第165話:プロジェクト始動

クルセイル大公領の領都ガーンドラバルと、バイズ公爵領の領都ガッドの間、ちょうど森の入り口あたりに、うちの騎士団の基地を建設することが決まった。そういえば、私たちが建設しようとしている施設は、ここでは砦と呼ぶ方が一般的らしいので、砦と呼ぶことになった。



領内会議で砦の建設が決定された翌日から、それぞれ準備が開始された。

ドランドは、砦に保管する予備の武具を急いで作っている。服飾工房では、メアリさんの指示の下、同じく砦に保管しておく予備の服や、騎士たちが休息を取る場所で使う寝具、来客対応をするための部屋に設置する家具なんかを準備している。ああ、家具はドランドと一緒にだ。


レーベルに畑の管理を任されているシャムリヤは、レーノと相談しながら食料の運搬や増産について相談している。まあ砦の方は、ガッド経由で商人とかに定期的に届けてもらうことを考えているらしいから、予備的にだけどね。

レーノたちの文官組の計画では、砦をうちの領の貿易の拠点とする予定らしい。



そしてマーカスは、騎士団の再編を行なっていた。私も今はここにいる。

騎士団の訓練場には、門の警備や領の各所にある監視塔での警戒任務にあたっている者以外、全騎士が集められていた。それぞれ騎士ゴーレムと共に隊列を組んで並んでいる。騎士150人、騎士ゴーレム200体が秩序立って並ぶ光景は圧巻だった。

一緒にいるカイトたちも驚いているし、バイズ公爵領の騎士団で似た光景を見たことがあるのだろうフォブスも、「うちも負けてられないですね」とこぼしていた。


現在のうちの領民の数は400人ほど。そのうち150人が騎士であり、実戦配備済みの騎士ゴーレムが200体いる。そう考えると、どれだけ軍事面に力を入れているんだって話になる。

まあその理由としては、領民は騎士とその家族が大部分を占めていることにある。そして、騎士の多くは家族を呼び寄せている最中であるわけだ。そのため、これからは騎士の家族がもっと増える予定だ。そして、騎士とは関係ない人々の受け入れも検討してはいる。ただ、騎士とは違い、普通の人々にはこの森での暮らしは難しい面が多い。そのため、どれくらい増えるかは不透明だ。


一般的には、これだけ軍事面に労力を割いていると、領の運営がままならなくなる。しかし、騎士の仕事の半分が狩りであること、木の実などを多く採集できていること、レーベルの管理している畑での農業の効率が良く、食糧には余裕がある。また、魔獣の素材は高値で売れるので、領の収入はかなりのものがあり、必要な物資を仕入れることができている。


そのため、ぼちぼち給料の支払いを始める予定だ。うちの領は、騎士団も各工房も畑も屋敷も、全て「領営」なので、領から給料が払われる予定だ。とはいえ、食事や服は配給になっているし、領内には店が1つも無い。そのため、給料の使い道は、定期的に町に行く騎士団に買い物を頼むか、将来に備えて貯めるかの2択になると思われる。特に子どもがいる家庭では、将来子どもが独り立ちするときに備えて、お金を貯めることになるのだろうと予想されていた。

砦の建設に合わせて、領民の生活の質をもう少し向上させることができないものかを、レーノたち文官組と一緒に考えているのだ。やはりゆくゆくは、領都と砦を結ぶ道を作るべきだろうか。先に砦を作っていれば、道を通る人の管理もできるだろうし。



気を取り直して騎士団の再編の作業に入る。

既にマーカスら騎士団幹部により、新たな組織構造は決められている。今日はその説明がメインだ。

私がいるのはマーカスに、

「騎士団の新たな門出。そして砦建設により新たな任務が始まります。そのような節目には、領主たるコトハ様のお言葉をいただきたく」

と、頼まれたからだ。


新たな騎士団の組織は、これまでの2個中隊制から6個中隊制に変更される。それに伴い、騎士1人と騎士ゴーレム2体をセットで考える騎士隊及び小隊の括りはそのままに、1個中隊を5個小隊で編成する予定だ。

