第192話:常識とは

〜カイト視点〜


コトハお姉ちゃん、ポーラ、ホムラの3人が上空へと飛び立った。

今回の作戦は、3人の魔法による攻撃がどれだけ敵の数を減らすことができるかに懸かっている。昨晩何やらポーラと2人で相談していたみたいだけど、コトハお姉ちゃんとポーラの2人だと良からぬ方向に進みかねないので心配ではある。主に”やり過ぎる”という方向で。

とはいえ、敵の数がかなり多いこと、こちらの戦力に限りがあることは事実なので、仕方がないような気もするけど・・・・・・


3人を見送ってから僕たちも配置に着いた。一緒にいるのはフォブスとキアラ、ノリスそしてサイル伯爵家の長女サーシャさんとその護衛の騎士さんたちだ。


「フォブス、キアラ、いつも通りに」

「おう!」

「はい」

「ノリスはキアラの近くで抜けてきた敵をお願い。安全第一で」

「はい!」


僕たち3人がガーンドラバルの周辺で魔獣狩りをしていたときのフォーメーションは僕とフォブスが前に、キアラが後ろになる。これはキアラが魔法を使えるようになったことで考えたものだ。

僕は基本的に素手での格闘や双剣を用いて素早く動き回りながら敵を撹乱する役目。フォブスはオランドさんたちに鍛えられた剣術を基礎に、ここ数ヶ月で飛躍的に向上した身体能力をフルに活用して戦う。加えて、それなりに威力のある魔法攻撃も織り交ぜる。キアラはコトハお姉ちゃんとの訓練により覚醒した魔法を活用する。ハイエルフという種族によるものか『風魔法』が得意なキアラは、コトハお姉ちゃんやポーラがよく使う『風刃』を多用している。威力は2人に劣るが、それでも魔獣に致命傷を与えることは可能な威力を秘めた攻撃をばら撒いている。加えて、『土壁』を使いこなすことで、僕とフォブスの動きをサポートしてくれる。

そして今回はノリスもいる。ノリスの戦闘能力は、言い方は悪いが弱いフォブスのような感じ。同年代とはいえポーラと比べるのは間違っている気がするけど、4人の中では戦闘能力は一番低い。とはいえ、ここ暫くガーンドラバルで一緒に訓練していたこともあり、複数体のゴブリンやオーク程度であれば問題なく倒せるようになっているはずだ。


そしてサーシャさん。いつの間にコトハお姉ちゃんとあんなに仲良くなったのか分かんないけど、コトハお姉ちゃんに同年代の友だちができたのは良かったと思う。

サーシャさんの魔法は、コトハお姉ちゃんに出会う前までの常識に照らせば異常だと思う。詠唱はかなり短いし、魔法の威力も高い。サーシャさんが『土魔法』で作った壁は、ゴブリン程度の攻撃で壊されることはないと思う。改めて、コトハお姉ちゃんに出会う前までの常識はなんだったんだろうと考えてしまった。



僕たちの準備が整ってから少しして、コトハお姉ちゃんたちの攻撃が始まった。

空から大量の大きな岩が地面に向かって落ちていく。そして落ちた岩の多くが破裂する。


「おい、カイト。コトハさんとポーラのあれって・・・」

「・・・何も言わないで。またとんでもないことを考えたよね・・・・・・」

「・・・いつか私も使えるようになるのでしょうか・・・」

「いや、キアラ。あれはなんか別もんだぞ」

「うん。それに使う機会もないと思うしねー」

「カイト君。コトハって本当にすごいのね」

「ええ、まあ。正直、よく分からないレベルですけど・・・」

「カイトも似たようなことできるんじゃねーの?」

「いや、知ってるだろフォブス。僕は2人と違って魔法はあんまりね」

「カイト君もコトハたちと同じ種族なのよね?」

「いえ、厳密にはコトハお姉ちゃんは僕とポーラと違います。多分、コトハお姉ちゃんが上位の種族?になるんだと思います。僕たちは元々『人間』なので」

「驚きだよな。進化なんて」

「けど、キアラも『エルフ』から進化したと思われる『ハイエルフ』だし、特別ってわけでもないんじゃない?」

「いや、私は生まれつきみたいですし。進化したわけではないので・・・」


そんな風にフォブス、キアラ、そしてサーシャさんと話しているとコトハお姉ちゃんとポーラが降らせた岩石の雨から逃げてきた魔獣・魔物がこちらに向かってきた。


「よし、みんな! 1体残らず片付けるぞ!」


フォブスの号令に、各々が応じて準備する。



 ♢ ♢ ♢



どれだけ戦ったか分からない。いや、時間にすればまだ10分程度だと思う。けれど倒した敵の数はかなり多い。

こちらに向かってくるのはゴブリン、オーク、ウルフ、グレートボアなど。単体ではもちろん複数体いても、たいした脅威にはならない。クライスの大森林に住むようになって、日々ファングラヴィットやフォレストタイガーを倒すようになってから、僕の常識も変わってしまった。


