第195話:同胞のため

〜キアラ視点〜


目の前にいる異形な存在。しかし、その真ん中にいる存在は、間違いなく『エルフ』だと分かりました。

見た目がどう、ではないんです。感じる雰囲気、魔力。それは、懐かしさを覚える同胞のものでした。お母さんが死んでから初めて感じた同胞の気配でした。


しかし、レーベルさんが言うにはもう救うことはできない。彼なのか彼女なのかは、見た目からも声からも分かりませんが、本人は「助けて」と言っていました。できることなら助けてあげたい。けれど、それは叶わない。


意図したかはともかく、真ん中の『エルフ』がここにいた魔獣・魔物を集めたのは間違いがないのだと思います。そして、おそらくそんなことを本人は望んでいない。私にできることは・・・・・・


「カイト。フォブス。お願いです、力を貸してください」

「もちろん」

「ああ、任せろ」


頼もしい2人です。

思えば、お母さんが死んで、ジーンから逃げて盗賊に捕まって・・・・・・

そこで、カイトに助けられたことは、最大の幸運だったと思います。カイトに助けられて、フォブスにも出会って、2人に出会ってから私の人生は変わりました。2人がそんな高貴な身分だと知った時は腰を抜かしそうになりましたが、私の知っている貴族とは違いました。私を快く受け入れてくれて、一緒にいてくれて。

そしてコトハさん。カイトのお姉さん。血の繋がりはないとのことですが、単に血が繋がっているよりも強い関係で結ばれている正真正銘の姉弟。コトハさんのお陰で、私は魔法が使えるようになりました。まだまだ鍛錬の最中ですが、カイトたちに出会うまでには想像すらできなかったような、諦めていた魔法を使えるようになりました。


この幸運を、この力を、活かすのは今でしょう。

本来は、カイトたちに、コトハさんに恩返しするべきなのでしょうが、まだそれには力不足です。けれど、目の前にいる同胞を苦しみから解放することはできるはずです。



左側にいた大きな虎のような魔物はコトハさんとポーラちゃんが攻撃を仕掛けています。敵を煽って、遠ざけてくれています。

右側にいたオークのような魔物は、騎士団長のマーカスさんの指揮の下、騎士ゴーレムが5本ある腕から繰り出される攻撃を防ぎ、騎士さんたちが何度も切り掛かって攻撃しています。ホムラさんも大きな爪でダメージを与えています。


皆さんのおかげで、真ん中の相手に集中することができます。

私は前に出て、右手に剣を構えます。剣は、昔使っていた長剣から、少し短く扱いやすいものを、『ドワーフ』のドランドさんに作っていただきました。しかも、切れ味増強と刃こぼれ等の細かい傷が自動で修復される、自動修復機能が付いた魔法武具です。そんな高価なものを受け取れないと思ったのですが、私のために作ったと言われて、ありがたく受け取りました。そして左手には丸い盾を装着しています。騎士ゴーレムが装備している大きな盾とは違い、手の甲を覆う様な盾です。これを装着しても、左手は空いているので魔法は問題なく使えます。この盾の主な目的は相手の攻撃を受け流すことです。


ガーンドラバルに住み始めてから、マーカスさんたち騎士さんに多くのことを教えていただきました。この丸い盾を使った戦闘スタイルもその1つです。騎士の中でも、細かい動きを得意とする人や、冒険者で斥候などの役割を担っている人は、この盾を使うことが多いらしいです。大きな盾の様に、相手の攻撃を正面から受け止めることはできません。ですが、相手の攻撃を受け流しつつ、相手の攻撃によって生じた隙を突き攻撃に転じる。『風魔法』で、自分の動きを速めることができる私にはピッタリでした。


〔おマエは、えるフ、か。エルふは、つみナソンザイ。いきテハ、なラナイ〕


・・・・・・何を言っているのでしょうか。


「あなたも『エルフ』ではないのですか!?」

〔わたシハ、えるフ? ちガウ・・・、ちガワナイ。わたしハ、えルフ。いきテは、なラナイ、そンザイ〕


意味が分かりません。目の前の『エルフ』は、今話している相手は、自分が『エルフ』だったと分かっているようです。なのに、どうして「生きてはならない」などと、言えるのでしょうか・・・


