第112話:領都へ
〜カイト視点〜
あっという間にフェイが、僕の専属メイドになった。
レーベルが言っていたように、コトハお姉ちゃんのことは了解しているそうで、目覚め次第挨拶をするとのこと。
レーベルとフェイ、それからポーラに仕えるべく来るであろう『悪魔族』は、それぞれの主である僕らが、単独で命令権を有することになるらしい。けれど、彼らにとって僕たち3人は、全て主みたいなものとの認識らしく、問題が起こることはないとのこと。
・・・・・・それに僕やポーラが、コトハお姉ちゃんと揉めることがあるとは思えないし。
フェイは、レーベルから僕らのことや、現在の状況なんかの情報は、既に与えられていたようだった。
なので、
「じゃあ、フェイ。僕と一緒に領都へ行ってくれる?」
「もちろんでございます!」
と、嬉しそうに返事をされた。常に冷静で、静かな感じのレーベルと違って、フェイは感情が表へ出るタイプだ。レーベルは、「執事たるもの・・・」とか言っていたけど、僕としては感情が出ても良いと思う。結局は、個性の範囲だしね。
こうして、領都へは、僕とフェイの2人で行くことが決定した。
その後、起きてきたポーラにフェイを紹介したが、予想通り、驚くほど早く懐いていた。
途中でフェイが来て、話が中断したが、最後に『人龍族』について、レーベルやフェイに聞いてみた。
しかし2人とも、初めて聞く種族とのこと。古代の『龍族』が生きていた時代に、『人間』はいなかったようで、『龍族』となったコトハお姉ちゃんの眷属となったことで、新たな種として誕生したのではないかとのことだった。
眷属とは、『龍族』に仕えていた者を言うらしい。といっても、レーベルたち悪魔族はそれに含まれない。
なんでも、『龍族』の魔力を受け入れ、進化した存在のみが、そう呼ばれていたらしい。単に仕えているというよりも、家族に近しい存在とのことだった。
そう言われれば、納得するほかない。僕やポーラは、コトハお姉ちゃんを、親のような姉のような存在だと思っているし、家族だと思っているからね。
♢ ♢ ♢
バイズ辺境伯に言われた2週間が迫っており、僕とフェイは、領都へと向かった。
途中、1か月近く守り抜いた陣地の場所を通ったが、少数の騎士さんが駐留しているのみで、戦いの痕跡は無かった。
駐留していた騎士さんたちは、一緒に戦った人たちだったので、挨拶を交わして、領都へと向かった。
領都の周辺は、騎士が小隊規模で巡回しており、物々しい雰囲気が漂っていた。
レーベルの指摘通り、大規模な魔獣の襲撃は終わったけれど、それに影響されて、小規模な襲撃や、クライスの大森林以外の場所からの襲撃は散発的に起こっているようで、その警戒をしているとのこと。
領都の門へと向かうと、レーノさんを見つけた。
「お久しぶりです、レーノさん」
「これは、カイト殿。先の襲撃の際は、本当にお世話になりました。今日は、アーマス様の元へ?」
「はい。あの時は、バタバタと拠点へ帰ってしまったので。2週間ほどしたら来て欲しいと頼まれていましたし」
「そうでしたな。私がご案内致します。それで・・・、そちらは?」
「この人は、フェイです。僕の・・・・・・、メイドです」
「フェイと申します。以後お見知りおきを」
「これは、ご丁寧に。レーノ・フラークと申します。それでは、お二方はこちらへ」
レーノさんに案内され、領主のお屋敷へと案内された。
何回か来たことがあるが、今日は少し様子が変わっている。
まず、やたらと警備が多い。完全武装の騎士や兵士が、敷地全体を取り囲むように配置されている。そういえば、町の中も、巡回している警備兵がとても多かった。
「レーノさん。なんか、警備が凄いですね・・・」
「ああ、はい。現在、ラシアール王国の反ランダル公爵派のお偉方が勢揃いしておりますから。下手なことがあってはなりませんので、警備を強化しております」
「・・・なるほど。でも、そんな大事なときに、僕が来て大丈夫なんですか?」
「いえ、むしろ必要なんですよ。詳細は、アーマス様から説明があると思いますので、ご心配なさらないでください」
そう言うと、レーノさんは門番へ合図し、敷地の中へと入っていく。
僕たちも後に続くと、大きなお屋敷の前には、何台もの大きな豪華な馬車が停まっていた。どう見ても、貴族の馬車だよね・・・
レーノさんに案内されて、いつもバイズ辺境伯と話をする応接室に通された。
大きな椅子の真ん中に座ることに躊躇しながら、座って待つ。試しにフェイも誘ってみたが、予想通り断られた。
いつもは、コトハお姉ちゃんとポーラと一緒に座っているから、1人というのはなんだか落ち着かない。
けど、コトハお姉ちゃんの代理として、しっかりしないと!
