第106話:伝説の戦い2

「ポーラ!」


グレイムラッドバイパーの狙いに気づき、声を上げるが、ポーラの回避は間に合いそうにない。

見ると、ポーラの横にいたマーラが、ポーラを庇おうと、ポーラの跨がるスティアの前に出ようとしていた。

しかし、それも間に合わない。


私は無我夢中で、ポーラと迫り来る火炎 —グレイムラッドバイパーの火炎ブレス— の間に入ろうと、脚に力を込めてジャンプするが、間に合うわけもない。




いや、違う。間に合わせる。必ず間に合わせる!

・・・・・・間に合え、間に合え、間に合えぇー!!


ポーラを失うなんて、絶対にイヤだ!


「ポーラ!!!!」







一瞬、意識が飛んだような、そんな感じがした。

まるで周りの時間が止まってしまったような、そんな感じ。


どういう状況?

グレイムラッドバイパーの火炎ブレスが、ポーラを襲いかかろうとして、でも私じゃ間に合いそうにもなくて。でも、間に合わせようと、ありったけの力、魔力を込めてジャンプして、手を伸ばして・・・・・・



そして気がついた。

私は今、身体の前で両手を交差させ、X字を作るようにしている。

そして私の手は、グレイムラッドバイパーから放たれた火炎ブレスを、受け止め続けている。


・・・・・・受け止めてる?

私が? あの火炎を?

そう驚いてしまったが、直ぐにポーラを確認する。


ポーラは、迫り来る火炎を前に、顔を伏せているが、特に攻撃を受けた様子はない。

となると、間に合ったということ?

どう考えても、間に合いそうにはなかったんだけれど・・・・・・


それに、ずっと火炎を受け続けているのに、熱くないな。

どういうわけか『自動防御』は仕事をしていないようで、交差させている腕に、火炎が当たり続けているような気がするが、特にダメージを受けている様子もない。





・・・・・・というかさ、さっきポーラを確認したときに違和感があったのだけど、私、空中にいる?

そりゃ、ジャンプしたときに、空中へ跳び上がりはしたけど、ポーラの前に着地する予定だった。


火炎ブレスの推進力で押し上げられているのかとも思ったけど、グレイムラッドバイパーは見下ろす形で、火炎ブレスを吐き下ろしており、地面に叩き付けられるならともかく、空中に止まる意味が分からない。



もう間違いないよね、私が浮いているんだ。

・・・でもなんで?


