第194話:支配階級?

生命体・・・・・・、私にはそれ以外の表現ができなかった。


魔獣とも魔物とも違う、そんな存在。生きているとは思うが、それすら微妙。

フォレストタイガーに似ている気がするが、額に3つ目の目があり、鳥のような翼と虫の翅のようなものを1つずつ背中に生やしている生命体。

オークのような大きな身体に、3本の脚と5本の腕を生やした生命体。5本の腕は、左右の肩から2本ずつと、お腹から1本生えている。

そしてその奥からは、1人の『人間』? いや、耳の形を見る感じは『エルフ』? しかし、顔の右側が仮面のようなもので覆われ、身体の所々から金属のようなものが飛び出ている。右腕と左脚も金属のように見える。そして何より、この真ん中のヤツが放つ魔力、オーラは鳥肌が立つような、そんな禍々しさを感じるものだった。


試しに『鑑定』してみたが、よく分からなかった。出てくる文字が、文字化けしているような感じで、少なくとも読み取ることはできなかったのだ。



「何なんだあれ・・・」


みんなが思っていた疑問を口にしたのはフォブスだった。

まだ距離はあるが、その異常さは十分に感じることができる。


「コトハ、あれは・・・」

「私にも分かんないよ・・・・・・。 あんな化け物見たこと無いって・・・」

「コトハお姉ちゃん、あれが支配階級?」

「・・・多分。最初に感じた魔力の強さはあの真ん中のやつだと思う・・・。でも、あんな禍々しさは無かったんだけど・・・」

「コトハ様・・・」

「とりあえず、敵なのは間違いないと思うけど・・・」

「そうですな・・・。全員、最大限に警戒しろ! 敵は未知の魔物だ! 油断せず、陣形を崩すな!」


マーカスが指示を出し、騎士が動く。

サーシャの護衛騎士たちは、サーシャを庇うように前に出ている。サーシャはあれを見て恐怖かおぞましさかで、戦意を失っているし仕方ないだろう。

カイトたち3人はいつも通り陣形を組み、ノリスを下げている。おそらくだが、ノリスではあれに敵わない。サーシャたちでもだ。



私たちが警戒する中、敵が何かしゃべり出した。


〔ナぜ、われワれを、こうゲキ、する〕


そんな声が聞こえた。

まともな相手が話しているとは思えない、壊れたような声。しかし、間違いなく真ん中にいる『エルフ』に似たアレが発している声だ。


〔ワレわレが、なにヲした。わレわれは、にげテきた。こコに、いる。たすケテ、ほしカッタ〕


逃げてきた? 助けてほしかった?


「どういうこと? あなたたちがこの荒野に住み着いた。多くの魔獣・魔物を従えて。そして、近くに住む人たちや旅人を襲った。だから私たちはこの群れを討伐に来た。それが理由だし、助けを求められる意味が分からないんだけど?」


そう返してみた。

まあ、魔獣・魔物からすれば生きるために必要な狩りなんだろう。そして生きるためにこちらも戦う必要がある。その先は、勝った方が生き残るという単純な話だ。助ける云々は関係ない。

・・・・・・というか、さらっと返事したけど、こいつ話せるの? 魔獣・魔物とは、今まで従魔契約を結べば意思疎通が図れることはあっても、会話できたことはない。ましてや、今回は敵同士だ。


〔アれは、なかマでハ、ない。かっテに、つイてきた。ワレわレとハ、かンケイ、ない〕


仲間じゃない? 勝手に付いてきた?


「じゃあ、あなたは何者なの? どう見てもまともな状態には思えないけど」

〔われワレは、じッケンたい。からダニ、べツのいきモノの、カラだをつけラレタ〕


実験体? 別の生き物の身体を付けられたって・・・

確かに、四足歩行しているやつには、取って付けたような翼と翅が生えている。そして額の中央には目も。翼自体はシャロンの種であるベスラージュがいるが、左右で形が違うのは不自然だし、そもそも虫のような翅が獣のようなこいつにあるのは変だ。

オークのようなやつには、不自然な腕や脚。別の生き物の腕や脚を取り付けた?


そして真ん中のやつ。金属で覆われている部分や金属が飛び出しているような部分。生き物かはともかく、何か組み込まれていると言われても不思議では無い。そして仮面に覆われたやつの顔の右目の辺り。その目の辺りに見覚えのある煌めきが見えた。あれは魔石だ。それも濃い紫色、いや黒色に近いか。ゴーレムの動力源となる魔石に魔力を最大限込めた時の色に近い。

・・・・・・魔石が顔に? というか、アレは『エルフ』じゃないの?


