第182話:後処理

もの凄い光の奔流がオークジェネラルを襲った。そしてその光が消えた後には、立ち尽くすオークジェネラルの下半身が残されていた。

私の手から放たれた光線が消えて少し、オークジェネラルの下半身がバタンと倒れた。


「・・・ふぅー」


上手くいった。実戦で使うのは初めてだったし、ここまで魔力を込めて撃ったのも初めてだったけど、かなりの威力があったみたいだね。


後ろのオークの方に目を向けると、こちらもシャロンとマーカスらによってほとんどのオークが始末されていた。残りは10体くらいかな?



特に問題は無さそうなので、シャロンたちに任せて騎士ゴーレムが守る村人の生き残りと怪我をした騎士の元へ向かった。


怪我をした騎士は4人。中でも1人、若いメイロンという騎士が大怪我をしていた。


「容態は?」


近くに座っていた騎士に声を掛ける。この騎士はオークに鎧の上から切られたようで、鎧に大きな傷が付いていた。その際の衝撃や疲労を考慮して、この場に残るように命じられたようだ。


「はっ!」


この騎士、名をリスランは、私を見ると立ち上がり礼をした上で、


「メイロンは腕や脚の骨が複数折れております。おそらく他にも。幸いなことに頭部への直接のダメージは無いようで、魔法薬を飲ませ、目立つ外傷に塗り込んであります。一度意識が回復した後、再び眠っております」

「そっか。ありがとう。座ってていいよ。あなたも怪我してるみたいだし」

「はっ! 失礼致します」


魔法薬は最初、拠点に迎えたアーマスさんたちに『アマジュの実』のことを隠すために、『アマジュの実』のジュースを提供したものだった。

最近ではレーベルの栽培している種々の薬草と『アマジュの実』を調合し、単に『アマジュの実』を食べるよりも、より怪我に効くようにした魔法薬を作っている。その魔法薬は、騎士団に渡され、騎士団の基本装備の1つとなっている。



リスランや休んでいる騎士にそのまま休むように伝え、助けた村人の方へ向かった。

助けた村人たちは、少し落ち着いたのか4人の子どもたちを中心にして集まっていた。騎士から貰ったのであろう干し肉を囓っている子もいる。


「みんな大丈夫? 怪我とかは無い?」


洞窟から出る際に、目立つ怪我が無いことは確認済みだが、ここまでの道中で怪我をしていたり、あの時気づかなかった怪我とかがあったりするかもしれない。そう思い聞いてみたのだが、


「・・・・・・え、えっと」


彼女たちの代表、というわけではないが私の問に答えてくれていたアルスの様子がおかしい。やっぱみんなを襲ったオークが近くにいるから?

そう思ったが答えは違ったようで、


「お姉ちゃんは人じゃないの?」


と、助けた子どもの1人に聞かれた。


「え?」


思わず素っ頓狂な声を上げて聞き返してしまった。


「だって、お姉ちゃん角と尻尾があるよ? それに羽も」


・・・・・・あ。騎士たちがまだオークと戦闘中であり、万が一に備えて、まだ戦闘態勢、つまり『龍人化』を継続中だった。それはつまり『人間』とは異なる部位、角に翼、尻尾が現れ、腕や脚が変化し、それ以外の箇所も鱗で覆われている状態だ。


旧ラシアール王国、そしてカーラルド王国には多種多様な種族の人型種が住んでいる。町中で『人間』以外の種族を見ることも珍しいことではない。しかしそれはあくまで町の話。小さな村や田舎の村に、『人間』以外の種族が住んでいることは珍しいし、旅人として訪れることも多くはない。


