第107話:伝説の戦い3
グレイムラッドバイパーの攻撃は絶え間なく行われている。
火炎ブレスは手で防ぎ、石塊は避けたり叩き落としたり、毒ガスは『風魔法』で安全地帯を作りながら回避する。
そうして、遠距離攻撃を封殺していった。
逃げ回っているうちに、身体の変化にも慣れてきた。
翼と尻尾が生えたことにより獲得した飛行能力は、完全に使いこなせているとはいい難いが、複雑な動きでなければそれなりにできるようになった。
目的場所への移動中に攻撃の着弾を読んで進路変更する、といったこともできるようになってきた。
やはり、私の翼も、ツイバルドと同様に魔力を流して重力を操り滞空するタイプらしく、強く羽ばたく必要などは無く、方向転換時に軽く羽ばたく程度で十分だった。
尻尾は、舵としての役割とバランスを取る役割を担っているらしく、意識的に動かしているわけではないが、ある種本能的な感覚で動かしていた。
グレイムラッドバイパーは、どの攻撃も不発だと理解したようだ。
さっきからしきりに、身体を動かしている。
それまでは、身体の大部分は、とぐろを巻いたまま動かさず、頭や首を動かすことで魔法や毒ガスの狙いをつけ、尻尾を動かしてカイトやシャロンを叩こうとしていた。
しかし、それが通じなかったことで、次なる攻撃を行おうとしていた。
突然、首を縮めたかと思うと、一気にジャンプして、こちらへ頭突きをかましてきた。
とぐろを巻いていた身体をバネの代わりにして、かなりの威力と速度で突撃してきたのだ。
首を縮こめたタイミングで、狙いは分かっていたので回避できたが、あれを喰らえばひとたまりもないだろう。
着地したグレイムラッドバイパーは、残っていた身体の下部を持ち上げて、尻尾を叩き付けてきた。
瞬時に回避行動を取ったが、今度は尻尾の先端が左肩あたりに命中し、地面に叩き付けられた。
「・・・・・・った。そろそろこっちも攻撃しないとだよね」
身体に変化が起こって直ぐよりも、少し逃げ回ったことで、湧き出していた力をより正確に、強く感じることができていた。
身体を循環する魔力の量や質も向上している。
それに、手足に変化が生じていた。
これまでは、それこそドラゴンの手、ドラゴンの足といった感じで、爪や指が長く、大きくなっていた。
それが、元々の手足のサイズよりは大きいものの、二回りほど小さくなっていた。
しかし、爪の硬さや鋭さ、流れる魔力や込められている魔素の量は、比べるのもバカバカしいほどであった。
そして、全身を覆う鱗が、前よりも輝きを増し、我ながら神々しささえ感じるほどであった。
そんな変化した私の身体にとって、尻尾の先で殴られ、地面に叩き付けられる程度、気にするような攻撃ではなかった。
・・・まずは、魔法を試すか。
そう思い、
「今度はこっちの番ね!」
そう叫びながら、『ストーンバレット』を発射する。
特に、強く魔力を込めたわけではないが、かなりの速度・威力の楔形の石弾がグレイムラッドバイパーへ向かっていく。
グレイムラッドバイパーはとっさに、身体を縮めて回避しようとしたが、何発かは命中し、身体に石弾が突き刺さっていた。
よし、効いてる!
こちらが続けざまに石弾や氷弾を放ち、それを一部回避し一部は被弾しながら、グレイムラッドバイパーが飛びつき、尻尾を振り回し、噛み付く。
そんな攻防を15分ほど続けたことで、グレイムラッドバイパーの鱗はかなりボロボロになっていた。
所々、血なのか体液を垂れ流している場所もあり、大分弱ってきた感じだ。
一方の私は、まだまだ不慣れな飛行のせいで、何回か攻撃を喰らったし墜落もしたが、特にダメージはない。
ただ、飛び回るのは神経を使うし、場合によってはかなりアクロバティックな動きをしたため、疲れは出てきている。
・・・そろそろ終わらせたいな。
♢ ♢ ♢
〜ポーラ視点〜
グレイムラッドバイパーが口から赤い何かを発射した。
それが何かはよく分かんないけど、私を狙っているのは分かった。
避けようとするけど間に合わない。
マーラが私の前に出ようとしている。
「ダメ!」と叫ぼうとしたけど、それも間に合わない。
怖くて目を瞑ることしかできなくて、それが当たると思った。
・・・・・・え?
