第102話:領都防衛4

うーん、思ってたより上手くいったし、威力も高かったな。

けど、予想通り、かなり身体が重い。

冬の体育でマラソンを走り終わった後の最上位みたいな、そんな感じ。


マーラを呼んで、なんとかしてよじ登る。

正直、歩くのもしんどい感じだ。

やっぱ奥の手だな。

今、新手が来ると、かなり困る・・・



「コトハ姉ちゃん、大丈夫!?」

「・・・うん、大丈夫。思ったより疲れただけ。シャロンと一緒に、生き残りがいないか確認してくれる?」

「うん!」


確認はポーラに任せよう。

シャロンも一緒だし、スティアも近くにいる。

問題ないだろう。





後方でファングラヴィットと戦っていたカイトが走ってきた。


「お姉ちゃん! 大丈夫!?」

「大丈夫だよ。体力使い切っただけ・・・。そっちは?」

「うん、ファングラヴィットは、全部倒したよ」

「そっか、お疲れ様。騎士団の被害は?」

「えっと、7名の騎士の方が亡くなって・・・」

「・・・・・・そっか」


カイトが下を向き、唇を噛み締めている。

カイトらしいというか、なんというか・・・


「カイトのせいじゃないからね?」

「・・・でも」

「でも、じゃないよ。カイトはこの間13歳になったばかりなんだし、そもそも領都を助ける義務なんてない。カイトの意思で手助けして、しかも全力を尽くしたんだからね。亡くなった騎士たちも、カイトのことを責めたりなんかしないよ」

「・・・・・・」


カイトは納得してはいないけど、言いたいことはわかる、といった感じだった。

カイトの気持ちは理解できるけど、それではカイトが潰れてしまう。

私たちはただの援軍であり、この領都を守る責任は、騎士たちにあるのだ。

その責任まで、カイトが背負い込む必要は無い。



「それにさ、まだまだ敵が出てくると思うし、落ち込んでる暇は無いよ」

「うん。ありがとう」


カイトはそう言うと、スティアに跨がった。

ポーラが心配そうにカイトを見つめていて、そのことに気がついたカイトが、頭を振って、前を向いた。


「ポーラも怪我は無いか?」

「うん! シャロンと一緒に、たくさんやっつけたよ!」


ポーラの笑顔を見て、カイトの気持ちも少しは晴れたようだった。



ツイバルドの魔石は、結構大きくて、今後のゴーレム作りに活かせそうだと思ったので、いくつか回収しておく。

というか、火炎放射で焼き殺した個体は、魔石共々燃え尽きているものが多かったので、先に撃墜していた個体の分、30体分の魔石を回収しておいた。

この大きさの魔石は、バイズ辺境伯たちにとっても貴重だろうけど、これくらいは報酬として受け取っておく。

・・・・・・事前の取り決めにも無かったしね。





新手が出てきていないことを確認して、陣地のある場所へと戻る。

陣地の前に作った防壁付近は、死屍累々な状態であった。

ファングラヴィットの死体がそのまま放置され、地面は血みどろ、盾や騎士鎧の残骸も無数に転がっていた。

その一角に、布を掛けられた、7体の亡骸。

カイトの言っていた、戦死した騎士たちが横たえられていた。


近づき、黙祷する。

ポーラも、彼らがどういう状況なのかは理解したようで、一緒に祈っていた。



その後、レーノさんと合流する。


「レーノさん。お疲れ様です」

「コトハ殿にポーラ殿。ツイバルドを引き受けていただき、感謝する」

「ううん。あれは、空中に攻撃できないと、厳しいからね。それより、亡くなった騎士さんたちは、残念ね。心からお悔やみを」

「ありがとう。彼らは、勇敢に戦い散ったのだ。領都を、領民を守るという大義を胸に、騎士としての誇りを持ってな。この戦いが終わってから、厳かに弔うとするよ」

「そうね・・・・・・。それで、今の状況は?」

「うむ。戦死したのは7名。その他は頂戴した魔法薬のおかげで命に別状はないものの、34名が戦闘不能だ。他にも、盾や鎧が破壊された騎士も多く、戦力は半減だな・・・」

「・・・そっか。援軍は?」

「先程、領都より連絡があった。領軍の召集が概ね完了し、展開も済んだ。領軍が配備されたことで、騎士団の第2部隊と第4部隊が合流する予定となっておる。それと、魔道具の捜索だが、領都の半分ほどの捜索が完了したらしい。すでに何個も発見され、全て破壊している」

