第202話:出迎え

カーラルド王国の王都キャバンに到着した私たちは、一番近い門に向かった。

遠くからでも分かる大きな壁は、かなり遠くまで続いており、王都の大きさを実感できた。


門には、王都へ入るための長い列ができていた。建国式典に合わせて商品を持ち込もうとする商人、物見遊山や人が増えるのに合わせて多く出されている依頼目当ての冒険者、同じく近隣の町や村から遊びに来た市民など、門の周辺は人で溢れかえっていた。


私たちもこの列に並ぶのかとゲンナリしていた所、門の方から数騎の騎馬が近づいてきた。

どれも立派な装備に身を包んだ騎士だ。乗っている馬も、白を基調とした綺麗な馬具を装着している。スレイドホースではないのだろうがきちんと訓練され鍛え抜かれたであろう軍馬だった。


列の先頭にいたマーカスが相手を止めて誰何する。


「そこで止まれ! 何者だ!」

「私はジバーン・フォン・カライユ。近衛騎士第3部隊第1小隊の小隊長をしている。失礼ながら、クルセイル大公殿下の馬車列で間違いないだろうか」

「いかにも。我々はクルセイル大公殿下の馬車列である」

「相分かった。近衛騎士団長、延いては宰相閣下の命で、クルセイル大公殿下を王城までご案内したい。一緒に来てはいただけないだろうか」

「・・・暫し待たれよ。大公殿下に確認する」


そう言ってマーカスが馬車に近づいてくる。


「コトハ様。近衛騎士が迎えに来たようです。王都の門から出てきたことや装備品、そして把握している近衛騎士団の騎士の中に、あの男の名前がありますので、間違いは無いかと」

「そっか。別に付いていって問題ないよね?」


一応レーノに確認するが問題ないとのこと。

どうせ王城に滞在するんだし、この行列をスルーできるんだから問題ないよね。まあ、さすがに貴族用の門とかあると思うけどね。


「マーカス、案内をお願いしようか」

「はっ」



それから私たちは、先導する近衛騎士たちの案内で混雑を横目に王都の門をくぐった。


王都へ入ると、目に付くのはそこら中で行われている工事だった。そこかしこで建物を絶賛建築中といった様子で、多くの人たちが必死に働いていた。思えば、あの行列の中には王都へ出稼ぎに来た人もいるのかもしれない。

聞いた話では、王都では元々のカーラ侯爵領の領都を王都として相応しいように改造中だとか。区画を整理し直し、貴族街やそれぞれの役所を設置する。また都市の大きさをそれまでの倍以上にする。合わせて王都としての威厳と守りの実用性を考えて大きく強固な壁を作る。また、これから人が増えることを想定して多くの建物を建設中らしい。


この世界の建築は、魔法の役割が大きい。そのため重機を使う現代の建築と変わらないかそれ以上のスピードで建物が建てられる。とはいえ、当然人の手で行う作業も多くある。同時並行で多数の建物を建築しているため、人手が大量に必要なわけだ。


これまで立ち寄ったどの都市よりも人が多く、そして道も広い。渋谷・・・とは言わないまでも、日本の繁華街と比べても負けないほどの人混みであり、なんとなく懐かしさを感じた。


私たちは門をくぐってから、真っ直ぐ続く大きな道を進んでいた。

その先に見えてくるのは、都市を囲う壁にも劣らず大きく強固な壁。そしてその奥にはいくつかの塔が見える。そして近づくにつれて、人の数も減っていき、反対に巡回する騎士の姿を多く目にするようになってきた。周囲の建物は、どれも大きく豪華なものばかりになりつつある。


「これが貴族街ってやつか」

「おそらく。元々は、大貴族とはいえ一貴族の治める領都だったことを考えると、この短期間によくここまで整備されたものだと驚きますね」


私の呟きに、レーノが返す。

ちなみに馬車にはレーノとポーラにノリス、レビンがいる。カイトたちは別の馬車だ。そんなポーラとノリスは、王都に入って直ぐははしゃいで馬車の外を見ていたが、思ったより長い道のりに飽きたのか、寝てしまっている。


