第160話:ホムラ
どうみても今の私よりも強いドラゴン、古代火炎竜に忠誠を誓うと言われても、正直困る。別にイヤというわけではないが、なんというか持て余してしまう。
しかし、ケイレブの真っ直ぐな視線とか、後ろで唯一ドラゴンの姿のままの娘さんのシュンとした姿を見ると断ることもできなかった。
それに、深く考えなければ味方が増えることはいいことだろうし、それで古代火炎竜の悲願も達成されるのならば、素直に受け入れるのが正解かな・・・・・・
「分かった。ケイレブや古代火炎竜族のみなさんの気持ちを受け取ります。これからよろしくね」
私が覚悟を決めてそう言うと、ケイレブら古代火炎竜の3人・・・3体は、再び深々と頭を下げた。
「それで、娘さんを私の側にって話だけど、具体的にはどうすればいいの?」
「コトハ様のお側にお仕えし、コトハ様を護る盾として、また敵を排する矛として使っていただければと」
「・・・そんな事態はあんまり想像できないけど。まあ、いいや。えっと、それじゃあ従魔契約を結ぶ? 私のご先祖様の眷属だった人たちの末裔にそれは失礼?」
「いえ、従魔契約、是非それをお願いしたく思います。従魔は眷属への一歩ですので」
そういえば前にレーベルも似たようなことを言ってたっけ?
まあ一緒に暮らすなら、従魔契約を結ぶのが無難かな? これがケイレブみたいに人の姿に変化できるのなら躊躇ったけど、現状娘さんはドラゴンのままだし。
「娘さんも人の姿になれるようになるの?」
「いずれは。ですが、人化の術は自身の身体を完全に理解し、その隅々まで魔力を用いてコントロールできるようにならねば、使用できません。娘は生まれて20年程度。しばらくは不可能でしょう」
「・・・そっか。じゃあ、従魔契約を。娘さんもそれでいい?」
古代火炎竜族の族長であるケイレブが決定した以上、彼女に拒否権など無いような気もするが、こういうのは本人にも聞いておきたい。
・・・・・・と思ったのだが、ケイレブの後ろにいる娘さんは、私が「従魔契約を」と言った途端、尻尾をブンブン振りながら、嬉しそうに何度も頷き、身体を横に揺らしていた。
・・・・・・どうやら、いいみたいだね。
「そしたら、ケイレブの娘さんを私の従魔として、これから一緒にいてもらうことにするね」
「ありがとうございます。未熟な娘ですが、どうぞ好きに使ってやってください」
そう言って再び頭を下げる3体。
「うん。それで、従魔契約となると、名前を決めないといけないんだけど・・・」
「はい。是非、コトハ様に名付けていただきたく」
「でも、古代火炎竜族にとって名前はとても大切なものなんでしょ? その、古代火炎竜族のしきたりというか、名付けルールみたいなのに従った方が・・・」
「問題ございませぬ。我らが名前を大切にしているのは、始祖であった古代火炎竜が龍族から賜った名前を名乗り、それを大切にしていたためです。ですから、新たに我らの主となられるコトハ様に名付けていただけるのであれば、それこそが我らにとって最上でございますれば」
「そ、そっか・・・・・・」
・・・・・・にしても熱いな。いや古代龍族が滅んだのが10万年とか前だから、そこから続く一族の悲願が達成されるって考えるとそんなもん?
多分、ケイレブの真面目なところが全面に出ているのだろう。いや、後ろの弟さんや娘さんをみてる限り、種族的なものか?