とはいえ、この国では『人間』以外の種族を見下すような発言は御法度とされているし、そんなことをすれば白い目で見られる。

そんなわけで、私に話しかけた子どもの口を、大人たちが必死に塞いでいるのだが・・・


「そうだね。私はみんなとは少し違う種族だからね」


発言した子どもにそう答えた後、後ろにいる大人たちに、


「大丈夫。全く気にしてないから。私は、『魔族』みたいな感じかな。クルセイル大公領の関係者なのは嘘じゃないし、みんなを助けるつもりなのは本音だから安心してね」


そう声を掛けておいた。

それに対してアルスが、


「あ、ありがとうございます。それと、プラムが申し訳ありませんでした。きちんと言っておきますので・・・」

「大丈夫だよ。初めて見たんだろうしね。優しくでいいから教えてあげてね」

「は、はい」



そうこうしているうちに、マーカスたちの残党処理も終わったようで、こちらへ戻ってきた。


「お疲れ様、マーカス。オークは片付いた?」

「はい。目下、戦果とダメージの確認中です」

「分かった。先に聞くけど、死者はいないよね?」

「はい。重傷を負ったメイロンも、魔法薬により一命は取り留めております。他にも怪我人は多数ですが、自力で動けるレベルです」

「そっか。よかった」


戦死者が出なくて本当に良かった。

今回の状況で、私たちが選択した作戦は間違ってはいないだろうと思う。あの時点で考えられる最善策を実行に移し、それを成し遂げた。しかし、重傷者を出してしまったことは反省し、今後に活かさねばならない。もちろん、それを考えるのはマーカスら騎士団だが、騎士団の上に立つ者として、私も真剣に考えなければならない。


私が一人考え込んでいると、マーカスに声をかけられた。


「コトハ様。報告致します」

「うん。お願い」

「コトハ様やシャロンの戦果も含めまして、オークジェネラル1体、オーク96体を討伐致しました。なお、洞窟内で倒したオークは含めておりません。騎士団としては、騎士1名、メイロンが自力歩行、戦闘不能の重傷。ただ、命に別状はありません。他に騎士7名が軽傷です。また、17名の鎧が破壊されました。最後に騎士ゴーレムですが、2体が破壊されました。また、3体が目に見える損傷をしています」

「・・・・・・分かった。洞窟で始末したオークは13体かな。それで、これからどうしよっか。日も暮れてきたし、怪我をしているし騎士や村人を連れて森を抜けるのは厳しいよね」

「はい。動ける騎士2名を馬の元へ向かわせ、本隊へ報告に行かせるべきかと。夜明けとともに、森の入り口での合流を目指します」

「今晩は?」

「オークの死体を片付けて、洞窟の中で夜を明かすのが良いかと。合わせて、洞窟内の再捜索も行えればと・・・」

「・・・・・・分かった。それで行こう」

「はっ!」



騎士を送り出してから、私たちは洞窟の確認を始めた。

洞窟に入って少し進んだ場所の安全を確保してから、村人たちと怪我をした騎士を移動させ、騎士ゴーレムで守りを固めた。


それからマーカスが数人の騎士を率いて洞窟の奥へ向かった。目的は2つ。

1つ目は生き残りのオークがいないかの確認だ。今夜は洞窟を入って少ししたところで過ごす予定だ。もちろん交代で見張りを立てる予定だし、いつも通り『土魔法』で壁を作る予定だ。とはいえ、夜を過ごす洞窟の内部にオークがいる可能性があるのではゆっくり休むことはできないし、洞窟内を捜索し確認をする必要があるわけだ。


2つ目は村人の捜索だ。アルスの話を聞くかぎり望みは薄いと思うが、私は洞窟の半分ほどしか捜索できていないので、洞窟の隅々まで調べる必要があるのだ。それに、生きている村人を発見できなくとも、何らかの遺品を発見することで死亡したことを確認できれば、それはそれで意味がある。アルスら村人たちにとっては、「生きているかもしれない」と願っている方が幸せなこともあるだろうが、現実はそうはいかない。特に、今回の様に村全体が滅んだ場合には、死者数を確認した上で、村の存廃を決める必要がある。まあ、日本の様に村や町ごとの人口を把握しているわけでも、行方不明者や死者数を把握しているわけでもないが、被害を表す指標として、少なくとも私たちはできるだけ正確な死者数の把握が必要となる。どうせ、サイル伯爵に報告する必要もあるしね。


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