第183話:合流
結局、オークの残党も村人の生き残りも発見することはできなかった。
しかし、何人かの村人の遺体を発見できたし、村人たちの遺品も見つけることができた。その中には、生き残って私が保護した村人たちの家族や子どもたちの親の遺品もあった。悲しみに暮れる村人たちだったが、それを発見した騎士に礼を言い、遺品を受け取っていた。
遺体はどうすることもできないので、ゼット村の弔い方を聞き、それに従って火葬した。最大限丁寧に弔うことができたと思う。
洞窟の外に積み上がっているオークの死体は、全て焼却処分されることになった。オークは食用肉としても広く流通しているが、この場にオークの肉を食したい人なんかいなかったし、保存もできないからだ。それに、このオークたちはどう考えても最近余所から移ってきたと思われるので、処分しても食料補給に影響は無い。
そのため、オークの数を把握し報告するためにオークの左手首のみ切り落として別に保管し、残りは燃やすことになった。とはいえ、100体近いオークの死体を燃やすのはかなりの労力であるし、火力の調整も難しい。
とりあえず土壁で周囲を覆い、魔獣を呼び寄せないようにしておいた。朝になればホムラが来ると思うし、任せようと思う。
安全を確保してからは、洞窟の広場のような場所で夜を過ごす準備をした。
といっても、魔法で土のベッドのようなものを作り、人数分の寝床を確保し、洞窟奥へと繋がる通路を塞いだだけだけど。
村人たちと怪我をした騎士を優先的にベッドに入れ、残った騎士に見張りをお願いした。私も見張りをしようと思ったのだが、さすがに断られたからね。壊れた騎士ゴーレムのメンテナンスと必要に応じて身体を修復し、完全破壊された騎士ゴーレムについては、幸い魔石は無事だったので、新しい身体を作っておいた。
食事は森で集めた木の実や小動物だけだったが、人数が少なかったので問題は無かった。水は私がいくらでも作れるしね。
♢ ♢ ♢
翌朝、怪我をしている騎士や村人たちを気遣いながらゆっくりと森の入り口を目指した。
2時間ほど歩いて森の外へ出ると、少ししてマーラが軍馬を引き連れて駆け寄ってきた。
それから少しして、村近くの丘で待機していた馬車列本体と合流した。
どうやら丘に設けた仮拠点には、サイル伯爵領から誰か来た場合に備えて、数名の騎士が残っているらしい。カイトたちは一緒にこちらに来ていた。
ポーラが私を見つけると、
「コトハ姉ちゃん!」
と叫びながら駆け寄ってきた。後にはカイトやフォブスたちが続く。
合流した騎士たちは、怪我をした騎士の手当や村人たちの手当、馬車に積んである予備の鎧への交換などを行っている。
合流と状況の確認が終わったところで、ホムラを連れて洞窟へと戻ってきた。
森の入り口では、再度仮の拠点を設け、夜に備えている。レーノの予想では、明朝にでもサイル伯爵領の関係者が訪れるだろうとのことなので、今夜は森の入り口付近で休息し、今後に備えることにする予定だ。
洞窟の側では、左手首を切り落とされたオークの死体が約100体転がっている。
「それじゃあホムラ、よろしく!」
私がそう言うと、ホムラは身体を元の大きさに戻した。普段は両手で抱えることができるくらいの大きさになっているが、本来は10メートル近い大きさがある。ホムラは真っ赤な鱗が美しいドラゴンの姿へと戻り、ゆっくりと羽ばたきながら空へ舞った。
周りの木々への影響を考慮して、オークの死体の山を囲うように土壁を補っていく。
それからホムラの方を向いて頷く。
ホムラの身体を魔力が高速で巡り、口元に大量の魔力が集まってくる。
その魔力がどんどんと高まり・・・・・・
ホムラの口からもの凄い勢いの炎の渦がオークの死体目掛けて放たれた。
