第163話:これぞ貴族

レーノが言い出した、貴族の使者である可能性。確かに、死体の服装を見る感じ、使者と護衛に見えなくも無いが・・・


「他にも理由はございます。あそこにある遺品ですが、剣も服もとても似ています。護衛が貴族の騎士団所属であったのなら、武具が似通っていて当然です」


うーん、レーノの言う通りな気がしてくるが、イマイチ決め手に欠ける。


そう思い遺品を見ていると、何やら魔力を感じるガラス片のようなもの、欠片を見つけた。


「・・・・・・なんだろ、これ」


欠片は爪くらいのサイズで、衣服にいくつか付いていた。


「それは・・・・・・、いつか見た魔道具の残骸ですね」


私が欠片を眺めていると、レーベルがそんなことを言い出した。


「魔道具って、魔除けの魔道具?」

「はい。それも改良される前の、失敗作の方ですね。ファングラヴィットですら逃げていかない」

「・・・・・・その残骸があるってことは、それで魔獣を避けながら森を進もうと思って失敗したのかな?」



私とレーベルの話を聞いて、騎士団の何人かは顔を歪めている。この魔道具に踊らされてきたのだから、当然か。

そしてレーノが、


「レーベル殿の言うとおりに、これが魔道具の残骸であるのなら、貴族の使者である可能性が高くなりましたね」

「でもさ、あの遠征の失敗した原因なのに、それ使って森に入る?」

「はい。あの遠征について詳細を知っているのは高位貴族のみです。魔道具に欠陥があったこと、といいますか魔道具を用いて遠征をしていたことは関わっていない下位貴族や市井の者には知られていません。あの魔道具は遠征失敗後、廃棄されたはずですが、数が多かったので廃棄から漏れて、入手した貴族がいても不思議ではありません。そして詳細を知らずに、使用した・・・」

「筋は通るし、納得できるね。とすると、この人たちはどっかの貴族の使者と護衛か・・・。それがうちを目指して、魔獣に襲われて死んだ、と」

「そういうことになるかと」


・・・・・・何それ。めっちゃ迷惑なんだけど。

いや、亡くなった人がいるんだし、そんなこと言っちゃいけないんだろうけど、私を権力闘争に使おうとした貴族の使者がヘマして死んだわけで、その後始末をしなきゃいけないの?



私が口には出さずに悪態をついていると、レーノが


「にしても面倒ですね。魔道具のことを知らないのですから元は下位貴族、カーラルド王国においては高くても伯爵位。コトハ様と比べれば木っ端もいいところですね。そいつが使者を送り、領都近くで死んだ。本当に迷惑な話です」


と、ボロクソに罵りだした。いや、レーノ怖いんだけど・・・

そういえば、


「レーノ。そもそも、なんで私に使者を出すの?」

「それはもちろん、コトハ様を自分の派閥に取り込むためです」

「派閥に?」

「はい。新興貴族であり、貴族間の繋がりはこれから。しかもその爵位は最高位の大公。そりゃ、権力欲する貴族たちにとっては、ぜひ近くに置いて言うことを聞かせ、自分の立場や派閥の立場を上げるための道具として利用したいのでしょう」

「・・・・・・うわぁー」


すごい。イメージする、ドロドロした貴族そのものだ。

もはや感動する。


「コトハ様がこれまでお会いになられた貴族は、バイズ公爵やカーラルド国王陛下、そしてカーラルド王国では侯爵位や辺境伯位を授けられる者たちです。さらに、コトハ様のことを理解というか、説明された者たちばかり。そういった人たちと、下位の貴族は根本的に違うのですよ」

「違うって?」

「まず、最下位の準男爵や男爵など、貴族ではありますが、商人や冒険者の上位の者よりは遥かに貧しいです。領地も狭く、税収も少ない。子爵や伯爵程度であれば、そこまで酷くはありませんが、決して裕福ではありません。それに、基本的に要職につけるのは、侯爵位以上の者と一部の伯爵位の上位者。辺境伯は少し事情が異なりますがね。そんなわけで、伯爵位以下の者は、少しでも自分たちの地位を上げようと必死なのです」

