第203話:クルセイル大公領の立ち位置
馬車から降り、アーマスさんたちと挨拶を交わす。
「お久しぶりです、アーマスさん、ラムスさん」
「久しぶりだなコトハ殿」
「お久しぶりです。息子たちの面倒をありがとうございました」
「気にしないで。カイトたちも、2人が一緒の方が楽しそうだったしね。それよりも、こんなお出迎えをしてくれてありがとうね。それに王都の入り口まで迎えをよこしてもらって」
「まあな。この出迎えにはこちらにも思惑があるので後で説明しよう。それと、王城までの案内は必要だったであろう。そもそも王城に滞在するのだからな」
「うん、助かったよ。それで、私はどうすれば?」
「ああ、そうだな。まず、厩舎と馬車の置き場に案内させよう」
そう言ってアーマスさんが横にいた男性に視線で合図を送る。
私もマーカスたちを見ると、既にジョナスが数名の部下をまとめて移動の準備をしていた。マーカスとそれ以外の騎士は私やカイトたちの近くに来ている。まあ、護衛だしね。
現在、騎士ゴーレムは馬車に積んである。盗まれることを警戒するのならば付いてこさせるべきなんだろうけど、30体近いゴーレムを連れて歩くのは目立つし邪魔だ。なので、馬車に積み込んだままにしておく。念のため、うちの騎士以外が馬車を開けた場合には殺さない程度の防衛行動を取るように命じてある。そして馬車には近づかないように管理している人に言いつけておけば問題ないだろう。それを無視されたら、どうなっても知らん。
ジョナスたちが馬や馬車を移動させ始めたのを確認し、私たちはアーマスさんの案内で王城の中へと入った。
「軽く聞いた話だが、道中にもいろいろあったようだな」
「まあね。それに関して私も話したいことあるんだけどいいかな?」
「ああ。とりあえず、ハール・・・国王陛下の元へ向かう。その後、話をさせてもらおう」
「ん、了解」
行き先は謁見の間みたいな仰々しい場所かと思ったら、普通の部屋だった。普通の部屋といってもかなり広いし、置いてある調度品はどれも煌びやかで見るからに高級そうだった。
「コトハ殿たちはそこに座ってくれ。フォブスとノリスはこっちだ」
案内され、コの字に並べられた大きなソファーにカイトとポーラの3人で座った。バイズ公爵家の人たちは横側に、向かいのソファーにハールさんが座るのだろう。
キアラは私を見て軽く首を振った後、レーノたちと並んで後ろに立った。別に座ってくれたら良いんだけど、やっぱ難しいかー・・・
よく一緒にいる5人の中でキアラだけ平民だ。カイトたちはそんなことを気にしていないが、キアラ本人はどうしても控えめになってしまう。それにレーノ曰く、外から見るとキアラだけ浮いている様に見えるとのこと。下らないちょっかいをかけられる火種にもなり得るとのことで、どうにかしたいと思っているところだ。
ソファーに座るとアーマスさんが話し始めた。
「ふぅ。まずはコトハ殿。改めてよく来てくれた」
「まあ、約束だったしね」
「そうだったな」
「それに、道中では友だちもできたし、いろんな町や村に立ち寄れて結構楽しかったから」
「そうか・・・。友だち、とは?」
「ん? サイル伯爵の長女のサーシャのこと。知ってる?」
「ああ、ギブスの娘か。ギブスが溺愛しているという」
「そう、そのサーシャ。後で話すけど、サイル伯爵領でいろいろあってね。そのときに」
「なるほど。それは良かった」
雑談しているとノックされ、アーマスさんが応じると部屋の扉が開いた。
まず入ってきたのは、先ほど見たのと同じ装備に身を包んだ近衛騎士が2人。その後ろからハールさんが姿を見せた。その背後には、数名の初めて見た貴族っぽい人たちや執事のような人が多数、そして近衛騎士がもう4人。
「これは、国王陛下」
アーマスさんがそうで迎え、私たちも軽く会釈を交わす。
アーマスさんやフォブスらバイズ公爵家の人たちほど仰々しく出迎えることはしない。詳しい案配は分からないが、前にレーノとラムスさんで相談して決まったらしい振る舞いを忠実に実行している。
ハールさんが座り、
「お久しぶりです、ハールさん」
私がそう言うと、後ろにいた貴族っぽい人たちが剣呑な雰囲気になった。
