第187話:協力要請

そんなわけで、マインさんは私とサーシャさんが仲良くなることを望んだわけなのだが、それは望み通りになったと思う。

いや、サーシャさんとかなり仲良くなれた気がするんだよね。サーシャさんの雰囲気も話す内容も、私にとっては居心地のいい、話しやすい内容だった。同年代の女性と話したのは私も久しぶりだったが、ここまで一瞬で打ち解けられるものかと驚いたくらいだ。というか、こんな友だちが前世でも欲しかったよね・・・・・・


まあ、それはさておき。

既に「サーシャ」、「コトハ」と呼び捨てで、敬語も使わずに話すくらいには仲良くなっている。最初は立場を気にしてかかなりガチガチだったんだけどね。

「お友達に敬語使われるのは・・・」って言ったら、覚悟を決めたように呼び捨てのタメ口で話してくれるようになった。


サーシャは、さすがは伯爵令嬢ということもあって、完璧な淑女になるべく日夜勉強し研究しているようで、ドレスのことだったり宝石のことだったり、香水のことだったりと、とても詳しかった。

今の私はレビンが作ってくれた藍色のドレスを着ている。このドレスは、生地は最高品質のものをトレイロ商会で購入しているし、細かい魔石を生地に散りばめるなど、かなり値の張るものになっている。しかし、あまり派手なドレスを着るのは嫌だったので、デザインや装飾は抑えめにしてある。ド派手で豪華なのはポーラが着ているからね。


そんな私に、サーシャは自分の衣装部屋を案内してくれた。サーシャも普段は私と同じく落ち着いた、あまり華美ではないドレスを好むようだが、一応ド派手なタイプも持っているようで、いろいろ紹介してもらった。私はこの世界のトレンドや貴族令嬢のトレンドに詳しいわけではないが、女として生きてきたわけで、綺麗なドレスを見れば人並みに興味が湧く。そうして、2人でキャッキャしながら、いろんなドレスやアクセサリーを見て回った。



 ♢ ♢ ♢



サーシャとの楽しい時間も終わり、夕食の時間になった。

夕食は、私たちやフォブスたちを招いての簡単な晩餐会となっていた。オーク討伐のお礼も兼ねているとのことで、マーカスやジョナスも参加している。参加していない騎士たちには、別室で豪華な夕食が振る舞われるそうだ。


サーシャと話しながら食事をとっていると、ギブスさんとロッドさん、それにトームさんがやってきた。


「コトハ様。少しよろしいだろうか」


ギブスさんがそう切り出すと、


「お父様! 今、私がお話ししてるのに」


とサーシャが不満の声を上げた。

それだけでギブスさんのメンタルはボロボロになったようだが、どうにか持ち直して、


「すまんサーシャ。だが、どうしてもコトハ様にお話ししなければならないのだ」


と向き直った。

さっきの話の続き、かな?

そう思った私はサーシャを宥めつつ、目線でマーカスとレーノを呼んだ。


「それでギブスさん。話ってのはさっきのやつ?」

「はい。あれからボーマンや担当している者とも相談したのですが、やはりコトハ様の、クルセイル大公殿下のお力添えをお願いするほかなく・・・」

「うーん、具体的には何をしてほしいの?」

「はい。どうにかして、我が領に押し寄せた魔獣・魔物を討伐しようと考えております。ゼールの森にオークが住み着いていたことは把握できておりませんでしたが、ゼールの森にはそれ以外に新たに住み着いた魔獣・魔物はいませんでした。そうすると、新たに魔獣・魔物が住み着いているのは3箇所。スーン近くの荒野、スーン南にあるガルの森、スーンの南東にあるファシュの森になります。それらの場所に、弱いものでゴブリンやコボルト。強いものでオークやグレーウルフが住み着いていると思われます」