ゆっくり目を開けると、そこにはコトハ姉ちゃんがいた。
いつも私を守ってくれる、助けてくれる、一緒に笑ってくれる、大好きなコトハ姉ちゃん。
コトハ姉ちゃんが、私と赤い何かの間に入っていた。
「逃げて!」と叫ぼうとしたけど、不思議な感じ。
コトハ姉ちゃんが浮いている。
空中に浮いて、グレイムラッドバイパーが発射した赤い何かを受け止めている・・・?
コトハ姉ちゃんが受け止めているのを見て、それが火だと気づいた。
コトハ姉ちゃんが、ツイバルドに向けて使った火炎放射と同じ?
でも、コトハ姉ちゃんはなんでそれを受け止めて平気なの?
よく分かんなくて、その場でコトハ姉ちゃんを見つめていた。
すると、コトハ姉ちゃんがお兄ちゃんと私に下がっているように叫んだ。
お兄ちゃんが、私の側に来て、シャロンも来た。
2人とも私を心配してくれていた。
みんなが側に来たので、少し落ち着いた。
それからよく見ると、コトハ姉ちゃんの背中に翼が生えている。それにお尻から尻尾が生えている。
「お兄ちゃん。コトハ姉ちゃんに翼と尻尾あるよ」
「・・・ああ。生えてるよね・・・・・・。さっきまでは無かったし、今さっき生えた?」
「・・・翼って、いきなり生えるの?」
「いや、そんなわけないけど・・・。でもコトハお姉ちゃんは『魔竜族』っていう珍しい種族だし、よく『いつ翼が生えるんだろう』って言ってたから・・・・・・」
「それに、なんかキラキラしてる。いつも綺麗だけど、もっと綺麗」
「あ、ああ。そうだね・・・」
いつもコトハ姉ちゃんはとっても綺麗な美人さん。
けど、今のコトハ姉ちゃんは、いつもよりもっと綺麗でもっと美人さんだった。
それからグレイムラッドバイパーは、いろんな攻撃をコトハ姉ちゃんにしていたけど、どれも通じなかった。
毒ガスを吐いたときは、お兄ちゃんに言われるとおりに、『風魔法』を使って、風の防壁と、後ろの騎士さんに毒ガスが流れないようにする風の流れを、シャロンと作った。
コトハ姉ちゃんはたまに攻撃を受けるけど、怪我もしないで、攻撃していた。
私の魔法では、小さな傷しか付かないのに、鱗を壊して、石弾が身体に突き刺さっていた。
やっぱりコトハ姉ちゃんは凄い!
そんな風に眺めていると、身体の奥底から力が沸いてくるような、そんな感じがした。
びっくりしてお兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんも驚いた感じで、自分の身体を見つめていた。
「お、お兄ちゃん。なんか、変な感じ」
「ポーラも? 僕も身体から力が湧き出てくるような、そんな感じがして・・・」
お兄ちゃんと同じ症状みたいで、少し安心した。
けど、沸いてくる力はどんどん強くなっている。
そしていきなり、身体を何かが駆け巡った感じがした。
それと同時に、感じていた力が、自分のものになったような、そんな変な感じがした・・・
♢ ♢ ♢
〜コトハ視点〜
さすがにそろそろ倒したい。
そう思っていると、後方から強い魔力の流れを感じた。
驚いて振り返ると、カイトとポーラの身体が少し光っている。それに魔力を感じたのは、2人からだ。
「カイト! ポーラ! 大丈夫!?」
思わずそう叫ぶと、
「うん! 大丈夫だよ! なんか力が沸いてくるし、身体がビビってしたの!」
と、ポーラが説明してくれた。けど、それでは全く分からない。
いつものようにカイトが補足しないところをみると、カイトも似た感じなのだろうか・・・?
グレイムラッドバイパーの動きに警戒しつつ、2人を鑑定してみた。
すると、これまで成長してスキルのレベルが上がったものの他に、変化しているものがあった。
種族、だ。
2人の種族は、『人間』だった。
2人は『人間』を主な構成員とするラシアール王国の旧貴族家の出身で、最初に鑑定した時も『人間』だった。
しかし、今の2人の種族は、『人龍族』となっていた。
そして2人の称号。
それまではカイトには称号が無く、ポーラには『シャロンの主』という従魔契約を結んだことを示す称号だけが示されていた。
しかし、今の2人には共通して『コトハ・ミズハラの眷属』という称号が付されていた。
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