疑問が増えていくが、これ以上の時間の猶予はなさそうだった。

左右にいる相手の魔力が高まっていくのを感じる。それに合わせて真ん中のやつも。仮に相手の言っていることが正しいとして、こいつらはどこかで実験に使われ逃げてきた。その道中で、強いオーラに惹かれたのか怯えたのか魔獣・魔物が勝手に配下に加わった。配下と言っても指示を出してはいないのだろうが。そしてここに流れ着き、住み着いたわけか・・・


「マーカス、あれは“敵”で、いいんだよね?」

「・・・正直分かりません。話している内容からは、魔獣・魔物の“長”的な立ち位置に違いないのでしょうが、その意識は無い。とはいえ、こちらに友好的とも思えません」



ゆっくり歩く3体は、もうすぐで『石弾』や『風刃』の射程内に入る。少なくともこちらが攻撃できる範囲に入るということは、いつ向こうが攻撃をしてきても不思議では無い。

今の私たちは対処に悩み少しずつ後退して距離を保っているが、それも長くは続かない。背後に一定の距離を残さなければ戦いで不利になるし、決断する必要がある。


そう考えているとき、突如レーベルたち3人が現れた。


「コトハ様。詳しい説明は後にいたしますが、あれら3体は可及的速やかに排除する必要がございます」


と、そんなことを言いながら・・・・・・・・・・・・



 ♢ ♢ ♢



突如現れたレーベルたち3人。そして排除する必要がある、と。

・・・穏やかじゃないなー。

そもそもレーベルたち3人には周辺一体の調査をお願いしていた。魔獣・魔物の群れがどこからやってきたのか分からないので、その調査と更なる群れの襲来を考えてだ。


「レーベル、説明は後って言われても・・・」

「簡単に申し上げますと、アレらはこの世の理に反する存在。既に失われた、いえ、消し去ったと思っていた技術によるものです。確認した限りでは、更なる敵の襲来はありません。ですので、アレの処理を」

「・・・・・・分かった。後できちんと説明してよね」

「御意」


よく分からないが、あのレーベルがここまで焦っているのだから、従うのが正しいのだろう。それに、アレが良からぬ存在だというのは、なんとなく理解できるし。


そう思い、戦闘態勢をとろうとすると、


「ま、待ってください!」


キアラに遮られた。


「どうしたのキアラ?」


キアラが大声を出すことは珍しいので聞いてみると、


「あ、あそこの、真ん中にいるのは『エルフ』じゃないですか?」

「まあ、そう見えなくも無いけど・・・」

「『エルフ』で、しかも助けを求めています。だったら、私は助けたい、です・・・」

「キアラ・・・」


キアラの言い分も分かる。しかし、果たして助けられるのだろうか?

レーベル曰く、この世の理から外れた存在。それは、まあ、見た目から言わんとすることは分かる。それに、醸し出しているオーラも、禍々しく不快なもので・・・


「キアラ様。お気持ちはお察し致しますが、それはできかねます。アレはもはや、『エルフ』ではございません。助けることも・・・、できなくなっています。既に、手遅れです・・・」

「・・・・・・そんな。でも、会話ができているし・・・」

「それは驚きなのですが、いずれにしましても時間の問題です。直ぐにたがが外れて暴走状態になると思われます。そうなる前に排除しませんと。アレの・・・・・・、被害に遭った『エルフ』の苦痛も、増すだけです・・・」

「苦痛・・・」

「はい」

「キアラ・・・・・・」

「レーベルさん。倒すしか、無いんですよね?」

「左様にございます」

「・・・分かりました。コトハさん、真ん中の『エルフ』は、私に相手をさせてください」

「キアラ?」

「今がどういう状態であっても、真ん中の人は『エルフ』です。私の同胞なんです。苦しんでいるのなら、私が解放してあげたいんです。お願いします!」


キアラが言いたいことは分かる。それにさっきまで辛うじてできていた会話の中でも、アレは助けを求めていた。そしてレーベルの説明・・・

しかし、おそらくアレはかなり強い。キアラ1人では・・・


「コトハお姉ちゃん!」

「コトハさん!」


カイトとフォブスが呼んできた。

よし、そういうことなら。


「分かった。真ん中の『エルフ』はキアラ、カイト、フォブスの3人に任せるよ。カイト、フォブス、キアラをお願いね」

「「はい!」」

「ありがとうございます! カイトとフォブスもありがとう!」

「よし、それじゃあ両サイドの2体は私たちで片付けるよ!」

「「「おうっ!」」」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る