「私が派閥に入ったら・・・」

「コトハ様のことは、多少尾鰭がついて伝わっていると思われますし、それを全部信じているわけではないでしょうが、カーラルド王国の最高戦力であることは間違いない。そしてまだ若い女性。自分のところの三男くらいを婿にやって・・・とか、友誼を結んで自領の守護を・・・とか、考える貴族は多いでしょうね」

「うぇー」


止まらないレーノによれば、これまでにも大きな戦果を上げた冒険者が叙爵されるようなケースはあったらしい。その際も、我先にと派閥への取り込み合戦が始まり、うんざりした冒険者が、爵位を返上して他国へ逃げたこともあったとか。

そのケースと比べると、私の爵位が大公とかいう馬鹿げたものなので、表面上はマシだろうと。とはいえ、取り込むことができたら得られるものも大きいわけで、どういう反応になるのか想定するのが難しいらしい。

それに、まだアーマスさんと相談した結婚に関する話は浸透していないようだし。



「じゃあ、なに? 今後も森へ使者を出して、死人が出る可能性があると?」

「ほぼ間違いなく。現状、コトハ様にコンタクトを取ろうと考えると、森へ入る他ありませんから・・・」

「うー・・・」


本当に面倒だな。

正直貴族を舐めていたというか、アーマスさんたちを基準に考えてしまっていた。


「コトハ様。よろしいですか?」


私が自分の判断の甘さを嘆いていると、マーカスが口を開いた。


「なに?」

「はい。正直、森の恐ろしさを見誤ったバカがどうなろうと知ったことでは無いのですが、外部からコトハ様に連絡を取る手段が、森へ入るしか無いというのは、些か問題があるかと」

「問題?」

「はい。例えば、急な政変が起こった場合に、バイズ公爵領経由で情報を伝えようと思っても、決死の覚悟で森を抜ける必要があります。それも確実ではなく、情報が伝えられる可能性は低いです。それに、こちらから何か用事があるときでも、返事を外で待たなければなりません」

「・・・確かに。今はフォブスたちを預かってるんだし、急な家の用事もあるよね。それに、手を貸すかはともかく、戦争や反乱が起こったって情報を受け取るのが遅れるのはまずいか・・・」

「はい」


困ったな。

正直、そこまで考えてなかった。貴族になって、アーマスさんとの定期的な連絡交換もやめてしまった。今は、定期的に騎士数名がガッドへ向かい、トレイロ商会や冒険者ギルドで取引をしているだけ。その際に簡単な情報交換はしているが、急な情報を受け取る術がない・・・





そうだ・・・・・・


「・・・森の入り口に基地でも作る?」

「基地、ですか?」


私の呟きに、レーノとレーベルはなんとなく分かったようだが、マーカスたちは少しポカンとしている。


「うん。森の入り口にうちの騎士団の基地を作るの。そうすれば、用事がある人はそこに来てくれればいい。基地から領都へは、うちの騎士団が移動するだけだから大丈夫でしょ。どうしても直接ってことなら、騎士団が護衛すればいいし」

「・・・なるほど。確かに魔獣が減っている北側であれば、初めて来る連中はともかく、うちの騎士団では問題ありませんな」

「うん。マーラたちを交代で待機させておけば、本当の緊急の場合は半日かからずに領都に情報が届くしね」

「良い案だとは思いますが、確実に貴族の使者が殺到しますよ?」


レーノが懸念を示す。

そのことは考えていたが、


「それはね・・・。まあ、領都まで連れて来るのは適当にあしらって遠慮してさ。伝言とか手紙なら、無視してもいいんでしょ? 私、大公だし。下位貴族の要望にいちいち答えなくていいって教わったよ?」

「それは、まあ・・・」

「死んでも自業自得だとは思うけど、さすがに私に会おうとして何人も死ぬのは気分が悪いし、マーカスの指摘はもっともだからね。諦めを込めて、基地を作るのがいいかなーって」


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