そう思い、もう一度振り向くと、自分の背中に翼が生えているのが確認できた。

不思議と感覚もあるので幻覚ではなく、間違いなく生えている。

肩甲骨当たりから伸びる太めの骨のようなもの。そこから、3本の似たようなものが伸びている。

そして、4本の骨のようなものの間を、薄い膜のような皮膚のようなものが覆っている。

それはもう、イメージするドラゴンの翼そのものだった。


そして、身体を循環している魔力が、肩甲骨当たりから生える太い部分を通り、翼にも流れているのが分かった。



それともう一つ、飛んでいる理由を探ろうと自分の身体に意識を向けたときに感じた違和感。

お尻付近、尾骶骨のある場所付近から感じる違和感だ。


不思議なもので、感覚がある。

手や足を自由に動かすことができるのと同様、こちらも動かすことができた。

・・・・・・尻尾だ。

それなりの長さのある尻尾が、生えていた。



少し冷静になり、自分の身体の変化を確認していたが、現在進行形で火炎ブレスを受け止め続けている。

まあ、熱くもないし、痛くもない。特に押されている様子もない。


ただ、今は戦闘中だ。

いろいろ確認したいし、試したいが、グレイムラッドバイパーを仕留めるのが優先だ。

なぜだか不明だが、グレイムラッドバイパーを倒すことができると確信していた。

身体の奥底から、力が湧き上がってくるような感覚があり、今なら私の攻撃が通用するような、そんな気がした。





ポーラが燃え尽きたと思ったのか、防がれていることに気がついたのか。グレイムラッドバイパーが、火炎ブレスを止めた。

カイトは、私が攻撃を防いだことは確認しており、油断なく攻撃の隙を窺っている。

・・・・・・あの目は、いろいろツッコみたそうにしてたけどね。


火炎ブレスは、グレイムラッドバイパーの保有していた魔力をかなり使ったようで、全身を循環していた魔力の流れが、少し弱まっているのが感じられた。

・・・・・・魔力を感じる能力も上昇しているのか。



「カイト! ポーラ! 1回下がって!」


さっきの火炎ブレス。あれクラスの攻撃が来れば、カイトやポーラは無事ではいられない。

毎回、運良く盾になれるとも思えない。

それに、カイトやポーラは、既にかなり疲労しているし、ポーラに関しては、先程の火炎ブレスで、精神的にダメージを受けているのが見て取れた。

そりゃ、まだ7歳の女の子だ。いくら戦いに慣れてきたとはいえ、あんなのが迫ってきたら怖くなって当然だ。


・・・・・・私も怖くなって不思議ではないんだけど、そんなことはなかった。

『精神耐性』が働き過ぎなのか、慣れきったのか。完全に防ぎきったから、恐怖が沸かないだけとか?


そして、確実に起こった私の変化。

少なくとも翼が生え、尻尾が生えている。それに、明らかに力が増している。

最初に『竜人化』を使えるようになったときと同じく、力の制御が難しく、意図せずバカ火力の攻撃を放ってしまうかもしれない。それにカイトたちを巻き込むなんて論外だ。


カイトは、不承不承といった感じだが、ポーラが怯えていることには気づいており、ポーラを庇うように側へと下がった。

同様にシャロンもポーラの側へ行き、マーラとスティアが壁となって防御している。



グレイムラッドバイパーは状況がよく分からないようだが、一番近くにおり、火炎ブレスを受け止めたことを認識した私を敵と認識したようだ。

今度は、私たちの身長ほどの大きさの石塊を無数に作り出し、私めがけて乱射した。


空中で停止したままでは、良い的になってしまう。そう思い、地面へと下りようと思ったが、1個の石塊が私の顔面を捉えていた。

・・・・・・地面に下りるのでは間に合わない。

そう思い、とっさに少し離れた場所を認識した途端、身体が自然とその場所目がけて移動した。


「え?」


驚きつつも、もう一度、別の場所を意識すると、そこへ身体が自然に移動した。

少なくとも、移動できたことは間違いない。


石塊が迫りつつあるので、それを避けつつ、移動を繰り返す。

それと同時に、身体の動き、魔力の流れを確認する。

どうやら、翼を動かしている様子はない。だが、翼は、身体を循環する魔力の通り道に含まれており、移動するときに翼から魔力が放出されていることが確認できた。


そして、尻尾も動いている。

意識はしていないが、移動するとき、その場で止まるときで、尻尾の動きや向いている方向が異なる。これは、自分の意思でその様に動かそうとしたのではなく、そうするのが正しいと、なぜか感じていたのだ。

・・・・・・本能的に動いているってこと?



詳しい検証は、後にしよう。

少なくとも、狙った場所へ真っ直ぐ移動する程度には、自由に動き回ることができた。


いくら石塊を放っても当てられないと気づいたグレイムラッドバイパーは、次なる攻撃を仕掛けてきた。

口から、紫色の煙が出てきたのだ。

どう考えても、毒ガスだ。

前に戦ったグレイムラッドバイパーにも毒袋があったしね。



私は同じ方法で、グレイムラッドバイパーの上へと移動した。

毒ガスは空気よりも重たいのか、そのまま下へと向かっていたのだ。

カイトたちも毒ガスだと気づいたようで、ポーラとシャロンが『風魔法』で、風の流れを操り、自分たちを守っている。

それに、おそらくカイトの指示だろうが、毒ガスが後方にいる第3部隊の方へ流れて行かないように、風の流れを作り、毒ガスを散らしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る