少しして、部屋にバイズ辺境伯が入って来た。一緒に、ボードさんやオリアスさんが入って来る。
それから、もう2人。派手さはないが一目で高級だと分かる服装をしている、バイズ辺境伯と同じくらいの年齢の男性と、その男性を護衛していると思しき、騎士鎧に身を包み帯剣した男性だ。
誰?と思っていると、バイズ辺境伯が口を開いた。
「待たせたな、カイト殿。それと、カイト殿のメイドと言ったか?」
「こんにちは、バイズ辺境伯。こっちは、僕のメイドになったフェイです」
僕が紹介すると、フェイが静かに礼をした。
「そうか、よろしく頼む」
よく考えたら、身分の不安定な僕の従者というわけで、バイズ辺境伯が挨拶する必要はないと思うんだけどね・・・
相変わらず、僕たちサイドの人間には、すごく丁寧に接してくれる。
この間は思わずコトハお姉ちゃんの種族を聞いていたけど、あんなの見せられたら聞きたくなるのも分かる。お姉ちゃんもまったく気にしてなかったしね。
「それで、カイト殿。今日はコトハ殿は・・・」
「はい。コトハお姉ちゃんは、あの戦いの疲労がまだ癒えていなくて。代理で僕が来ました」
正確なことを伝えようか迷ったが、バイズ辺境伯との今後の関係がどうなるのか分からない。それに、見知らぬ人もいる場所で、軽々に大事そうな情報を明かすのは憚られた。なので、最低限、コトハお姉ちゃんが来られなかったことだけ伝えておく。
「・・・そうか。申し訳ないが、心から回復を願っている旨、伝えておいてくれ」
「分かりました。それで、今日は・・・」
「ああ。だがその前に、紹介させてくれ。こちら、カーラ侯爵だ」
バイズ辺境伯は、そう言って、横に座る男性を紹介した。カーラ侯爵というと確か、財務卿を務めている、ラシアール王国の財政関係を司っていた貴族なはずだけど・・・
「初めまして、カイト殿。ハール・フォン・カーラです」
「初めまして、カーラ侯爵。カイトです」
そう言って挨拶を交わすと、バイズ辺境伯が口を挟んだ。
「カイト殿、カーラ侯爵に、昔の名を教えてやってはくれぬか?」
「・・・え? 別に構わないですけど・・・」
唐突にそんなことを言われて、一瞬戸惑った。
しかし、別に隠しているわけではないので、伝える。
「僕の昔の名前は、トーマス・フォン・マーシャグです」
「なんだと!?」
昔の名を伝えた途端、カーラ侯爵が大きな声を出しながら立ち上がった。僕はビックリして、後ろへ下がってしまった。カーラ侯爵の勢いは、それほど凄いものだった。
気を取り直して、カーラ侯爵へ確認する。
「・・・えっと、カーラ侯爵。僕のことをご存知なのでしょうか?」
「ああ。もちろん、知っているとも。君のことも妹君のこともな。マーシャグ子爵は、とても優秀な男で、多くの重要な案件を任せていた。家族ぐるみでの交流もあって、君らが幼い頃に、抱かせてもらったこともあるくらいだ。そうか、そうか。無事であったのか・・・」
「ちなみに、ハール。妹君も生きておるぞ。現在はポーラ、と名乗り、カイト殿と一緒に暮らしておる」
「なんと! それは真か、アーマス!」
「こんな嘘を吐くほど落ちぶれとらんわ。カイト殿たちから頼まれたし、安全のためにも話してはおらんかったがな」
「そうか、そうか」
カーラ侯爵は、本当に嬉しそうに、涙ぐみながら、何度も頷いていた。
父がお世話になっている、上司にあたる貴族の家に何度か行った記憶はあるが、それがカーラ侯爵だったのか。
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