しかし今回の敵は、いつもとまるで違うところがある。それは、僕たちを敵と認識してはいないこと。別になめられているわけではない。敵の頭にあるのは“逃げること”、それだけだ。

上空から無数の巨大な岩石が降り注ぐ。その奥では大きなドラゴンがブレスを吐いて回っている。そんな死地からどうにか逃げ出そうと、僕たちのいる道目指して突進してくるのだ。


そんな魔獣・魔物は、直前まで僕たちのことを認識していない。なので、多くの敵は簡単に処理できる。しかしただ生きることに全力になる相手は予想も付かないような行動をすることがある。


「フォブス、上だ!」


1体のグレートボアが、群れているゴブリンの行列によじ登り、その上を走り出した。ゴブリンを道として、飛び越えようとしているのだろう。

それをフォブスが正確に切り捨てる。そして、ゴブリンの道を『水魔法』で押し戻す。押し戻されたゴブリンの上空からは大きな岩石が降ってきた。


「カイト、助かった」

「うん。とにかくここから脱しようと必死になってるみたい」

「はい。死に物狂いの魔獣・魔物がここまで危険とは・・・」

「ノリスは大丈夫か?」

「はい、兄上。まだまだ大丈夫です」

「よし、その意気だ!」

「サーシャさん。大丈夫ですか?」

「ええ。それにしてもコトハから聞いていたとはいえ、皆さんお強いですね。ね、ノバク」

「はい。正直、驚き、と言いますか、負けていられませんな」

「そうね。コトハもポーラちゃんも、ホムラさんも頑張っていますしね。さぁ、また来ますよ」


サーシャさんの言葉に従って見ると、再び魔獣・魔物が押し寄せいていた。そしてその先頭にいるのは・・・


「みんな! 先頭の2体はヤバいかも」

「はい。何やら強い魔力を感じます」


魔力を感じるのに長けたキアラには分かったようだ。

戦闘にいる2体の魔物。1体は大きなゴブリンで1体はオーク・・・、普通のオークよりは強そうだ。


「オークは僕が。ゴブリンはフォブスとキアラでお願い。残りはノリスとサーシャさんたちにお願いします!」


みんなの了承の意を確認してから、僕はオークの元へと向かった。



先頭のオークは僕を認識すると、敵だと判断したのか立ち止まった。そして脚に力を込めたかと思うと、ジャンプして迫ってきた。

僕はそれをギリギリのところで躱して、空中へ飛び上がる。どう見ても普通のオークよりは強いけど、話に聞いたオークジェネラルよりは弱そう。ハイオークってやつかな? そう考えるとさっきのゴブリンはホブゴブリンか。


「まあ、倒さなきゃいけないのは一緒だけど、ね!」


そう叫びながら、ハイオークの首筋を剣で切りつける。しかしその剣はハイオークの持つ斧のような武器に阻まれた。

斧を振り抜いたハイオークは、そのまま斧で僕を狙ってきた。それをもう一方の剣で流し、斧を持つ手首を切り落とす。


鈍い気持ちの悪い呻き声を上げながらハイオークがバランスを崩した。それを見て、一気に距離を縮めハイオークの顔面に飛び膝蹴りを食らわすと、ハイオークは後ろに倒れた。

僕は膝を振り抜いた勢いそのままに空中で後ろ向きに一回転すると、翼をコントロールして空中で体勢を整えた。そしてそのまま双剣を構えてハイオークへ迫り、その首を切り裂いた。


ハイオークが死んだことを確認して周りを見ると、キアラの魔法で足止めされたホブゴブリンの胸をフォブスの剣が貫いたところだった。そしてノリスとサーシャさんたちは、一緒にいた多くの魔獣・魔物を片付けていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る