第193話:残党処理
私たちの攻撃から逃れようとする魔獣・魔物を、カイトたちが、サーシャとその護衛騎士たちが、そしてマーカスとジョナス率いる騎士団が処理していく。
個々の戦闘は難しいものではないが、脅威なのはその数だ。少なくとも1000体、いや上空から見下ろした感じではもっといた気がする。その内、4割は私とポーラの『隕石雨嵐』で押しつぶされ、また破裂した欠片によって穴だらけになっている。3割くらいはホムラの『火炎魔法』で、チリも残さず消え失せるか、消し炭になるか。
そして残りがカイトたちの方へ逃げていく。
カイトたちの戦いを横目で追っていたが、おそらく3本ある道のどこからも敵は逃げ出せていないと思う。つまり、全部始末している。敵はカイトたちを襲っているのではなく、逃げようとしている。そのため他の個体が戦っているのを利用して、こっそり逃げようとするやつもいる。それを丁寧に、漏らさず始末しているのだから、かなりの集中力だ。
そして今し方、少し強そうなオークとゴブリンを、カイトたちが分かれて始末した。残りの雑魚はノリスとサーシャたちだ。ノリスとは模擬戦をすることもあったので、それなりに強くなっていることは知っていたが、やはり驚くべきはサーシャだろう。クルセイル大公領の関係者以外でここまで魔法による戦闘能力が高い人を初めて見た気がする。そうだろうとは思っていたが、やはりサーシャには足手纏いにならない自信があったのだろう。
『隕石雨嵐』を撃ち終わり、下を見る。
敵の数は大分減ってきており、その多くがカイトたちのいる逃げ道からは遠い所にいる。そいつらがいる背後には1つの空洞、おそらくこの群れの支配階級が潜んでいる洞窟がある。
どうやら、私たちに反撃するのも、カイトたちの方向へ逃げるのも諦め、自分らのボスに助けを求めようとしているみたいだ。
「ポーラ、少し高度を下げながら残ってるのを各個撃破するよ」
「了解!」
元気な返事をしたポーラが高度を下げながら、『風刃』をばらまいていく。私は少し距離がある敵に対して『石弾』を放つ。近距離では『風刃』が、中距離では『石弾』が狙いやすく、威力も高い。もちろん集中力を高めればどちらでも対処できるが、多数の敵に対して攻撃をばらまくのならば、この使い分けになる。
攻撃をしながら、
「ホムラ! あなたも残ってるのを始末して! 洞窟前に追い詰めるよ」
とホムラに指示を出す。
ホムラは了承の意を伝えると、大きく旋回し、これまでのブレス攻撃から火球を放つ攻撃へと変更した。
やっているのは『火魔法』で行う『火球(ファイヤーボール)』だろうが、『火炎魔法』で撃つことによってその威力・・・、というか放たれる火の玉が桁違いに大きくなる。狙いを付けることなど不要なくらいには。
『火魔法』と『火炎魔法』、その違いはよく分からない。そもそも魔法は魔力を通して魔素に指示を与え、イメージした事象を生じさせるものだ。そのため、『火魔法』や『水魔法』といった区別すら本質的ではない。おそらくだが、繰り返し使う内にそのイメージが固まり定式化されることで、『火魔法』や『水魔法』として身に付いた状態になるのだろう。『身体強化』などのスキルもそんな感じだったはずだ。
そう考えると、『火魔法』の状態よりもさらに火に関する魔法がスムーズに使えるようになった状態が『火炎魔法』なんだろうか。ホムラを見ている限り、威力は私の魔法の比ではない。しかし、使用している魔力量自体はさっき放った『火球』と私が放つ『火球』とではそれほど差は無いように感じる。
・・・・・・まあ、結局はこれからもいろんな魔法を使って検証していくしかない。
そんなことを考えながら残りを始末し、逃げ道を洞窟方面に限定した。この洞窟に別の抜け道があれば厄介だが、ノバクさん曰くそんな情報は無いらしい。それに、少なくとも逃げ出した魔獣・魔物は洞窟の入り口付近に固まっている。洞窟へ入らないのは、中にいる支配階級に遠慮してか、行き止まりだからか・・・
どちらにしても、追い詰めたわけだ。
私たちが動きを変えたのを見て、カイトたちも残りを始末しながら段々と集まってきた。