「キアラ、耳を貸すな。というか、アレは洗脳されてしまってるんだろう・・・」

「洗脳、ですか?」


横にいたフォブスがそんなことを言ってきます。洗脳って、『エルフ』が生きてはいけないなどと、そんな洗脳をするなんて・・・


「多分、ダーバルド帝国だね。ダーバルド帝国では、『人間』以外は魔物と同じ存在と見なされる。多くの『エルフ』や『魔族』が奴隷になっているんだ。そして、奴隷を扱う連中は、奴隷の反乱を防ぐため、奴隷をより従順にさせるために、奴隷たちの尊厳を踏みにじる。存在を否定する。あの『エルフ』が、どんな扱いを受けていたのかは分からないけど、ダーバルド帝国で奴隷として長い間扱われてきたのは間違いないと思うよ・・・」

「・・・・・・そんな」


カイトの説明を聞いて、頭がどうにかなりそうでした。

ダーバルド帝国が『エルフ』を奴隷にしていることは知っていました。しかし、そんな酷い扱いをしていたなんて・・・

あげく、実験に用いて救えないほど傷つけた。

・・・・・・許せないです。


「キアラ。怒りはもっともだけど、まずはあの人を。早く楽にしてあげよう・・・」

「はい・・・。2人は相手の注意を引いて、足止めをお願いします。全力で、一撃で仕留めます」

「分かった」

「任せろ」


するとレーベルさんから声を掛けられた。


「キアラ様。一撃で仕留めるのであれば、右目の魔石、あの魔石を破壊するのが最適でしょう。その、魔物が魔石を破壊されたら死ぬのと同じです・・・」

「魔石を・・・。分かりました、ありがとうございます」


私たちを敵と認識したのか、相手は『水魔法』や『風魔法』で攻撃をし始めました。しかしそれらの攻撃は、カイトとフォブスが難なく防いでいます。いえ、威力はかなり高いのですが、なんというか狙いが雑です。手当たり次第に攻撃している感じです。


私は魔力を高めます。マーカスさんに教わった、以前出会った『エルフ』の冒険者が使っていたという技。それをカイトたちやコトハさんと一緒に改良した私の魔法。

自分の身体に風を纏わせ、風と一体になります。そして、風の力を借りて加速し、そのまま敵を貫きます。


「行きます!」


私の合図に応じて、フォブスが複数の魔法で相手を足止めします、そしてカイトが相手に迫って注意を引きました。

今です!

私は相手に向かって走り、魔法で風を起こしながら、起こした風の力で加速しジャンプします。


『ウインドアクセル』、成功です。

そのまま高速で相手に向かって突き進み、右目の魔石を切りつけました。





〔あ、アア、ガァだぁアァー!!!!!〕


魔石を切りつけた相手は、もの凄い悲鳴を上げながら後ろ向きに倒れました。

右目を押さえのたうち回る様子は、とても辛く悲しいものです。ですが、決して目を背けてはいけないと、そう思いました。


〔アガやァァー!!!!!〕


何度も何度も悲鳴を上げ、私を睨む相手。

その様子に、目を背けたくなりそうでしたが、きちんと見届けなければなりません。


少しして、相手の動きが止まりました。

・・・・・・そして、


「あり、がとう。最後が、あなたのような、『エルフ』で、良かったわ。私は、救われ、ました・・・」


そう言いながら涙を流す相手・・・、いえ『エルフ』の女性。


「そ、その! 助けてあげられなくて・・・」

「いい、のよ。朧気ながら、残っている記憶の、限りでは、私は、誰も攻撃していない、わ。傷つけられ続けた、人生だったけど、自分が傷つける、側に落ちなくて、良かった。ありがとう」

「そんな・・・」

「私は、ミリア。あなた、は?」

「キアラです! 私はキアラと言います!」

「そ、う。キアラ。ありが、とう。最後に、1つ、お願いが、あるのだけど・・・」

「何ですか!? 私にできることなら何でも・・・」

「ふふっ。あり、がとう、キアラ。同胞を、『エルフ』を、助け、て。まだ、多くの、仲間が、捕らわれて、いる。私は、初期の、実験、体。まだ、同じ苦しみを、味わっている、仲間が、いるの。みんなを・・・」

「約束します! 助けに行きます! 必ず助けます!」

「そう。あり、がとう。お願い、ね」


その言葉を最後に、ミリアさんは息を引き取りました。


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