第181話:シャロンの本気と新魔法

マーカスたちを助けに行くにしても、助けた彼女たちを放置するわけにもいかない。騎士ゴーレムに守らせておくのも手だが、向こうの状況が分からない以上、簡単に戦力を割けない。そもそも、ゴーレムを知らない領外の人に、「ゴーレムが守ってくれるから」と言っても、信じてもらうのは難しいだろうしね。


騎士ゴーレムを周囲に配置し、全員で騎士の方に向かっていく。

騎士たちが戦っている近くに到着し見ると、まだ50体くらいのオークが騎士たちを取り囲んでいる。そしてその中で、マーカスと元ベテラン冒険者のランパルドが他のオークより存在感の強いオークと戦っている。


その周りを見れば、騎士ゴーレムと思われる残骸が複数、吹き飛ばされた騎士もいる。

そして再びマーカスの方を見れば、マーカスの戦っていたオークが剣をマーカスに向かって振り下ろそうとしていて・・・・・・


「『ストーンウォール!』」


マーカスとランパルドが戦っていたオークが振り下ろした剣が、マーカスに当たる直前、なんとかマーカスとオークの間に土壁を作り出し、その攻撃を防ぐことができた。

しかしあのオークの攻撃力はエグいな・・・。フォレストタイガーの突進すら余裕で耐える私の土壁がひび割れ、次の攻撃は防げそうにない。攻撃するのではないから、魔力を遠慮せずに込めたのにこれだ。


とはいえ、オークの攻撃は一度抑えた。

この隙に、


「マーカス! 一旦、全員下げて!」


私はマーカスに大声で指示を出すと同時に、オーラを解き放った。

これは効果があったようで、あの強そうなオークを含めて、オークたちが一斉に私の方を向いた後、周りのオークたちが後ずさりを始めた。

それを確認してからマーカスが、


「聞いたな! 全員下がれ! 距離を取るんだ! それから負傷者の手当てを。急げ!」


マーカスの指示に従い、騎士たちは一斉に動き出す。途中で私が助けた村人に気づいたマーカスは、怪我をした騎士と騎士ゴーレムを村人たちの元へ向かわせ、騎士ゴーレムで守らせる。


しかしオークたちは簡単には引いてくれなかった。

私のオーラに怯えるオークたちだったが、先ほどの強そうなオークが一喝すると、再びこちらを向いて敵意を向けてきた。

・・・・・・あれがリーダー?


「マーカス、あいつは?」

「はい。おそらくオークジェネラルかと。オークの上位個体で支配階級の個体です。その統率下にいるオークの戦闘能力や連携を高めると言われています。その強さは、森の魔獣にも匹敵するかと」

「・・・なるほどね」


どうりで強いわけだ。

見ればマーカスやランパルドを含めて騎士たちは満身創痍。普通のオークはともかく、オークジェネラルの相手をするのは厳しそうだ。


「マーカス。あいつは私とシャロンで相手をするよ。周りのオークもデカい魔法で雑に叩くから、後処理をお願い」

「し、しかし・・・・・・。いえ、承知致しました。お願い致します」


マーカスは一瞬、何かを言いかけたが、それを止め応じてくれた。

マーカス的には途中で相手を代わってもらうのが嫌なんだろうけど、マーカスも既にボロボロだ。倒れていた騎士の容態も分からず、騎士たちも限界なのに、マーカスまでやられるわけにはいかない。


「シャロン、行くよ。遠慮はいらないから!」


私がそう叫ぶと、シャロンは身体を元の大きさに戻し、翼を広げて飛び上がった。



シャロンは1対の翼を持つ狼型の魔獣。先ほど洞窟でオーク2体をあっという間に処理したように、その身体能力には目を見張るものがある。しかしシャロンの強さとして語るべき内容は、身体能力だけではない。シャロンの魔法。得意とする『水魔法』と『風魔法』の腕は日に日に磨きがかかっている。特に『風魔法』による攻撃は、威力が高く広範囲、そして狙いも正確という凄まじいものだ。


