第111話:レーベルの主

〜カイト視点〜


未だ目を覚まさないコトハお姉ちゃんのことは心配だけど、これからのことを考える必要がある。バイズ辺境伯は、1週間後を目処に、領都へ来てほしいと言っていたし、その準備をする必要がある。

コトハお姉ちゃんが行けたらそれが良いのだろうけど、今のままなら、いや仮に目を覚ましても、まだ体調の優れないお姉ちゃんを領都へ行かせるのは違う気がする。


それに、体調が戻ってからも、身体を休めたり、グレイムラッドバイパーを解体したりと、やることが多かった。そのため、僕たちの種族『人龍族』のことや、コトハお姉ちゃんの進化のことを、しっかり考えられていなかった。

それに、レーベルの様子が少し変だ。妙にソワソワしているというか、嬉しそうな気もするし・・・



「ねえ。レーベル。聞きたいことがあるんだけど・・・」

「はい、なんでございましょうか」

「いろいろというか、今回起こったこと全てというか、とりあえず、なんでそんな嬉しそうなの?」

「これは失礼致しました。執事たるもの自身の感情が表に出るなどあってはならぬことでした」

「・・・いや、それはいいんだけど」

「ご質問にお答え致します。今回、コトハ様が進化なされたことにより、私の主であった者との約束を果たすことができたため、でございます」

「主であった者?」

「はい。以前お伝え致しましたように、我々『悪魔族』は、古代『龍族』に、お仕えしておりました。それぞれが主たる『龍族』を定め、その方にお仕えしておりました。その後、『龍族』が数を減らし、最後に亡くなったのが、私がお仕えしていた『龍族』最後の王、ガーンドラバル・クルセイル様でございました。ガーンドラバル様の最後の命は、『龍族』の最後の雌が残した卵。その卵から生まれる『龍族』を守護し、導くことでした」

「・・・・・・それが、コトハお姉ちゃん?」

「コトハ様の元となった卵でございます。コトハ様はその卵に、別世界から渡ってきた魂が融合し、産まれた存在です。ですが、産まれたばかりのコトハ様は、『龍族』ではありませんでした。理由は不明ですが、『竜族』という、『龍族』とは少し異なる、ハッキリ申し上げれば少し劣る存在でした。ですが、日々魔素へ適応し、魔力を高めており、『龍族』へと至る日が来ることは確信しておりました。それこそが、ガーンドラバル様の最後の命、主との約束でした」

「じゃあ、今回お姉ちゃんが進化して、『龍族』に至ったから、その約束を果たせるのが嬉しいの?」

「簡単に申し上げればその通りでございます。もちろん、コトハ様にお仕えすることをお許しいただいたその時から、永遠の忠誠をコトハ様に誓っておりました。ですが、今回の進化によって、ガーンドラバル様との約束も果たせることとなり、その喜びが増したということになります」



その後も、レーベルの昔話をいろいろ聞かせてもらった。

最初にお姉ちゃんの魔力を感じたときには、その卵との関係がよく分からず、探して接触することにした。その結果、間違いなくその卵から産まれたと分かった。


ただ、その話をするには、進化に関する説明をする必要がある。しかし、『龍族』へ進化するのには、何十年何百年という単位で、身体を魔素に馴染ませ、魔力を身体に蓄積させていく必要がある。なので、焦らせても意味が無いと考え、しばらくの間は黙っていることにしたそうだ。


それが、蓋を開けてみれば、1年そこらで進化してしまい、とても驚いたとのこと。

拠点の改装をしているときに、コトハお姉ちゃんの放つ『龍族』のオーラを感じて、慌てて駆けつけたそうだ。



「それから、カイト様。今回、カイト様とポーラ様も進化され、『人龍族』となっております。『龍族』たるコトハ様の眷属であらせられるお二人は、私にとって仕えるべき存在に変わりありません。しかし、古来より『悪魔族』の仕える『龍族』はお一人のみとされております。これまでは、コトハ様の弟君、妹君という形でお仕えしておりましたが、眷属となった以上、それも難しいものです。そのため、近々、新たにカイト様とポーラ様にお仕えするべく、『悪魔族』が参る予定です」

