第161話:シャロンと他の古代竜
古代火炎竜族の族長の娘、ホムラとの従魔契約は無事に終わった。
ホムラは『身体変化』のスキルによって、50センチほどの大きさになって私の周りを飛び回っている。ケイレブたちほど大きくはないが、さすがに元の大きさだと狭いだろう。どうやら小さくなっていても、特に負担は無いらしいので、基本的にはこの大きさでいてもらうことにした。窮屈に感じたら、好きに空を飛び回るから問題ないそうだ。
ケイレブと弟さんは、私とホムラの従魔契約を見届けたことで用事が終わり、帰るとのこと。
本当はいろいろ聞きたいことがあるのだが、彼らにも治める場所があるのだし、何でもかんでも聞いていてはつまらないのは、レーベルのときと同じだ。
「コトハ様。娘を、ホムラをよろしくお願い致します」
「うん。責任を持って預かるよ。・・・まあ、今はホムラの方が強いけどね」
「コトハ様が上回るのは時間の問題でしょう。・・・・・・それと、1つ伺ってもよろしいですか?」
「なに?」
「あそこにいる、ベスラージュは・・・?」
「シャロンのこと?」
「シャロン・・・。あのベスラージュはコトハ様の従魔なのですか?」
「ううん。ポーラの従魔よ」
「ポーラ様の・・・」
カイトとポーラのことはケイレブたちにも紹介してある。私の弟妹的存在で眷属である、と。
それを聞いてからは、2人の呼び方が「様」になった。弟妹に反応したのか、眷属に反応したのかは分からないが、まあ、いい。
「それで、シャロンがどうしたの?」
「はい。ベスラージュは古代からその姿を変えずに生きております。それこそ龍族の方々が住まわれていた近くにも住んでいたそうです。我らの先祖も、共に生きた話や逆に戦った話が言い伝わっております」
「そうなんだ・・・。シャロンは親を亡くしたところを見つけてね。ポーラが助けたら、懐いてそのまま」
「そうでしたか・・・。しかしその綺麗な白い身体。ベスラージュは概ね白っぽい色をしているのですが、基本的に模様が入っていたり、くすんでいたりとここまで綺麗な純白の身体を持つ個体は珍しいです。そして、そういった個体は古くは王たる個体であると言われております」
「王たる個体?」
「はい。ベスラージュは群れで生活します。その群れの頂点に君臨するのは、純白の身体の個体である、そう聞き及んでおります」
「・・・じゃあ、シャロンは」
「はい。その素質はあるのかと」
「・・・・・・でもここにはシャロンだけだし、あれ以来ベスラージュを見たことはないけど」
「ベスラージュは森の奥深くに暮らしております。どれほどの数がいるかは分かりませぬが、森の奥へ行けば会えるかと。それに、王たる個体とは、単に群れの長というわけではなく、圧倒的な力を誇ると言われております。おそらく先祖返りかと」
「・・・先祖返り?」
「はい。ホムラもそうだと思われますが、力ある先祖の素質を十分に引き継いだ個体が、数世代後に生まれてくる現象です。今のベスラージュは昔よりも力を落としているようですが、シャロン殿が先祖返りであれば、今のベスラージュを寄せ付けないような力を秘めているかもしれませぬ」
なるほど。
シャロンの親はツイバルドに殺された。一般的な強さはともかく、私に言わせればツイバルドはウザいだけで強くはない。今のシャロンの方が圧倒的に強いだろう。
そう考えると、今のベスラージュという種はそれほど強くはなく、たまたまシャロンが強いだけなのかもしれない・・・
それからもいくつかベスラージュや彼らの住む火山島のことを聞き、ケイレブと弟さんは帰ることになった。
「コトハ様。最後にお願いと、失礼ながらご忠告申し上げます」
「うん?」
「はい。龍族の眷属であった古代竜たちは各地へ散り、それぞれ自分の地を守護しております。そしていつの日か龍族の末裔、つまりコトハ様にお仕えすることを願っております。ですので、可能であれば彼らを見つけてやってほしいのです。我らはたまたま近くに住んでおりましたので、コトハ様の『気』を感じることができましたが、遠方に住まう者たちには叶いませんから・・・」
「分かった。まあ、いつになるかは分かんないけど、旅をしてみたいと思ってるし、そのときにでよければ・・・」
漠然と世界を見て回りたいとは思っていたので、古代竜たちを探して回るのも面白いかもしれない。
「ありがとうございます」
「それで、忠告は?」
「はい。自分からお願いしておきながら恐縮ですが、古代竜族の中には、我が弟のように、最初はコトハ様のことを疑問に思う可能性や、最悪の場合、敵対する可能性がございます。どうかお気を付けください」
・・・・・・そりゃー、そうか。
探してあげてと言われながら、その相手が敵対してくるとなると、探す気失せるけど、まあ彼らの気持ちも分からんでもない。
いつか龍族に仕えたいと願っているのに、やってきたのは龍族の末裔を名乗る人型種。そりゃ喧嘩売ってると思われるよね。
「・・・・・・そのときはどうしたら?」
「力の差を見せつけてやればよろしいかと。多くの場合は、コトハ様の『気』を直に感じれば納得するでしょうが、頭が固いのもおりますれば」
「・・・会ったことがあるの?」
「はい。これまでに別の古代竜と会ったことはございます。古代竜族ごと、個体ごとに性格は異なりますが、特に古代水竜は度を越えておりますので、くれぐれもお気を付けください」
「え、ええ」
ケイレブのイラッとした表情を見る限り、仲悪いんだろうなぁー・・・。
どうもケイレブによるバイアス込みな気がするけど、気を付けよう。
というかそんなことを言われたら、探す気も失せるけど・・・
「とりあえず、何かあっても大丈夫なように、自分の力を高めるよ」
♢ ♢ ♢
ケイレブたち古代火炎竜族の訪問があった翌日、領都はいつも通りの生活が戻っていた。新たに従魔になったホムラは、小さな姿であちこち飛び回り、領民たちと仲良くしている。・・・どうでもいいけど、うちの領民たちって順応するの早いよね。いや、そうでもないとクライスの大森林に移住するなんて決断できないか。
ホムラはポテンシャルは高いものの、実際に魔獣と戦った経験は少ないらしく、試しに戦ってみたカイトの動きに翻弄されていた。まあ、最近は本気を出したカイトの動きもかなりのものになっているから、ホムラがどうってのも言いにくいんだけどね。
それからホムラが来てからの数日、みんなで行っているのが飛行訓練だ。
飛行訓練といっても、姿勢を安定させながら領都の周辺を飛んで回るだけ。
私とカイト、ポーラが自分の力で飛び、シャロンの背中にキアラが、ホムラの背中にフォブスとノリスが乗っている。空を飛ぶなんて経験は、『人間』には難しいし、『エルフ』であっても基本的に飛行は出来ないらしいので、貴重な経験となったのだろう。3人とも嬉しそうだった。
私たち3人は、それなりに飛行ができるようになっている。私はここ半年の間にそれなりに訓練したこともあって、飛行速度の調整や急な方向転換、上昇下降などができるようになってきた。
一方でカイトとポーラはガッドにいた間は、飛行する機会はあまり無かったようで、まだゆっくり飛行する訓練をしている段階だ。シャロンとホムラは、背中に人を乗せて飛ぶ経験が少ないので、あまり高度を上げず、最悪の場合でも私が助けられるように注意しながら、訓練していた。
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