第206話:一息ついて
ミリアさんに禁術だという実験を行ったのがダーバルド帝国なのかどうかは、国の方でも調べてくれることになった。
仮にダーバルド帝国であれば、サイル伯爵領を襲った魔獣・魔物の大群を生み出すことができるような存在が多く作り出されるかもしれない。確かに、ミリアさんやその取り巻きの戦闘能力はたいしたことはなかった。しかし、ミリアさん曰く、彼女は初期の実験体らしい。今でも実験が続いていれば、かなりの戦闘能力を持つ相手が生み出されているかもしれない。それは国防の観点から重大な懸念事項であり、急ぎ諜報部によって、調査が行われることになったのだ。
これで話も終わりかと思ったら、最後にハールさんが、
「そうだ、コトハ殿。明日の夕食なのだが、招待されてくれぬか?」
「夕食?」
「ああ。私の家族・・・、まあ王族だな。それを紹介したく」
「そういえば。ハールさんの家族に会ったこと無いかもね」
「うむ。カイト殿とポーラ殿が、フォブスやノリスと仲良くしているのを見て、是非うちの孫とも、と思ってな」
「お孫さん? 確かに2人の年が近いのなら、同じくらいの孫がいても不思議じゃないか」
「ああ。私には息子が3人、娘が1人おる。娘は、コトハ殿もよく知るフォブスとノリスの母、ミシェルだ。だから、フォブスとノリスも孫ではあるのだが、2人は王族ではない」
「そうなの?」
「ああ。ミシェルは降嫁した扱いになっておる。まあ、嫁いだのは私が王族になる前だがな」
「なるほど・・・」
「息子3人のうち、長男ベイル、次男ガインは結婚しており、それぞれ子がおる。次男ガインの息子はまだ5歳と2歳で幼いが、長男ベイルの子は、13歳の長男と11歳の長女の2人だ。できたら、カイト殿たちと仲良くなってくれたらとな」
「ふーん。だって、カイト、ポーラ」
長い話で暇そうにしていた2人に話を振ってみる。
カイトはしっかり話についてきて、内容を理解していたようだけど、ポーラは早々に飽きてシャロンとホムラとじゃれていた。
「えっと、僕はあまり友だちがいないので、仲良くなれたら嬉しいです。でも、王族の方と・・・」
「別にいいんじゃない? さっきの話だと、私たちは自治国の王家? 統治者?みたいな存在らしいし」
「た、確かに・・・」
「ああ。むしろ、王族となってしまった彼らにとっては、身分差を気にせずに仲良くできる友人というのは貴重でな。嫌で無ければ、頼みたい」
「わ、分かりました。お話してみたいです」
「ま、カイトたちが仲良くできそうなら仲良くすればいいよ。もちろん無理強いはしないし」
「当然だ。そんなわけで、夕食に呼ばれてくれるか?」
「うん。喜んで」
私たちはハールさんに付いていた執事、ゴーランさんによって客室へと案内された。
「こちらの部屋をお使いくださいませ。そちらの扉から続いて3部屋になっております。ご自由にお使いください。お付きの方は、向かいの部屋にどうぞ。横並びで15部屋用意してあります。更に部屋が必要でしたら、お申し付けください。また、部屋の外に遣いの者を待機させておりますので、ご用命がございましたら、何なりとお申し付けください」
「分かったわ。ありがとう」
「では、失礼致します」
ゴーランさんを見送り、改めて部屋を見ると、先ほどの応接室とは比べものにならない程に豪華な部屋だった。一目見て王城の一室と分かるような豪華さだ。泊まったことも実際に見たことも無いけど、高級ホテルのスイートルームよりも豪華なんだと思う。
部屋の広さは、高校の学校の教室の倍くらい? 初めて見る、お姫様用みたいな天幕付きのベッドに、高級そうなソファー、細部まで装飾が施された机や椅子に、でっかい鏡等々。他にもこの世界に来て初めて見るような高級そうな物品が並んでいた。
カイトとポーラも部屋の豪華さに驚き、ポーラはしっかりはしゃいでいる。カイトは何やらおっかなびっくりしながら、部屋を見て回っている。
「うちの屋敷やギブスさんのお屋敷も、豪華だなーって思ってたけど、ここは別格だね」
私が呟くと、レーノが、
「うちは、実用優先ですからね。ですが、今後は貴族の客を招くことにもなることを考慮すると、こういった豪華な部屋を用意する必要があるでしょうね」
