第164話:領内会議

私の思いつき、森の入り口付近に基地を作るという案は、マーカスとレーノが持ち帰って検討することになった。

マーカスは騎士たちの割り振りを具体的にシミュレーションする必要があるとのこと。レーノは、基地を作った場合の取引等の迅速化による恩恵や情報伝達の迅速化、他の貴族からの接触という長短両所を比較検討してくれるらしい。マーカスはもちろん、レーノは私の疎い貴族社会なんかについてしっかり検討して、私にとっての最善を考えてくれるからありがたい。



それから数日後、定例の領内会議が開催された。

領内会議とは、領の様々な出来事について、担当者が報告し、今後の方針を決めたり、援助や意見を求めたりする場である。会社でいうところの取締役会に近いだろうか。

元々は、トップダウンでいろいろ決めるのが嫌だった私が、それとなくレーノに提案し、興味を示したレーノ主導で開催されたものだ。それがレーノや領民たちにウケて、今では月一の頻度で開催されている。


出席者は、領主である私。文官のまとめ役であるレーノ。屋敷を取り仕切るレーベル。騎士団からは騎士団長のマーカスと、ジョナスとアーロンの両小隊長。生産部門として鍛冶工房のドランドと服飾工房のリーダーでマーカスの妻のメアリさん。農業部門としてレーベルに畑の管理を任されているシャムリヤ。これが基本的なメンバーだ。

それぞれが担当部署の部下などを連れてきているし、領民であれば誰でも傍聴可能であり、許可を得て発言もできる。

そして、この会議では身分や地位に関わらず、忌憚なく意見を述べることが是とされている。最初の数回は、これは建前だと考えて、みんな遠慮していたが、必死の説得の末、最近では遠慮無く反対意見や修正意見が出るようになっていた。



そんな領内会議の場で、通常の業務報告が終わったのを確認してからレーノが、発見された死体についての話を始めた。

この件は、騎士団員以外には知らされておらず、参加者は相当驚いていた。亡くなった人たちの所属についての考察も述べていたが、一番驚かれていたのは貴族の動きについてだったと思う。参加者の多くは、貴族と関わりは無かったからね。


そして最後にレーノが、


「以上の状況を踏まえまして、コトハ様から森の入り口、バイズ公爵領と我がクルセイル大公領の境目付近に騎士団の基地を築くことが提案されました」


と私の提案した基地を作るという案を説明した。

それは、私が思いつきで言ったものよりも練られており、マーカスや騎士団と検討の上で、人員の配置や交替、連絡手段の確立について説明がなされた。

私も検討した結果を聞くのは初めてだったので、あの思いつきをここまで深めてくれたレーノたちに感謝するとともに、感心していた。



レーノの説明を受けて、参加者からいくつかの質問や意見が出た。

ドランドからは、


「いっそのこと、森から領都までを切り開いて、道を整備する方が良くないか?」


との提案がなされた。

確かに、森を切り開いて道を整備する方が、快適だし便利だろう。

しかしそれは、


「道を整備するのには多くの時間と労力を要します。基地を作るだけなら、コトハ様やポーラ様に魔法で囲いだけ作っていただければ終わりますから。それに道を作れば、有象無象が領都へ大挙して押し寄せるでしょう。それは迷惑極まりないことです。領都へ案内する者をこちらで管理できる、基地建設の方が適切かと思います」


と答えた。



次にメアリさんから、


「騎士団の兵力は足りるのですか?」


と質問が出た。

これに対してはマーカスが、


「2カ月前に雇った連中も、使えるようになってきた。それにゴーレムもいる。多少の部隊再編は必要だが、人員的には問題ない。それどころか・・・」


マーカスの回答をレーノが引き取って、


「今回の基地の運用次第では、もう1カ所、基地を建設することを検討しています」


と言ったのだ。

・・・・・・初耳なんだけど?


