第188話:作戦会議
協力要請への受諾に対して、サイル伯爵領の皆さんからは口々にお礼を言われた。ギブスさんやその家族はもちろん、ボーマンさんたち騎士団の関係者や文官の上の方の人たちなど大勢にだ。サーシャも当然事態は把握していたようで、抱きつきながら感謝を告げてきた。
晩餐会が終わり、私たちは会議室のような部屋へと案内されていた。こちらはカイトたちもいるし、サイル伯爵領サイドにも伯爵家の皆さんに加えて、先ほどお礼を言われた騎士たちや文官たちまで勢ぞろいだ。
みんなが揃ったことを確認し、ボーマンさんが話し始めた。
「それでは、対策会議を始めたいと思います。僭越ながら、私、サイル伯爵領騎士団騎士団長のボーマンが進行を務めさせていただきます。まずは、ギブス様」
「ああ。改めて、クルセイル大公殿下、クルセイル大公領の皆様方、我が領の危機の対処へのご助力、誠に感謝申し上げます」
私たちが頷き、それを確認してからギブスさんが、
「ボーマン。頼む」
「はい。では、まずは騎士団副団長のトメライの方から、ここ数日間の調査で把握できた状況について説明させていただきます。トメライ」
「はっ。騎士団副団長のトメライでございます。よろしくお願い致します。早速ですが、少数の魔獣・魔物が街道や町、村の近くに出没していますが、それは町を警備している騎士や村の自警団によって対処が可能です」
これは通常の魔獣・魔物への対応として、問題なく処理できるわけね。
みんなの反応を確認してから、トメライさんが続ける。
「急ぎ対処が必要なのは、大きく3つの群れになります。1つはゴブリンの群れ。少なくとも200体はいると思われます。次にグレーウルフを中心とした狼系の魔獣の群れ。これも200体前後はいると思われます。最後が、様々な魔獣・魔物が集まった群れになります。数は300体を超えると思われます。確認できている魔獣・魔物としては、ゴブリン、コボルト、オーク、オオカミ系の魔獣、グレートボアなど。また、最後の群れに関しては、通常は共闘することのない魔獣・魔物が共闘していることから、何らかの上位個体、支配階級の個体がいるものと思われます。もちろん、ゴブリンの群れ、オオカミの群れにも支配階級がいる可能性はあります。複数種の群れがスーン近くの荒野、ゴブリンの群れがガルの森、オオカミ系の魔獣から成る群れがファシュの森を縄張りとしているようで、定期的にそこから出て街道などで商隊や冒険者を襲っています。以上が、現在掴めている魔獣・魔物の規模になります」
トメライさんは、サイル伯爵領の大きな地図を示しながら、説明した。そして話し終えると一礼し着席した。
それを確認してからボーマンさんが、
「遺憾ながら、現在掴めている情報は敵の居場所と大まかな種類に数のみ。それぞれ確認できている以上の戦力があると仮定すると、我が領の騎士団で対処可能なのは冒険者込みで2箇所になります。残りの1箇所をクルセイル大公領の皆様にお願いしたく思います」
なるほど・・・・・・
にしても数が多いな。さっきマーカスに聞いた話では、ゴブリンもグレーウルフも単体や数体程度では何ら脅威ではないらしい。しかし、それが200体を超えてくるとなるとかなりの脅威になる。
それに最後の群れ。近しい種同士では厳密には種族が違っても群れることはある。それが、2つめのオオカミ系の魔獣の群れだろう。しかし、ゴブリンやオークなど低レベルながらも知能のある魔物が他種と群れることは基本的にない。それに、オオカミ系の魔獣がオークと群れているのも聞いたことがないらしい。
となると、トメライさんが言っていたように支配階級、オークジェネラルのような存在がいる可能性がある。魔獣も魔物も、自分より強い存在には従うことが多い。群れている木端よりも遥かに強い存在がいると考えるのが妥当か。
「じゃあ、最後の群れを私たちが引き受けるよ」
「「「っ!!」」」
私の発言に、サイル伯爵領の人たちは言葉を失っている。対してうちの連中は、「やっぱり」って感じだ。理解してくれてるようで嬉しいのか、なんか呆れられているようで悲しいのか・・・
「お、お言葉ですがクルセイル大公殿下。トメライが申しましたように複数種から成る群れには支配階級が・・・・・・」