そして、砦を守ったり領都の周辺で狩りをしたりする一般の部隊が4つ、それに大公家を護る警護隊と領都の警備隊が備えられる。


第1中隊が大公家を守る警護隊だ。

警護隊の任務は、大公家の人間や客人を守ること。大公家の人間、つまり私やカイト、ポーラのことだが、実際に護衛が必要だとは誰も思っていない。いや、私は2人には護衛がいてもいいとは思うけど、出かける際はフェイとレビンが側にいるのでそれで十分だろう。

ただ、警護隊は存在自体が必要であり重要であること、今後のことを考えると客人対応も必要なことから創設された。そのため平時は、領都の警備隊と棲み分けを行いつつ、領都の守りを共に担うことになる。


第2中隊が、領都の警備隊だ。

警備隊の任務は文字通り領都を守ること。門番の仕事や領都内の巡回、各所にある監視塔での警戒監視などが任務になる。今後人が増えるにつれて起こるであろう、喧嘩などのトラブルや犯罪対応も担うので、警察の役割も担うことになる。


第3から第6中隊までが、いわゆる騎士団だ。

砦に入り、砦を守りながら来客等への対応、森へ入り魔獣の警戒や狩りなど、様々な任務を行う。



マーカスが各中隊をまとめる中隊長の名前を呼び、呼ばれた騎士が前に出てくる。

それぞれに私が、


「第1中隊、中隊長に任命する」


などと仰々しく告げ、呼ばれた騎士が礼を取るという儀式を進めていく。


騎士団再編の結果、警護隊である第1中隊の中隊長にはジョナスが、警備隊である第2中隊の中隊長にはアーロンが就いた。そして第3から第6中隊の中隊長には、初期にクルセイル大公領に移住してきた騎士の中から、マーカスたちが選出した4名が就任している。



最後にマーカスに促されたので、簡単に訓示のようなものを述べて、この場はお開きとなった。

騎士団が再編されたとはいえ、砦の建設はこれからだし、警護隊に配備する予定の魔鋼製ゴーレムはまだ完成していない。ドランドが武具の準備で忙しくなっているので、もう少し時間がかかるだろう。既に配備されている騎士ゴーレムは、第2から第6中隊に配備し直されている。

この先の騎士団の運用はマーカスたちに任せるので私たちはその場を後にした。





屋敷に戻るとフォブスが、


「コトハさん。聞きたいことがあるのですが・・・」


と声を掛けてきた。


「うん? なに?」


私が応じると、やはり昨日の領内会議についていくつか質問をされた。


フォブスはバイズ公爵家の次期当主の長男だ。つまりいずれは領主を継ぐ予定。そのための教育を幼少期から受けてきたわけだ。そんなフォブスからすれば、領主やその家族である貴族家、貴族家に仕える者以外が、領の運営に意見を述べる領内会議は異質に見えたのだろう。


フォブスの質問の中で、彼が特に聞きたそうにしていたのが、私が領内会議を導入した目的だ。


「目的は、まあ、いろいろあるけど・・・・・・。私が全部決めるのが嫌だったことと、人手不足、後は・・・育成かな」

「・・・コトハさんが全部決めるのが嫌だというのは、なんとなく分かるのですが、人手不足と育成、ですか?」

「うーん、そうだねー。バイズ公爵領だとさ、アーマスさんやラムスさんを支える文官の人がたくさんいるでしょ?」

「はい」

「うちにはレーノとヤリスがいるけど、その他は今も育成中。というか、最近文官の仕事を始めた人が多い。まだ小さな領だけど、これからに向けていろいろ準備があるし、文官たちはパンク状態だったの」

「・・・なるほど」

「最終的には、生産部門や農業部門、軍事部門なんかに担当の文官を配置して、その文官が各部門の状況を整理して、検討・報告してくれるのが望ましい。フォブスのとこだとそうでしょ?」

「はい。各担当の文官が情報を整理して、上級の文官に報告し、最終的に取りまとめをしているボードやお祖父様、父上に報告しています」

「うん。うちだと、その各文官として配置できる人員が足りない。だから、各部門で働いている人たちに、直接報告してもらうようにしているの」

「・・・なるほど。しかし、それでは直接コトハさんかレーノに報告すればいいのではないですか?」



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