第105話:伝説の戦い1

カイトとポーラ、マーラにスティア、シャロンと一緒に、グレイムラッドバイパーの近くへ到着した。

既に騎士団の第2部隊、第4部隊は領都方面へと撤退している。

それぞれ分かれて、更なる魔獣・魔物の襲撃に備える予定だ。

第3部隊は、私たちの後方1キロくらいの場所に展開している。



既に身体を地上へと出していたグレイムラッドバイパーは、想像以上の大きさだった。

巻いているとぐろは、小山のようになっていて、その上から頭部を突き出す感じで、周囲を見渡している。

特に暴れた様子はないが、この巨躯が地中から這い出るだけで、一帯の地面がボコボコになり、土や石が巻き上げられて、散乱していた。



改めて、グレイムラッドバイパーをよく観察する。

体躯の大きさは言うに及ばない。

全身の色や、稲妻のような模様は、以前のと同じ。

だが、身体を覆う鱗は、見るからに格が上だった。


自分の身体の魔力の流れを感じることができるようになり、周囲の大きな魔力の流れも感知できるようになった。

それによれば、グレイムラッドバイパーのうろこ1枚1枚に強力な魔力が流れている。

そして、うろこ1枚1枚の魔力の流れが、大きな波のように身体全体を包み込んでいる。

私が、強い魔法を撃つときに、魔力を循環させ、手に集めているのと似たような感じだろうか。



グレイムラッドバイパーは、徐々に近づいていく私たちを最初は気にしていなかった。

しかし、ある程度近づいたところで、顔を下げ、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。

その目は、「これ以上、近づくな」とでも言っているかの如く、迫力満点である。


しかし私たちも、ここで悠長にしているわけにはいかない。

ヘビの威嚇を無視して歩き続けると、今度は口を大きく開けて・・・・・・


「シューーー」


と、いう鳴き声を発した。

その鳴き声は、大きさ自体たいしたことは無いが、全身を不快な感覚に陥れるものだった。

・・・黒板を爪で引っ掻いたときの音みたいな感じかな。

若干だけど、魔力を混ぜているみたい?


その直後、これまで感じたことの無いような強い魔力を感じた。

見ると、全身から魔力が放出されている。

・・・オーラを放って、威嚇しているのか。


カイトたちもオーラの放出を感じたようで、少し気圧されている。

これまで戦ってきた中で、間違いなく最強の相手だ。ぶっちゃけ、怖い。

最近は、ファングラヴィットごときに恐怖を感じたりはしないが、これは怖い。


とはいえ、自分で戦うと宣言し、騎士団を下がらせたわけだ。

オーラにビビって、逃げ出すなんてあり得ない。

最初は乗り気ではなかったが、今はもう、カイトへ協力することを超えて、私自身がバイズ辺境伯領の皆んなを守りたいと思っている。



「カイト! ポーラ! ビビっててもしょーがないし、始めるよ!」


2人にそう声をかけると同時に、『竜人化』をフル発動する。

これまでは、『魔竜族』ということを隠している関係で、手や足など、目立つ場所は変化させていなかった。

当然、角なんかも出していない。

ただ、今はそんな次元ではないのだ。



ポーラと視線を交わして、グレイムラッドバイパーの顔や牙、首あたり、とぐろを巻いている胴体に、石弾を叩き込んでいく。

とりあえずは、効果があるかを調べないと。


同時にカイトとシャロンが、グレイムラッドバイパーに接近し、物理攻撃を仕掛けていく。

カイトは私の提供した素材を使って作られた、双剣で。シャロンは牙と爪を使って攻撃していく。


普段、石弾の形は何パターンかを使い分けている。

もちろん、これしか作れないのではない。ただ、場面によって有用な形を変えていった結果、ある程度固定化されたのだ。まあ、いちいち形を考えイメージする手間が省けたのだけれど。

今回はその中でも、殺傷力重視の楔形 ―四角錐にして、先端をできる限り尖らせ貫通力を高めたタイプ— と、球型 —球体にして、とにかく衝撃を与えることだけ考えたタイプ— を使用している。