「うん。だから私たちがやる。はっきり言えば、単純な戦闘能力ならこの中で私が1番だと思う。次がカイトかな? ああ、レーベルたちは除いてね。あなたたちは、オークジェネラルを倒せる?」
「い、いえ、それは・・・・・・」
「それにうちの騎士団は、強い個体との戦闘は慣れてる。反対に、数が多い相手は得意としていない。今回は騎士の数も少ないしね。だから、少々強引な方法で敵の数を一気に削って、残りを潰していくのがいい。そうすると、縄張りが荒野ってのも都合がいいのよ。魔法の火力を気にせずにぶっ放せるしね」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
こういうのは遠慮や謙遜をしてはいけない。正しい戦力把握と、適材適所での配置ができないと、死人が多く出る。
情報では、複数種の群れは数が1番多いようだけど、私とポーラ、ホムラがでかいのぶっ放せばそこはあんまり関係ない。100体程度は誤差になるだろう。使ってみたい魔法もあるしね。そう考えると森林火災を気にしなくていい立地の方がいい。
それに、魔力量ベースで考えれば、サイル伯爵領の人たちではオークジェネラルは倒せないと思う。魔力に頼らないもの凄い剣の達人とかがいたら申し訳ないけど、そんな人いたらもっと早く出てきてると思うしね。
「マーカス殿はどう思われますか?」
会議室を沈黙が支配する中、ギブスさんがマーカスに問いかけた。
「そうですな・・・。コトハ様が仰ったことに賛成です。これは、私の立場がどうという話ではなくです。まず数ですが、コトハ様、ポーラ様、ホムラがいれば、200や300の魔獣どもは一瞬で始末が可能です。もちろん、森への被害を気にしなければという留保は付きますが。次に支配階級についてですが、自分は昨日、オークジェネラルと戦いました。連戦の疲労や戦いにくい場所であったという言い訳をしても、力の差はかなりありました。途中でコトハ様にお助けいただけなければ、大怪我、下手をすれば死んでいたでしょう。また、日頃ファングラヴィットやフォレストタイガーといったクライスの大森林の魔獣を相手にしています。支配階級の周りには他より強い取り巻きがいる可能性もありますが、そういった取り巻きを相手するのは、得意と言えましょう」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
再び沈黙が会議室を支配した。
まあ今の質問の意図は、私の強さをよく知らない中で、戦いのプロである騎士団の長に意見を求めたって感じかな?
そりゃまあ、見た目サーシャさんと同い年の貧弱そうな若い女なわけで、それがここにいる誰よりも強いって言われてもピンとは来ないか。
沈黙を破ったのは、再びギブスさんだった。
「コトハ様。私には、コトハ様の強さがよく分かりません。ですが、オークの群れを討伐していただいたことは紛れもない事実。それに今の話にあったオークジェネラルについては死体の一部を確認しております。そして、コトハ様が大公となられた経緯についても、聞き及んでおります。故に、私はコトハ様を信じ、荒野に住み着いた魔獣・魔物の群れの討伐を、クルセイル大公殿下及びクルセイル大公領の騎士団にお願いしたく存じます」
「はい、引き受けました」
「ありがとうございます。・・・・・・それはさておき、先程からカイト様やポーラ様のお名前もありましたが・・・」
「ああ。カイト、ポーラ、行くんでしょ?」
「うん」
「久しぶりに戦いたい!」
私の問いかけに元気よく答えるカイトとポーラ。やっぱストレス溜まりまくってたんだろーな。
それに、フォブスとノリス、キアラもやる気満々といった感じだ。フォブスとノリスは後で相談しなきゃだけど、これは子どもたちも参戦させるしかないよねー・・・
「ほらね?」
「し、しかし・・・」
「少なくともポーラは、私に次いで魔法の威力が高いから今回の作戦では重要だし、カイトもかなり強いよ? ここは私を信じてよ。大丈夫だからさ」
「・・・わ、分かりました」
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