3日後なのだが、コトハ殿には国王陛下との謁見に臨んでもらいたい」

「謁見?」

「ああ。公式に国王陛下と会い、言葉を交わす」

「・・・・・・これは非公式ってことね」


まあ、よくあることか。謁見とか公式の会談とかで話されるのは、事前に実務者が協議を重ねた内容の確認がほとんどだ。トップが膝をつき合わせて、腹を割って、物事を協議するなど、組織の規模が大きくなればなるほど難しくなる。


「3日後に行う謁見の目的は2つ。1つは、コトハ殿がクルセイル大公であることを、出席する貴族に示すことだ。コトハ殿のことは聞いていても、実際にあったことのある貴族はほとんどいない。そこで、まずは国王陛下の前で、コトハ殿がクルセイル大公であることを示す。言い方は悪いが、コトハ殿が大公となった直接の契機はグレイムラッドバイパーの討伐や関連する魔獣の襲撃への対処だ。若い女性であると知っていても、おそらく・・・」

「私とは思われない、か」


確かに、グレイムラッドバイパーを倒す女性と聞けば、私みたいな貧弱な女性ではなく、男性にも引けを取らない戦士のような女性を想像するだろう。


「ああ。だからこそ、誰も口を挟めない存在による証明が必要になる」

「・・・国王を証明の方法みたいに」

「ははっ。アーマスの言うとおりだから問題ない」

「2つ目は、先ほどの話に関係する。国王陛下による謁見とは、国王の質問に答える形で進むことが多い。しかし、そこには数多くの仕来りや取り決めがある」

「うわぁー・・・」

「ははっ。そう言うと思っていた。だが、コトハ殿は、今日と同じ感じで構わない」

「え?」

「ああ。私のことは、『ハールさん』で構わんし、跪く必要も無い。それに、口調も普段通りで構わんぞ」

「いや、さすがに問題がありそうだけど・・・」

「いや、構わない。その謁見を見た貴族たちは、国王陛下とコトハ殿との関係を、ある程度は理解する。それが2つ目の狙いだ」

「つまり、フランクな感じで話すことで、私の立ち位置を示す?」

「ああ。具体的な内容はともかく、コトハ殿が単に貴族の序列が最高位である、というわけではなく、国王やカーラルド王国にとって特別な存在であることを示す。そうすれば、コトハ殿にどのような特権を与えていても不思議ではないし、命令権が無くても問題にならない。・・・いや、問題にする馬鹿はいるが、賢い貴族であれば、察するであろう」

「・・・・・・貴族って、みんな賢いんじゃないの? じゃなかったら、あんな化かし合いとか、暗躍とかできないと思うけど・・・」

「コトハ殿の貴族へのイメージは理解したが・・・、残念ながらそうではない。馬鹿な、というか愚かな貴族は多い。まあ、多くがランダルと運命を共にしたが、まだいるのだよ」

「そっか・・・。とにかく、私は謁見で紹介されて、ハールさんとこんな感じで言葉を交わせばいいのね」

「ああ。その際に、コトハ殿が何か言いたい内容があれば聞くが、どうだ? 無ければ、定型的な挨拶と今後の話をしてもらうことになるが・・・」


そう言われて考える。

・・・・・・貴族が多くいるんだよね? つまり、うちの砦に使者を送ってきたのがいるってことか。

じゃあ、砦のことでも宣伝する? いやいや、そんなことすれば、「砦に行けば、私に会える」とか思わるかも・・・。自惚れかも知れないけど、使者は結構な数来てるし、自分から面倒を呼び寄せる必要はない。


じゃあ?

貴族ってことは、金持ちだよね。うちで売ってる魔法武具って、貴族とか商人に売る予定だったし、それを宣伝してみる?

ついでに、ハールさんへのお土産も渡せば、良い感じかな?


「レーノ。魔法武具を宣伝するのってどう?」

「・・・え?」


後ろにいたレーノに聞いてみると、素っ頓狂な声を上げて固まった。

どしたの? 珍しいな・・・


「レーノ?」

「し、失礼しました。謁見を宣伝目的にというのに驚きまして・・・。元々、魔法武具を売る相手として貴族は考えていましたので、我々としては問題ないかと思いますが・・・」


レーノがそんな風に濁しながら視線を向けるのはハールさんだ。

そりゃあ、相手にも許可取んないとね。


「ハールさん、どう?」

「そ、そうだな。魔法武具というと、大公領で生産されているという?」

「うん。簡単な魔法効果を付与した武具を売ってるんだけどさ。冒険者が資金を用意して買いに来たり、商人がいくつか買っていったりするくらいでね。大口の取引だと、この前ラムスさんに在庫全部買い取ってもらったくらいなんだよね。できたら、もう少し売り先を探したいし、貴族が集まってるならちょうど良いかなって。それと、ハールさんにも魔法武具のお土産があるから、そこで渡せば少しは絵になるし、一石二鳥かなって」

「・・・・・・なるほど。私は構わんが。アーマス?」

「同感です。国王陛下に魔法武具を献上する。その際には当然説明もすることになる。そのときに、大公領で作ったことや、売っていることを話してもらうのがいいでしょう」

「オッケー。それじゃあ、そうするね。それで、お土産は先に見ておく?」

「ああ。頼む」

「了解。マーカス」

「はっ」


そういってマーカスが、布で何重にもくるまれた、綺麗な箱を取り出し、私に手渡した。

私は箱を机に置くと、蓋を開いて2人に見せる。


「これがお土産の短剣です。国王だと実際に使う場面があるかは分かんなかったから、装飾重視。とはいえ、かなり威力の高い魔法効果を付与した短剣になります」


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