「火炎」竜が熱いってのは、解釈一致なような、熱苦しすぎるような・・・・・・
まあ、いいや。とりあえず名前だ。
ケイレブはああ言ってはいたけど、やはり名前はしっかり考えてあげたい。これまで何度も名付けをしてきたけど、結構直感というか、フィーリングで付けてきた。
別にそれが悪いとは思わないし、みんな喜んでくれていたけど、今回は少し意味を重視して考えてみようかな。
話してみたところ、古代火炎竜族はその名の通り、「火魔法」に強い適性があるらしい。他にも鋭い爪に太い腕、飛行速度も速く、とても戦闘能力の高い種らしい。始祖の竜も、眷属たちの中では攻撃の役割を担うことが多かったらしい。まあ、並の魔獣や人型種が相手であれば、もはや誤差みたいなもんだろうけど・・・
かなり難しかった。
カイトとポーラにも一緒に考えてもらい、結局「ホムラ」と名付けることにした。
強く燃えさかる炎って感じ。それに確か「ほむら」は「炎が、群れる」的な語源だったと思うから、古代火炎竜族の代表として私の側に仕えるのにも合う気がする。後はケイレブたちの感じから、堅めな古風な感じが似合うと思ったのだ。
しっかり考える、と意気込んでおきながらあんまり捻りの無い名前になったことを申し訳なく思いつつ、名前と意味を提案すると、娘さんたちにとても喜ばれた。
私が付けたから、ということで盲目的に喜んでいるのではなく、本当に嬉しそうにしていたのでこれ以上後ろ向きに考えるのはやめよう。かえって失礼だしね。
そう言うわけで、ケイレブの娘と従魔契約を結ぶことになった。
カイトのお願いで、フォブスたちにもその様子を見せてあげたいと言われたので、ケイレブに了承をとってから同意した。
「それじゃあ、始めるよ」
そう言って私はケイレブの娘に手をかざす。
従魔契約は、『適合化の魔法陣』で従魔になる魔獣の魔力を主となる者の魔力に適合させる。その上で名前を与え、魔獣がその名前を受け入れることで従魔契約が成立する。
今更だけど、ドラゴン、古代火炎竜は魔獣と呼んでいいのだろうか・・・?
魔法陣を発動し、成功したことを確認すると、
「あなたの名前は『ホムラ』よ。これからよろしくね!」
と名前を与える。
ケイレブの娘、ホムラがそれに応じ、従魔契約が成立した。
♢ ♢ ♢
名前:ホムラ
種族:古代火炎龍族
年齢:23
魔法:火炎魔法Ⅲ、竜魔法Ⅰ
スキル: 身体強化9
ユニークスキル:魔法適正大、魔法能力大、身体変化
耐性:熱耐性7
称号:コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイルの従魔
♢ ♢ ♢
ホムラを『鑑定』した結果だが、気になることが3つあった。
まずは『火炎魔法』。
古代火炎竜族は、『火魔法』が得意だと聞いていた。いや、正確には「魔法で火を操るのが得意」と言っていた。
そしてホムラが備える『火炎魔法』。字面だけ見れば、『火魔法』よりも上位の魔法と言うことだろうか?
そう思ってさらに『鑑定』を使うと、
♢ ♢ ♢
『火炎魔法』
『火魔法』の上位魔法。
『火魔法』よりも、威力・精度共に質が高い魔法を使うことができる。
♢ ♢ ♢
とのこと。
まあ、思った通りだ。
次に『竜魔法』
これはもう、分からない。同じく字面からは、竜、つまりドラゴンの用いる魔法であるような気がするが、そうすると『火炎魔法』との違いが分からない。
『鑑定』によれば
♢ ♢ ♢
『竜魔法』
竜族の専用魔法。
体内に保有する魔力をエネルギーに変換し放出する。
浄化作用がある。
♢ ♢ ♢
とのこと。
これを見てもよく分からず、ケイレブに聞いてみたところ
「・・・・・・ブレスのことでしょうか? 試しに撃ってみましょうか?」
と言いながら、人化したまま口の周りにエネルギーを溜め始めたので慌てて止めた。
威力は分からないが、優しくないのは間違いない。
要するに、ドラゴンが口から放つブレス攻撃のことを言うらしい。
それにしても、浄化作用ってなんだろうか・・・
そして最後が『身体変化』。
『鑑定』によれば、
♢ ♢ ♢
『身体変化』
魔力により魔素を操作して、身体の形・大きさを変化させる。
変化には限度がある。
♢ ♢ ♢
らしい。
これについてもケイレブが、
「娘・・・、ホムラは人化術を使用することはできません。ただ、身体の大きさを変えたり、翼を消したりすることはできます」
と教えてくれた。
とりあえずホムラに「できるだけ小さくなってみて」と頼んだところ、私が両手で抱えられるサイズまで小さくなることができた。
小さくなって私の周りを飛び回る姿は、なんとも愛くるしく、マスコットみたいな感じでカイトやポーラが喜んでいた。
「限度がある」というのは、大きさや形に制限があるということ。
大きさの上限は最初の大きさ。つまり本来の大きさだ。そして下限は今のサイズ。
また、翼以外の部位を消すことはできないらしい。
話を聞いている限り、『身体変化』の上位スキルみたいなものが、『人化術』なんだろう。
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