こうして、洞窟の前に群がる魔獣・魔物の生き残りと、それを広く取り囲む私たちという構図が出来上がった。
魔獣・魔物は、私たちの方を見て各々唸り声や悲鳴のような声を上げているが、動くものはいない。私たちが隠すことなくオーラを全放出しているのもその原因の1つだろうが、先程までの虐殺劇。それを目の当たりにし、辛うじて生き延びている連中には、私たちの方に突っ込んでくるという選択肢は無いようだった。
敵が動かないことを確認し、状況の確認と相談をする。
「マーカス、被害は?」
「はっ! 戦死無し。負傷4名、いずれも軽傷です。騎士ゴーレムは1体が破壊され、3体が腕を失いましたがそれ以外は軽微な損傷のみです。腕を失った3体については、バックアップに回しています」
「了解。ご苦労様。カイトたちも怪我は無いね?」
「うん。4人とも無傷だよ」
「よし。サーシャのとこは? 怪我をした人はいない?」
「大丈夫よ。敵の大半はカイト君たちが片付けてくれたからね」
「そっか。そしたら、そこに集まったのを始末して、洞窟にいる支配階級を引きずり出そうか」
「そうね。コトハがやるの?」
「ん? サーシャやる?」
「やらないっていうか、できないわよ。あんな大量の魔獣や魔物を倒すなんて」
「そうだねー・・・。細かいの撃っても時間掛かるし、『隕石雨嵐』だと上手いこと岩肌に隠れられると倒しにくいから・・・・・・、よし閉じ込めて燃やすか」
「燃やす?」
「うん。まあ、見てて」
私はそう言うと、ポーラに耳打ちをする。それからホムラにも指示を出す。
「任せて!」
ポーラの返事を聞いてから、マーカスたちに
「少し下がってて。多分、結構熱いよ」
そう言ってからホムラと空中へ飛び上がる。
ポーラに出した指示は簡単。洞窟を中心に荒野の窪みの壁沿いに集まっている魔獣・魔物を囲うように土の壁を作ること。当然強度は高めに。
ポーラは指示通りに魔獣・魔物を囲う壁を作り上げた。窪みの岩肌を背に、洞窟の穴が開いている以外は台形の様な形で魔獣・魔物は封じられた。開いているのは上のみ。
その上に、私とホムラはいた。
「よし、ホムラ。いくよ!」
ホムラが頷き、私は『火魔法』の『火球』を、ホムラは『火炎魔法』の『火球』をとにかく下に向けて撃ちまくった。狙いは適当、別に直撃させることが目的じゃ無い。
放たれた火球は、窪みの岩肌とポーラの作った土壁に囲われた魔獣・魔物に命中する。当然、命中したものは死ぬがそれだけでは終わらない。ホムラが火球を連発する中、私は唯一開いていた魔獣・魔物の上側を土壁で塞いでいく。
魔法で生み出した火も、何かに燃え移った後は普通の火と同じで燃焼を続けるには酸素がいる。なので空気穴は開けておく必要がある。
完全に塞いだわけではないため、中からは断末魔が聞こえてくるがそんなものは気にしない。連中にも事情があるのだろうが、この世界で敵を殺すことを躊躇うのは最も危険な行為の1つなのだから。
そうして10分ほど経過すると、断末魔が全く聞こえなくなった。
まず、上の壁を取り除くともの凄い熱気がこみ上げてくる。それと同時に大量の死骸が転がっているのが見えた。火に焼かれたものは黒ずみ、熱気によって肺が焼けただれたものは割かし綺麗な状態で。・・・いや、自分で身体を掻き毟ったのか首から胸に掛けてズタズタになっているものも多くいる。我ながら惨い殺し方をしたものだ。とはいえ、予定通り残りを始末できた。
「熱気の除去と、洞窟にいる支配階級引きずり出すために大量の水を放り込むね! カイト、ポーラ、手伝って! 残りのみんなは、いつ戦闘になってもいいように準備して!」
上空へ来たカイトとポーラと一緒に、水を大量に作り出して流し込む。幸い地形的に洞窟の方が低いらしく、水は熱気を取ると同時に、どんどん洞窟へと流れ込んでいった。
そして水を流し始めて少しすると、もの凄く強く、そして不快な魔力を感じた。当然、洞窟の中からだ。
水を流すのをやめ、土壁を全て取り除く。
みんなの元へ戻り、洞窟の入り口を注視していると、3体の生命体が出てくるのが見えた。
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