「そうだねー・・・。サーシャとか招待したいし」
「はい。それで、コトハ様。この後はいかがなさいますか?」
「ん?」
「先ほどの国王陛下との会談後、ゴーラン殿と打ち合わせを行いました。コトハ様の出席が求められている行事は、3日後の謁見と、10日後の建国式典及び爵位の授与式です。それ以外は、予定が空いております」
「明日の夜の食事もね」
「はい。そちらは非公式ですが、重要な行事となります。後は、建国式典の前後で王都に集まっている貴族によって晩餐会、パーテイーが多く開催されると思います。コトハ様が王都へ到着したことはすぐに伝わるでしょうから、招待が多く届くかと」
「うぇー・・・」
「無視することもできますが、バイズ公爵家だけ、若しくは6大貴族家を加えて7家の招待に応じるのが無難かと思います。もちろん、コトハ様が出席したい貴族家のパーティーがあればそちらを優先されて大丈夫です」
「うーん、そうは言われても・・・。ギブスさんのところとか?」
「サイル伯爵家ですか。確認致しますが、あの騒ぎがあったばかりですし、パーティーの開催は見送るかもしれません」
「そっか」
「それから、コトハ様にお許しいただきたいことが」
「ん?」
「王都に構える屋敷を探しにいってもよろしいでしょうか」
「ああ、そういえば買うつもりだったっけ。任せていい?」
「はい。明日から探しに行って参ります。最終の購入前に確認いただければ」
「うん。お金は足りるよね?」
「はい。リン殿にかなりの量の金貨を持ってきてもらいましたので」
王都におけるクルセイル大公領の屋敷の購入は、レーノたちに任せることにした。貴族区画の物件や土地は、王都に到着した貴族が我先にと買いあさっている。とはいっても、いくら金持ちな貴族であっても、最も不動産価格の高い王都の物件を何件も購入できるわけではない。多くて4つ、5つ。1つでも用意できれば十分という貴族も多くいる。
うちの領にはお金はある。だが、人がいない。領民の総数はもちろん、騎士や領主直属といえる人たちの数は、貧乏な準男爵家よりも少ないかもしれない。もちろんそれで不便はしていないのだが、王都に複数屋敷を構え、それを管理するだけの人員がいるかと問われれば、否だ。
貴族が王都に複数の屋敷を構えるのは、貴族家用、使用人用、騎士団用などの用途に加えて、高級な宿として整備し運営したり、屋敷を購入する余裕が無い貴族に貸したりすることで、継続的な収入を得るためだ。転売目的は少ないが、それ以外は前世の不動産投資と変わらない。
そう考えると、ますますうちの領が複数の屋敷を用意する必要は無いように思える。当然この辺の事情はレーノも分かっている、というかレーノに教えてもらったので、うちの領に適した屋敷を探してくれることだろう。
♢ ♢ ♢
翌朝私は、マーカスと騎士2人を連れて王城の中を歩いていた。先導してくれているのは2人の近衛騎士だ。王城内での移動でも、彼らは護衛してくれるらしい。私たちが借りている部屋の前の廊下にも待機していたしね。とはいえ、さすがに息が詰まるので、少し離れて歩いてもらっている。
カイトは日課の訓練をうちの騎士団数名と一緒に王城の庭を借りて行うとのことで早々に出かけていった。しばらくはキアラをカイトの護衛扱いにしているので、キアラも一緒だ。ポーラは昨日の移動や長い話し合いが疲れたのかまだ寝ていた。レーノは早速、文官を連れて屋敷探しに向かっている。
そんな中、私は王城の図書館を目指していた。この世界に来て本を読む機会はあったが、基本的に高級品である本を自由に読む機会は無かった。いや、お金の問題ではなく、そもそも本を置いている店が少ないのだ。トレイロ商会のお店に少しあったくらい。
そこで聞いてみたところ、王城には図書館があるらしい。元々カーラ侯爵家が所有していた本に加えて、旧ラシアール王国の王城に所蔵されていた本や取り潰された貴族が所有していた本をこちらに移したらしい。そんな図書館で、この世界の常識的なことに加えて、これまで独学でやってきた魔法について何か新しい情報を得ることができないかと思い、図書館に向かっていた。
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