「レーノ。それってどういうこと?」

「はい。現状の優先が、バイズ公爵領との境界線上であることは間違いありませんが、他にも基地があると便利な場所があります」

「それって・・・・・・・・・・・・、西側?」

「はい。領都から西、ある程度の距離の場所に前哨基地を設け、一定数の騎士団を配置します。それによって、これまでは領都から行っていた、ダーバルド帝国への対策が行いやすくなります。同じく、南と東にもいずれ基地を設けるべきかと思います。森の探索はまだまだこれからですから、拠点となる基地があれば有用かと」

「いやいや、さすがに騎士団の負担が大きいでしょ」

「いえ、そうとも言えません。北側と西側には、一定数の騎士を配置する必要がありますが、探索拠点として用いる南と東は、常駐させるのはゴーレムで十分です。基地自体を魔獣から守ることができれば足りますので。一方で来客対応や情報収集が必要な北には、騎士はもちろんできれば文官も配置したいところです。西側は、交替で巡回する騎士をある程度の数配置する必要があります」

「・・・・・・マーカスとレーノの計算では、今の段階でもそれができるの?」

「はい」

「騎士たちに無理を強いたりはせずに?」

「負担はありますが、騎士を酷使することにはなりません。一方で現在我が領が抱えている、貴族対応、情報収集、ダーバルド帝国、森の探索といった諸問題の解決に繋がる有用な一手となると考えます」



領内会議の出席者から、レーノの提案した基地建設案について反対は出ず、西側にダーバルド帝国対策の基地を設けることを含めて賛成された。私も騎士に過度な負担を強いるのでなければいい案だと思うので許可を出した。


その後は、基地を作ることで必要となる騎士の配置や、物資の移動、複数拠点を持つことにより必要となる農作物や武具の生産量の増加について、各担当者と相談が行われた。

レーノたちが計画していた内容で、物資の補給等も問題ないようで、正式に基地計画が始動することになった。



今回の議題もこれで終わりかと思っているとレーノが、


「そうでした。コトハ様、馬車の購入を許可いただけますか?」

「馬車?」


レーノは領のお金を管理しており、基本的に物資の購入や必要経費の支出などは、自由に行っている。

ある程度の金額のものを購入する際には私の許可を要することにしているのだが、


「コトハ様が建国式典に出席されるのはおよそ4ヶ月後。旅程を考えますと3ヶ月後には出発となるでしょう。オーダーで馬車を注文すると1ヶ月はかかりますし、新たな貴族も多いのでより時間を要するかもしれませんから」

「・・・それは分かったんだけど。・・・・・・マーラたちに乗っていくってわけには」

「いかないですよ。貴族家の当主が自ら馬に乗って移動はさすがに・・・。私的な移動ならともかく、公式な式典への出席ですから。複数台の馬車からなる隊列を組んで、複数の町に寄りながら移動する必要がございます」

「・・・町に寄るの?」

「ええ。こういった移動の際に、道中の町に寄り、お金を使うのも貴族の務めのようなものですから」

「ああ。経済を回さないとってことね」


大変に面倒くさい。

マーラに乗って移動、ホムラに乗って移動。というか自分で飛ぶのが一番簡単だ。

けれど、騎士たちも一緒に行くんだし、私やカイトたちだけってわけにもいかないか・・・

それに、ガッド以外の町に行くのは初めてなので、楽しみな気持ちもある。


レーノ曰く、かなりお金は貯まっているそうだ。ため込んでいても仕方が無いし、同行する騎士たちにお小遣いを渡して、自由に使ってもらってもいいかもしれない。いや、それだとここに残る人たちから不満が出るか。いろいろ仕入れて、みんなに配るのもいいかもしれない。


そういえば、購入する馬車は、新たに作る基地に置いておくとのこと。森の中を移動させるにはドランドの言うように道を作る必要があるし、森の中、つまり領内の移動はどうしようと自由だ。



最後に、目の前に基地を作ることになるので、ラムスさんには事情を説明しておくように指示をして、領内会議はお開きとなった。


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