「そこらを捜索して、魔獣たちを討伐してほしいってこと?」

「いえ。現在の我が領の騎士団や兵士、冒険者によって2箇所は対処することが可能です。ですので、残り1箇所の対処をお願いしたいのです」

「なるほど・・・」


言ってしまえば、魔獣・魔物の討伐か。なんならうちの騎士団が最も得意としていることだ。それにクライスの大森林の外の魔獣や魔物の強さには疎いが、あれより強いことはない。というか、強くてオーク。そう考えると危険も少ないように思える。


とはいえ、数が多ければ危険も増える。それに、オークジェネラルのような上位種がいる可能性も否定できない。今回は騎士も騎士ゴーレムも数が限られているし、そこは慎重に決める必要がある。


「少し、相談させて」


そう断って、マーカスとレーノを呼んだ。


「どう思う?」


私の問に、まずはレーノが答えた。


「今後のことを考えれば引き受けてもよろしいかと。コトハ様の思惑はともかく、向こうは切羽詰まっているようです」

「そりゃそうでしょ。魔獣や魔物がわんさか押し寄せてるんだし」

「いえ、そういう話ではございません。これはサイル伯爵領の問題であり、サイル伯爵に責任がある問題です。それを他領の、しかも爵位がかなり上のコトハ様に援助を求める。これは、今後コトハ様からどんな頼みをされても断れないような“借り”を作ることになります。普通の貴族であれば、どんな手を使ってでも避けようとするはずです」

「でもその手が無い、と」

「はい。冒険者ギルドに強制依頼を出そうにも、そもそもスーンの冒険者ギルドに詰めている冒険者の数が減っている。仲の良い貴族に助けを求めようにも、建国式典のために王都に向かっていたり、そもそも騎士団の整備が間に合っていなかったりと頼れない。そんな感じでしょうか」

「そんなピンチに、たまたま私たちが来た」

「はい。コトハ様の武勇はともかく、うちの騎士団の実力は未知でした。ですが、100体いるオークの群れを壊滅させるほどの戦力を有している。加えて強そうな従魔。そして騎士ゴーレム。選択肢は無かったのでしょう」

「なるほど・・・・・・。じゃあ、レーノの見立てでは、私に大きな“借り”を作ることになるのを受け入れてまで、私に頼んで領を守ろうとしているってことね?」

「まあ、それが領主の責務ですから、当然といえば当然です。しかし、どの貴族にもできる決断か、と言われればそうではないかと」


なるほど。

まあレーノが批判的に物事を見るのはいつものことだし、それがレーノの役目だ。それに、これまで聞いた話やギブスさんと話していたときに感じた人柄から察するに、“借り”とかはともかく、領を守りたいのは間違いないだろう。


「マーカスは? いまの戦力で対処可能? ああ、もちろん私も手伝うし、多分カイトたちも手伝ってくれるよ。ここんとこずっと馬車にいて暇そうだったから」

「そう、ですな・・・。コトハ様方が参戦されるかはさておき、対処は可能です。最初から騎士ゴーレムをフルに投入する、というのが前提ではありますが」

「相手の強さは?」

「もちろん油断はできませんが、クライスの大森林の魔獣や魔物と比べるまでもありません。オークジェネラルのような上位種であっても、きちんと準備を整えておけば対処可能です」

「・・・本当に? 昨日は私とシャロンがいなかったら危なかったと思うけど・・・・・・」

「お恥ずかしながらそれは否めません。しかし、昨日の戦闘でクライスの大森林での戦闘との違い、騎士ゴーレムの数が減った状態での戦闘については把握できております。次は必ず」

「・・・・・・そっか。まあ、私も一緒には行くからね」

「は、はい。お手間をお掛けします」

「大丈夫だよ。っていうかさ、さっきサーシャと仲良くなって、ギブスさんとも話をして、助けてあげたいなって思ったのが一番だから。そんな私の我が儘でもあるんだし、それくらいはねー」



相談を終え、ギブスさんたちの元へ戻った。

そして、


「分かりました。クルセイル大公領は、サイル伯爵領を襲う魔獣・魔物の群れへの対処に、騎士団の戦力を提供します」


と告げた。


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