シャロンはある程度の高さにとどまると、ゆっくりと翼を羽ばたかせる。それと同時に魔力の循環が勢いを増す。

シャロンが放ったのは無数の刃。三日月型の風の刃がオークたちを襲う。オークたちは最初の刃で剣を砕かれ、次の刃で腕を切り落とされる。そして3発目以降の刃は、オークの身体に無数の傷を負わせていく。私が使う『風刃』とやっていることは同じだろうが、その威力は段違いだ。


私も石弾を大量に作り、オークの群れに向かって発射する。狙うのは顔やシャロンの刃で傷ついた場所だ。オークの分厚い肉も、切り裂かれていれば関係ない。

シャロンの放つ風の刃と私の石弾を大量に被弾したオークは、1体、また1体と倒れていく。


オークジェネラルにも風の刃や石弾は命中しているが、さすがは上位種。剣で数発受け止めたかと思えば、残りは身体で受け止め、素手で叩き落とした。とはいえ、特にシャロンの攻撃はオークジェネラルの身体に傷を負わせているし、これを受け止めていた剣はかなり痛んでいるように見える。


「シャロン! そのまま周りのオークを片付けて!」


私はシャロンに引き続き風の刃による弾幕を維持するように頼み、オークジェネラルに接近する。同時に全身を『龍人化』する。

・・・・・・とりあえずぶん殴ってみるか。


脚に力を込めて斜め前にジャンプし、身体を捻りながらオークジェネラルの顔面目掛けて殴りかかった。

オークジェネラルは剣を間に入れて防ぎ、私の渾身のパンチはオークジェネラルの剣に阻まれた。しかし私のパンチは、シャロンの攻撃で傷んでいたオークジェネラルの剣を粉砕した。


剣が壊れたオークジェネラルは、剣を投げ捨てると、今度は私に向かって突進してきた。2メートル以上の身長があり、それ以上に身体が大きく感じるオークジェネラルは、私に向かってその太い腕を使って何度も殴りかかってくる。


さすがにこの程度の攻撃は、最近使いこなせるようになってきた翼と尻尾をコントロールして空中に逃げることで躱すことができる。

オークジェネラルの攻撃を躱し続け、オークジェネラルが息切れし始めた頃、シャロンの攻撃によりボロボロになっていたオークの一部が逃げ始めた。

しかしそこは、予めオークに迫っていたマーカスやまだ元気な騎士たちによって順に切り捨てられていく。

シャロンも折を見て、使う魔法を一撃の威力の高い攻撃魔法に切り替え、オークを片付けていく。


私もぼちぼち、オークジェネラルを片付けないと。

射線上にシャロンや騎士がいないことを確認しながら、両手に魔力を集めていく。今回使うのは、『龍魔法』。ホムラが身に付けていた『竜魔法』を参考に最近練習していた魔法だ。体内の魔力をエネルギーに変換し解き放つホムラの『竜魔法』はかなりの威力があった。


ホムラが『竜魔法』を使うのを何回も見せてもらいながら、私もそれができないか試した結果、身に付いたのが『龍魔法』。たぶん『竜族』と『龍族』の違いからくるものだろうし、説明も変わらなかった。

その威力は、以前ツイバルドに放った『火炎放射』なんかと比べれば魔力の効率がかなり良いと思う。なにより実戦で使う機会などそうそう無いので、ここで使ってみることにした。


クライスの大森林とは違い、両手に魔力が集まっていくのに合わせて全身で作られる魔力の量は多くない、それでも安全のために必要な量の魔力が作られ体内に残っていることを確認し、また両手に十分な魔力が集まったことも確認した。


「オークジェネラル! これで最後だよ!」


自分でもよく分からない高揚感からオークジェネラルに向かって叫び、最後の魔力を高める。

そして集まった魔力を一度凝縮してから、オークジェネラルに向かって解き放った。魔法を使うときとは違って、生み出すものをイメージすることはない。イメージするのはただ、強いダメージを相手に与えるべく、魔力を解き放つことのみ。



私の突き出した両手から放たれたエネルギー、『龍魔法』の光線は、オークジェネラルを捉え、その上半身を消し飛ばした。


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