第110話:今後の話
〜バイズ辺境伯視点〜
まるでドラゴンが人になったかのような姿をしたコトハ殿。突然、身体が輝いたかと思うと、とんでもない威力の魔法と攻撃を繰り出した、カイト殿とポーラ殿。
彼女たちのおかげで、領都だけでなく王国すらも滅ぼしかねない伝説の魔獣、グレイムラッドバイパーが仕留められた。
レーノらを連れ、急ぎコトハ殿たちの元へと向かう。
「コトハ殿! 無事か!?」
「バイズ辺境伯? 領都にいたんじゃないの?」
「グレイムラッドバイパーが出たとの報告を受けてな。状況確認のために出てきたのだが・・・・・・、まさか倒すとはな」
「なんとかね・・・。結構ヤバかったよ」
「・・・・・・そうか。感謝する。コトハ殿、カイト殿、ポーラ殿。幾度となく騎士団を、領都を、ラシアール王国を救ってくれたこと、全ての民を、領を、国を代表し、感謝する」
そう言うと、私は深々と頭を下げた。
レーノ以下、伴っていた騎士たちも、皆一様に頭を下げている。
私も領主を引き継ぐ前は、冒険者として、騎士として、魔獣・魔物と戦っていた。だからこそ、目の前に横たわる黒いヘビが、どれほど恐ろしいものであったか、理解できる。
・・・・・・いや、本当の所は理解できていないだろう。私に分かる程度のことでは、足りぬだろう。だが、それでも何度頭を下げても足りぬことだけは、理解できた。
コトハ殿は、気にした様子もなく、笑っている。本当に凄い人だ。
だが私は聞かねばならない。今後のことを考える上で、コトハ殿たちの存在を見て見ぬふりなどすることはできないのだからな。
「コトハ殿。失礼を承知で聞きたいことがある」
「・・・ん? なに?」
「うむ。・・・・・・コトハ殿は、何者なのだ? これほどの強さの女性がいることを、最近まで聞いたことが無かった。いや、性別問わず、これほど強い存在を私は知らぬ。それに、その姿。『魔族』であるとは聞いていたが、その様な姿の『魔族』の存在を聞いたことが無い」
「・・・・・・うーん、何者か、ねー。難しいんだよなー・・・・・・」
命の恩人に限らず、このような質問をすることが失礼千万なことは百も承知している。それに、これまでの付き合いから、このようなことで腹を立てる人物ではないと思ってはいるが、万が一彼女が怒れば、我らには止めることはできない。
しかし、下手をすれば王族の皆様の生死以上に、彼女の正体は重要にも思えた。
「種族はね、『魔龍族』。それ以上のことは言えない、っていうか、私も分からない。クライスの大森林に住み始めたのは1年位前から。それ以前の記憶は無いの」
「『魔龍族』? そのような種族があるのか?」
「うん。あるとしか・・・。私の種族は間違いなく『魔龍族』よ・・・・・・」
意味が分からない。単なる『魔族』では無いと思っていたが、『魔龍族』だと?
なんだ、それは。聞いたことが無いぞ・・・
もしや、『ディルディリス王国』の王族の血縁か?
「・・・・・・その、『ディルディリス王国』と関係があったりは?」
「『ディルディリス王国』? それってクライスの大森林の南にある国だよね? 関係ないよ」
そうか。分からぬ。だが、彼女が我々と敵対する気が無いのは、間違いなかろう。
先の遠征時は敵対関係であったし、彼女の拠点へ侵入したランダル公爵の手の者は皆殺しにされている。彼女は敵に容赦はしないのだ。
そんな彼女が、命をかけて、魔獣から領都を守り、騎士団を守り、グレイムラッドバイパーを討伐した。その事実だけで、彼女を信じるには十分であろう。それに隠そうとしているのではなく、本当に分からないというか記憶にないといった感じか・・・・・・
種族やその出自について疑問はまだまだあるが、これ以上不躾に聞き続けるのは、悪手であろうな。
「そうか。相分かった。不躾なことを聞いて申し訳なかった」
「ん。別にいいよ。それで、これからのことなんだけど・・・」
コトハ殿がそう言いかけたとき、彼女はふらつき、地面へ倒れ込んだ。同時に翼や尻尾が消え、鱗も無くなった。
「コトハ殿!?」
「コトハお姉ちゃん!」
「コトハ姉ちゃん!」
私、カイト殿、ポーラ殿が同時に叫び、彼女へ駆け寄ろうとするが、それはかなわなかった。
突然、レーベル殿が姿を現したのだ。
♢ ♢ ♢
〜コトハ視点〜
身体が重い。この間、ツイバルド相手に火炎放射をぶっ放したときみたいな感じ。