「クルセイル大公殿下。いくらなんでも、国王陛下をその様に呼ぶのはいかがなものかと思いますが?」
耐えられなかったのか、その内の1人、若い男性がそんなことを言ってきた。
・・・いや、知らんがな。本人にそう呼んでほしいと言われてるから呼んだだけなんだけど? というか、この人、私のこと知ってるんだ。
私の知ってる貴族は、アーマスさんたちやギブスさんたちを除けば、ガッドで紹介された6人だけ。その中にはこの人はいなかったと思うけど・・・
「そんなこと言われても、本人にそう呼べって言われたんだから。そもそもあなたは誰? 自己紹介も無くいきなりそんなこと言われてもムカつくんだけど?」
少し睨みながら返すと、
「なっ!?」
と、若い男性は気色ばんだ。
しかしそれは直ぐに止められる。
「止めよ、グレイブ。コトハ殿の言うとおり私がそう頼んだのだ。それに、彼女の言うことももっともだぞ」
「し、失礼致しました。クルセイル大公殿下にも失礼を」
「コトハ殿。此奴はグレイブ。この前紹介したシャルガム侯爵の長男だ。悪気は無いであろうが、少し堅いところがあってな。許してやってくれ」
「別に良いけど・・・」
ハールさんが間に入ったことで、少しモヤモヤしながらも、矛を収めることにした。
というか、普通に考えたらこの男性、グレイブさんの言ってることが正しいし。ハールさんと仲の良いアーマスさんですら、第一声は「国王陛下」だったんだしね。
少し反省していると、
「国王陛下もコトハ殿も、とりあえず座りましょう」
と、アーマスさんがこの話を終わらせた。
ハールさんが向かいに座り、グレイブさんたち付いてきていた貴族っぽい人・・・、少なくともグレイブさんは貴族だけど、が後ろに立った。
そして近衛騎士4人が入り口付近に、2人がハールさんの近くに立っている。・・・万が一の時に、直ぐにハールさんが部屋から出られるようにってことかな? それに加えて、私たちが何かしても、間に入れるような距離感って感じだね。この2人はかなり魔力量も多いし、腕利きなんだろうな。
そんなことを思っていると、
「まずは、コトハ殿。よく王都へ来てくれたな。歓迎する」
「あの時の約束だったし・・・ので」
「ははっ。これまで通りで構わんよ。元々、そういう約束だったしな」
「そう?」
「ああ。むしろ、その方がありがたい。国王になってからというもの、『国王陛下、国王陛下』とうんざりしておるのだ。それに、こちらにも思惑があるのでな」
「アーマスさんも言ってたけど、思惑って?」
「後で説明するが、まあ簡単に言えば、私とコトハ殿が友好的であることを示すことだな」
「ふーん。でも、そうするとさっきみたいに難癖付けられそうだけど?」
私が軽くグレイブさんの方を見ながら言うと、
「それも折り込み済みだ」
そうアーマスさんに言われた。
「どういうこと?」
「ラシアール王国には長いこと大公という爵位の貴族がいなかった。知識としてはあるが、実際は・・・」
「よく分かんない?」
「ああ。加えて、コトハ殿に打診したときに決まった条件。あれも加えると更に難しい。まあ、大公位の曖昧さに目を付けて、コトハ殿に大公位を打診したのだがな」
「ええっとー・・・、つまり?」
「早いところ、コトハ殿の立ち位置を確立させる必要がある。大公、という爵位の持つ意味だけではなく、国王陛下とコトハ殿との関係が友好的であり、一方で国王陛下がコトハ殿の上に立つわけではない。命令権は無く、あくまでも協力関係である。これを示す必要があるのだ」
「なるほど・・・」
「先ほどの出迎えの話にも絡むが、我々はクルセイル大公領を自治国のようなものと認識している。それを行動で示す予定なわけだ」
なるほど。道中でレーノが言っていた話のまんまか。
確かに前世の知識でも、大公が治める場所を「大公国」として独立国家のように扱っていたこともあった。税を納めず、命令権も無い。そりゃ、一国の貴族というよりは、自治国の国主といった方が分かりやすいか。
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