ホムラから放たれた炎の渦は、オークの死体を包み込み焼き尽くしていく。結構離れて見ていたのだが、それでもかなりの熱を感じる。それなりに強力に作ったはずの土壁は、炎の威力に押されてどんどん劣化していくので、何回も壁を作り直していく。
ホムラが炎を放ち始めて数分、多くの死体が骨まで焼き尽くされ、僅かな燃え滓が残るまでになった。
「・・・・・・終わった、かな?」
ホムラに炎を止めてもらい、騎士たちと共にオークの死体があった場所に近づく。未だに空気がかなり熱いが、オークの死体が無くなっているのを確認できた。
土壁を壊し、周辺に水を撒いて冷却しておく。『風魔法』で熱い空気を散らし、オークの死体の焼却処分が完了した。
「ホムラ、お疲れ様。ありがとう」
ホムラを労いつつ、最後の仕上げに取り掛かる。
最後の仕上げ、それはオークが住み着いていた洞窟の入り口を封じることだ。
こうした洞窟は、魔獣や魔物の住処として使われることが多い。元々住んでいる魔獣がねぐらにするのならともかく、今回のオークのように余所からやって来た魔獣や魔物が住み着けば、周辺の環境が変わり、近くに住む人々の生活にも影響が出かねない。
そういうわけで、今回の洞窟は一度、封鎖しておくことになった。
メインの入り口と、昨日私とシャロンが侵入した裏口を『土魔法』で封鎖しておく。強度はオークの攻撃を想定しても破られないように本気の壁を作っておく。
それから騎士と一緒に周辺を確認し、オークの討ち漏らしがいないことを再度確認してから、森の外へ戻った。
♢ ♢ ♢
翌朝、朝食を済ませて今後の動きを確認していると、シャロンとホムラがいきなり警戒態勢をとった。シャロンたちが警戒態勢をとる、それ即ち身体を元の大きさに戻し、魔力を高め身体を震わせながら、唸り声を上げることを意味する。
当然それは、騎士たちや村人たちにも見える。村人たちはオークの襲撃を思い出したのか怖がって集まっている。一方の騎士団は慣れたものだ。シャロンたちが警戒している方向を確認し、マーカスとジョナスの指示の下、ここに残る騎士と警戒対象が来る方向へ向かう騎士に分かれていく。
しかし、それ以上の対応は必要なかった。
近づいてきたのは馬に乗った一団。その数は30くらい。そして先頭には、連絡要員としてゼット村近くの丘に残っていたうちの騎士団の騎士とサイル伯爵領へ伝令に向かった騎士の姿があったからだ。
「マーカス騎士団長! コーヴィーです!」
サイル伯爵領に伝令として向かった騎士のコーヴィーが、大きな声を上げている。
おそらくだが、身体を元のサイズに戻し、今にも飛びかかろうとしているシャロンやホムラの姿を遠目に見て、危ないと思ったのだろう。
当然だが、シャロンやホムラが、私たちの指示に背いて敵に飛びかかることはない。もちろん、相手が攻撃しようとする前には、だ。そのことは騎士たちも当然把握している。日頃から一緒に訓練や狩りをしているし、連携する練習さえしているくらいだ。
とはいえ、既に自動車くらいの大きさになっている白い狼のような魔獣のシャロンと、子どもとはいえ10メートルを超える真っ赤なドラゴンのホムラだ。仲間であっても、警戒され唸り声を上げられれば、怖くなって当然だろう。私もどちらかといえば、そちら側に加えられつつあるが、『龍人化』しなければ『人間』の女に見える。魔力が感じ取れれば『魔族』かもしれないが。そう考えると、分かりやすく怖い見た目というのは、それだけで武器であり難点でもあるわけだ。
コーヴィーや騎士に気づいたマーカスが、私とポーラに目配せをする。
私はホムラを、ポーラはシャロンを宥めて、警戒を解かせ、身体を小さくするように伝える。
シャロンやホムラは、騎士の匂いや魔力を覚えているので、彼らだけならこんな反応をするはずがない。今回反応したのは、一緒にいた30程の騎馬の存在のせいだろう。
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