いや、それとは比べものにならないくらい怠いけど・・・
立っていられなくなって、バランスを崩した。
カイトやポーラ、バイズ辺境伯が私の名前を叫んでいるが、返事をする気力も沸かない。
というかさ、グレイムラッドバイパーが現れて、死地と化しているここに、辺境伯本人が来たらダメでしょ・・・
なんとか意識を保とうとしていると、いきなりレーベルが現れた。
「コトハ様。ご無事ですか!?」
レーベルはそう言いながら、私へ駆け寄り、何やら魔法を発動している。
いや、魔力を流し込んでいる? 身体がポカポカしてくるけど・・・
「ん。レーベル? 大丈夫よ。なんか、疲れただけ・・・・・・」
「左様でございますか。コトハ様の体内の魔力が乱れております。私が魔力を流し、流れを正常な状態へ戻しますので、暫しお待ちください」
「・・・ん? 分かんないけど分かった。よろしく」
そう言って地面へ突っ伏す。
すると、不意に身体が浮かんだ。そしてそのまま、マーラの背中へと移動された。
みんなの話す声が聞こえる。
「カイト様。ポーラ様。お二人も、コトハ様ほどではありませんが、魔力が乱れております。スティアとシャロンにお乗りください」
レーベルがそう言うと、2人も自覚があったのか、頷きスティアとシャロンに跨がる。
「バイズ辺境伯。コトハ様方のこれ以上の戦闘は不可能です。拠点へとお連れ致します」
「了解した。改めて感謝を。できれば、今後の話し合いをするべく、2週間後くらいを目処に、領都へ来ていただきたいのだが・・・」
「承知しました。コトハ様方が出向かれるか、私が代役となるかは分かりませんが、何かしらの連絡を致します」
「ああ。頼む」
「それと、このグレイムラッドバイパーの死体ですが・・・」
「それは、コトハ殿たちだけで倒したものだ。我らは何ら主張するつもりは無い」
「承知しました。リン。このヘビを収納してください」
魔力は感じていたけど、やっぱりリンもいたのね。久しぶりに見たけど、なんか変わってない? 魔力が強いけど・・・
リンが、グレイムラッドバイパーの死体を『マジックボックス』へ収納したのが見えた。
「それでは、皆様。失礼致します」
レーベルがそう言いお辞儀をすると、マーラたちが、クライスの大森林へ向かって走り出したところで、意識を保つのが限界になり、目を閉じた。
♢ ♢ ♢
〜カイト視点〜
繰り返し押し寄せる魔獣の群れとの戦闘、グレイムラッドバイパーとの死闘から、1週間が経過した。
結局、コトハお姉ちゃんとポーラ、マーラたちも戦闘に参加して、1か月間戦い続けた。最初は僕1人でバイズ辺境伯を助けようと思っていたけれど、コトハお姉ちゃんたちも戦ってくれて本当に良かったと思う。
人が死ぬところを見たのは初めてじゃ無いけど、ファングラヴィットの突進で吹き飛ばされ、フォレストタイガーに噛み切られ、ツイバルドに心臓を抉られる。そんな光景を見たのは初めてだったし、領を守る、人を守ることがどれだけ難しいことなのかを実感した。
最後のグレイムラッドバイパーとの戦いの最中に、コトハお姉ちゃんが進化して、僕とポーラも進化した。僕とポーラは『人龍族』という聞いたことの無い種族になっていて、しかも『コトハ・ミズハラの眷属』という称号まで付いていた。
称号は、何かの条件を満たしたり、何かを成し遂げたりすると付されるものだと習ったことがある。これまでは僕に称号は無く、ポーラに従魔契約を結んだ証の『シャロンの主』があっただけだった。
だからとても驚いたが、別にイヤな気はしない。むしろ、コトハお姉ちゃんとの関係が、世界に認められた気がして、とても嬉しかった。
ポーラなんかは嬉しそうに、「コトハ姉ちゃんの眷属、ポーラです!」と名乗っていた。
そんなコトハお姉ちゃんは、あれから目を覚ましていない。
僕とポーラは、拠点へ戻って2日ほどは寝ていたらしいが、既に今まで通り動ける様になっている。・・・・・・いや、今まで以上に動ける様になっている。
レーベル曰く、進化により溢れ出した力を、肉体に馴染ませている段階で、どれだけ時間を必要とするか、分からないとのこと。コトハお姉ちゃんは、魔素が豊富なところでは、食事をしなくても問題ないらしいけど、1週間寝たきりだと、心配が増すばかりだった。
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