「・・・・・・え? つまり・・・・・・、レーベルはコトハお姉ちゃんに仕える。眷属となった僕たちにも一緒に仕えることはできないから、僕たちに仕える新たな『悪魔族』が来るってこと?」

「左様にございます。もちろん、私もこれまで通りお二人をお仕えし敬うべき存在と考えておりますが、正式にお仕えするのは、それぞれお一人になります」

「・・・それは、分かったし、これからもレーベルとは仲良くしたいんだけどさ・・・・・・。新しく僕たちに仕える人なんて必要ないよ?」

「いえ、そういうわけには参りません。『龍族』の眷属という高貴な御方に専属の侍従がいないなど、考えられません。既に、『悪魔族』の長老共にふれを出しておりますので、内部で選抜を行い、選ばれた2人が参る予定です」

「・・・・・・あ、はい」



そこまで話が進んでいるのね。というか、眷属も高貴な存在なんだ。

レーベルの勢いがちょっと怖いけど、確認はしておかないと・・・


「コトハお姉ちゃんがダメって言ったら、ダメだからね?」

「無論です。カイト様なら、そのように仰ることは承知しておりますので、そこは言い含めております」

「そっか。なら文句は無いよ」

「ありがとうございます」


まあ、コトハお姉ちゃんもあまりに変な人でなければ文句は言わないだろうしね。



「それでさ、コトハお姉ちゃんは今も起きそうにないし、仮に起きても直ぐに領都へ行かせるわけにはいかないでしょ?」

「左様でございますね。魔力の乱れは落ち着きつつあり、力も収束を見せておりますので、数日でお目覚めになるとは思いますが、領都へ行かれるのは厳しいかと」

「となると、僕かレーベルになるんだけど、レーベルはコトハお姉ちゃんの側にいてもらいたいんだよね・・・」

「私もそう考えております。万が一の場合、コトハ様の魔力の乱れなどを制御することができるのは私だけでしょうから・・・。カイト様がよろしいのであれば、お願いしたいと考えております」

「うん。分かった。じゃあ、僕が行ってくるから、コトハお姉ちゃんとポーラのことをよろしくね」

「かしこまりました」



レーベルがそう言って、頭を下げるのと同時に、


「では、私にお供させていただきたいですわ!」


と、声が聞こえてきた。

慌てて周りを探すと、


「これは失礼を。初めまして。私の名は、フェイグレイブス・ドーランドイルと申します。以後お見知りおきを」


そう言って、メイド服姿の女性が優雅に礼をした。一般的なメイド服に身を包み、銀色の長い髪を後ろで1つに束ねている。肌は白く傷一つ無い綺麗なもので、身長も高くとてもスタイルが良い。コトハお姉ちゃんを見慣れているとはいえ、目を奪われてしまった。

しかし、その目は、瞳孔が赤く染まっており、レーベルと同族であることを示していた。

それに今の僕だと、感じる魔力から、レーベルと同じ『悪魔族』だと認識できる。


僕が驚いていると、レーベルが先に声を掛けた。


「久しぶりですね、フェイグレイブス。あなたが選ばれたのですか?」

「ええ、レーベルバルド。もう1人はまだ決まっていないですが、私は圧勝で、1抜けでしたわ」


そう言って、フェイグレイブスさんは、胸を張っている。

というかさ、圧勝って? まさか・・・


「ねえ、レーベル。さっきの仕える人を選ぶのって・・・・・・」

「はい。当然、希望する者で戦い、勝ち残った者が選ばれます。主を守れる技量がある者こそ、その栄誉に相応しいですから」

「・・・・・・あー、はい」

「それから、フェイグレイブス。私はレーベルです」

「・・・・・・ん? 改名を?」

「いえ。コトハ様にそう呼ばれましたので、レーベルと名乗っているのです」

「なんと! それでは、カイト様。私にも呼び名をお与えくださいませんか?」

「え? ええっとー・・・・・・、じゃあフェイで」


コトハお姉ちゃんの真似をして略しただけなんだけど・・・

というかさ、しれっと仕えることが前提になってるよね。


「ありがとうございます! 私、フェイ。今日この時より、永遠の忠誠をカイト様に」


そう言って、深々と頭を下げるフェイを見ると、ツッコむことができなかった。


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