「そうだね−。入って直ぐの所は建設中の建物ばっかだったから、こっちを優先したんだろうね」

「はい。国のほとんどの貴族がここに集まるわけですし、他国からも来賓がありますからね。最低限、王城周辺は整えたのでしょう」


まあ王都、首都は国の顔とも言える都市だ。ラシアール王国の王都がどんな感じだったのかは知らないが、カーラルド王国はラシアール王国と規模自体は変わらない国になるのだから、王都の整備に手を抜くわけにはいかないのだろう。


「そういえば、私たちを案内してくれてるのって近衛騎士って言ってたよね?」

「はい」

「近衛騎士って国王とか王族を守るんじゃないの?」

「仰るとおりです。ですが、近衛が守る対象としては他国の要人も含まれます」

「他国の要人?」

「はい。式典などで招かれた他国の賓客は、当然自前の護衛がいます。ですが、それに加えて近衛も帯同し、護衛を行うのです。まあ、仲の良い国に限られますがね。他国の賓客に万が一のことがあれば事ですから」


・・・なるほど。そういえば前世でも、大統領や首相なんかの要人が外遊すると、自分たちの警護に加えて、訪問先の護衛も付いていた気がする。日本でも、外国のお偉いさんが来日する際には、警察が警護してたしね。


「・・・でもそうすると、私って外国からの客扱いなの?」

「近いものでしょうか。コトハ様はカーラルド王国の貴族ではありますが、その地位は王家に引けを取らない。国王が命令を出せないわけですからね。そう考えると、極めて友好的な関係にある小国の王族、と見なしても不思議はないのかと。いずれにせよ、近衛が守る対象とはなり得ます」

「ふーん」

「加えて、近衛は国の顔でもあります」

「顔?」

「はい。必ず王家の者の側におり、王家の顔とも呼べる存在です。そのため、王家にとって重要な相手の出迎えには、自国の貴族であっても近衛が出ることはよくあることです。コトハ様が王家にとって重要な相手なのは疑いようもありませんし、その意味でも近衛一択だったのでしょう」

「なるほどねー」


まあ、別に悪い気はしない。

要するに、近衛騎士が出迎えるほど、私に気を遣ってくれているってことだしね。

近衛騎士は、一部優秀な平民もいるが、その多くは貴族の三男以下で構成されている。彼らの就職先という側面も否定できないが、重要なのはその忠誠心だ。近衛騎士の役目は王族を守ること。そのためには、生半可な忠誠心では足りない。その点、原則として王家に忠誠を誓っている貴族の子息であれば、信用できる。まあ、例外もいるが、類型的に信用性が高いことに違いはない。


私たちを出迎え、先導してくれている近衛騎士も貴族だ。レーノ曰く、カライユ伯爵家の四男らしい。カライユ伯爵家は旧カーラ侯爵家とは長い付き合いで、過去にはカライユ伯爵家の娘さんがカーラ侯爵家に嫁いだこともあるとか。その四男であれば、カーラ侯爵家改めカーラルド王家を守るに最適な存在と言えよう。





思ったよりも長かった道のりを経て、王城の正門に到着した。

うちの領の入り口を守る扉ゴーレムやガッドで見た門、そして先ほどくぐった王都の門に比べて遥かに大きく、そして豪華な両開きの門が開く。


ゆっくりと進んでいく馬車から外を見ると、先導してくれている近衛騎士と同じ装備を身に付けた騎士たちが、両サイドに等間隔で並び、剣を抜いて掲げている。


「ポーラ、ノリス。結構なお出迎えだよ」


2人を起こすと


「わー、凄い! これってコトハ姉ちゃんが来たから?」

「どうだろうね」

「恐らくそうだと思います。先ほど申しましたように、友好国の賓客を招いた場合に、その到着を盛大にもてなすことはよくあることですから。整列しているのは近衛騎士のようですし、コトハ様に向けたものでしょう」


レーノがそんな解説をしてくれる。

・・・良いんだけどさ、こんなお出迎えをしてくれるんなら、ちゃんと到着予定とかを伝えておくべきだったと思うよね。



近衛騎士が並ぶ長い道を抜けると、大きな建物の前に付いた。高層ビルなんて見慣れていた私にとっても、デカいと感じるような大きな建物。その迫力が、デカさを感じさせる。そしてその至る所に、様々な装飾が施され、全体として荘厳な雰囲気を醸し出している。

・・・・・・王城、か。


馬車が到着した入り口には、見覚えのある人たちが並んでいた。

アーマスさんとラムスさんだ。


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