『風魔法』でドリルのように回転させ、直進力を高め命中率を上げつつ、速度を上げることで威力を上げている。


予想外に、楔形は鱗に傷を付けることに成功した。

流れる魔力によって魔素が集められ、直ぐに修復されてしまうが、同じ場所に何発も連続で叩き込めば、鱗を破壊できるかもしれない。


一方で球型は、あまり役立っていない。

腹部にクリティカルに命中しても、グレイムラッドバイパーは意に介さず、避ける素振りもしない。

身体がでかいため、少々の衝撃ではビクともしないのだろう。



カイトの対魔獣における戦法は大きく分けて2つだ。

まずは、素早く動き回り、相手の動きを警戒しながら、的確に急所を攻撃して、一撃で仕留める方法。これは、ファングラヴィットのように、比較的小さく、動きが素早いやつを相手にする時に使用する。

もう一つは、とにかく手数を多く、切りつけまくる方法だ。身体の大きい相手 ―もちろん今回も— の相手をするときに使う。

もちろん、大きな戦法の中に、カイトがレーベルとの訓練で身につけた様々な剣捌きや体捌き、今回の防衛中に騎士たちに仕込まれた戦士の動きを多く用いている。


それに加えて、あまり得意ではない魔法を、補助的に使用している。

『土魔法』で空中に足場を作り、それを駆け上がって相手の上をとる。

作られた足場は、出現と同時に重力に従って落下していくが、『身体強化』を使用しているカイトが駆け上がるのには十分だった。


そんなカイトの攻撃は、グレイムラッドバイパーにとってかなり鬱陶しいものであったようだ。

カイトは『身体強化』を発動させ、グレイムラッドバイパーの身体に乗っている。

そして、身体の上を走り回りながら、私たちの攻撃で傷付いた鱗や、腹側の比較的柔らかいところを斬りつけまくっている。

そして、足場を作って身体から離れ、上から再度仕掛けるといった攻撃を繰り返している。

攻撃が嫌なのか、乗られているのが気に食わないのかは不明だが、グレイムラッドバイパーの意識はかなりカイトに向いている。


シャロンの攻撃も、カイトに似た感じ。

もっとも、シャロンは攻撃魔法も多く使える。

同じく傷付いた鱗や腹側を狙って、風刃をぶつけたり、爪で切り裂いたりしている。

それに、顔周りを中心に飛ぶことで、あえて視界に入り、カイトに向く意識を逸らしたり、集中力を削いだりしている。



もっとも、どの攻撃によっても、目立ったダメージを与えられているようには思えない。

一方のグレイムラッドバイパーも、私たちの排除を試みてはいるが、身体を捻ったり噛み付いたりしているだけで、特に攻撃を喰らってはいない。



・・・・・・このままじゃ、埒が明かないな。

いや、そのうちカイトやシャロンは疲労で動きが鈍る。

ポーラも私ほど魔法を撃ち続けられるわけではない。


「ポーラ。私もカイトと一緒に直接殴るから、魔法で援護お願い。楔型を使って、鱗に傷を付けまくって!」

「分かった!」



ポーラに指示を出し、グレイムラッドバイパーに近づく。

私もカイトと同様に足場を作りつつ、魔力を手に込めながら、爪で引っ掻き、グーで殴る。

最近分かったのだが、殴る蹴るといった、物理攻撃の場合でも、魔力を循環させ、込めた方が、爪が鋭く頑丈になり、威力が増すのだ。

おそらく、『身体強化』のような状態になっているのだろう。カイトの『身体強化』というスキルも、魔力を身体に循環させ、身体能力を大幅に向上させるものである。

それと同じことが、全身が鱗で覆われ魔力の循環している『竜人化』状態では起こるのだと思う。

まあ、カイトほどの技能は無いし、使いこなせてはいないけれど・・・





ポーラが鱗に軽く傷を付け、それを目印に私、カイト、シャロンが攻撃をしていく。

そのタイミングがずれると、鱗が修復されてしまうが、連携が上手くいくと、鱗を破壊することができた。


攻撃を開始してから30分近く経過したが、破壊した鱗は100枚近い。

あの巨体に生えている鱗の数からすると微々たるものではあるが、鱗の下の皮膚を狙えるようになっていた。

しかし、その攻撃もそれほどダメージを与えることができているようには見えず、ただただ疲労が蓄積していくだけだった。



そうして、それぞれが疲労を感じつつ、攻撃を続けていたが、おもむろにグレイムラッドバイパーが首を高く持ち上げ始めた。

それと同時に、グレイムラッドバイパーの全身から口付近に魔力が集中しているのを感じた。


「何か仕掛けてくるよ!」


私がそう叫んだとの同時に、グレイムラッドバイパーが口から火炎を吐き出し始めた。

それは、私がツイバルドに使ったのとは比べものにならない高温・威力で、ポーラを目がけて放たれていた・・・・・・



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