「・・・そうね。魔除けの魔道具とは原理が違うから、そっちの利用もできないし。安全策としては、壊すのが正しいよね」



レーノさんと今後の打ち合わせを行った。

現状、私たちは、疲労はあるが戦闘はできる。

まあ、私の体力は限界に近いし、ポーラもかなり疲れている。それにカイトは見えにくいが、ボロボロだ。

できることなら、少し休みたい。


第3部隊は戦力半減。

先程と同程度の襲撃があれば、間違いなく崩壊するだろう。

援軍の到着は、数時間以内の予定らしいので、それまでに新たな襲撃が無いことを願うばかりである。



 ♢ ♢ ♢



翌朝、幸いなことに森から新手が来るより先に、バイズ辺境伯領軍の援軍が到着した。

驚いたことに、バイズ辺境伯本人も来ていた。

領都の指揮は、次期当主のラムスさんが担っているとのことだ。

カイトとポーラはまだ寝てるけど、とりあえず挨拶だけしておこう。


「こんにちは、バイズ辺境伯。領主自らここに?」

「こんにちは、コトハ殿。最前線で戦っている騎士の様子を確認し、今後の戦略を練るには、自ら前線に行くのが一番だからな。それに今回は、コトハ殿たちとの打ち合わせもあるしな」

「そっか。亡くなった騎士さんたちは、残念ね」

「ああ。勝手に発生した魔獣の暴走であればいざ知らず、今回はランダル公爵どもが引き起こしたものである故、尚更だな。だが、コトハ殿たちがいなければ、もっと多くの、いや全滅していただろうと考えると、感謝が尽きんよ」

「何回も聞いたよ。騎士さんが亡くなったことに責任感じてるみたいだし、後でカイトに言ってあげて」

「了解した。それでコトハ殿、間諜や領の境界線に行かせたオリアスたちからの情報を伝えるぞ」



バイズ辺境伯によると、今のところランダル公爵は、王都やその周辺の領を制圧する以上のことはしていないらしい。

というのも、王都の南西方向にあるカーラ侯爵領やカーラ侯爵の派閥の中小の領が、完全に敵対しており、迂闊に行動できなくなっているとのことだ。


王族の安否も不明らしい。

現在、王位継承権を持っているのは、国王の長男である第一王子、第一王子の息子、国王の弟の3名だ。

王族ってもっとたくさんいるイメージだったけれど、現国王は妻を1人しか娶らなかったことに加えて、懐かしき第二王子は死んでいるからだ。


その全ての行方が分からず、ランダル公爵が躍起になって探しているらしい。

バイズ辺境伯は、カーラ侯爵の領地にて匿われているのではないかと、考えているらしいが、その確証はない。

現在は、どうにかカーラ侯爵と連絡を取れないか、使者を派遣しているらしい。


ジャームル王国は、目的通りに東のいくつかの領主を打ち破り、港のある領を目指しているようだ。

現状、ジャームル王国に太刀打ちできる勢力などおらず、進軍ルートである、ラシアール王国北部の海沿いの地域が、ジャームル王国に落ち、北東に位置する港のある領まで、占領されるのは時間の問題だろうとのことだった。





今ある情報の結論として、バイズ辺境伯は引き続き、クライスの大森林から出てくる魔獣や魔物の対処を最優先目標として、継続することにしたようだ。

ラシアール王国とクライスの大森林が接する境界線は、全てバイズ辺境伯領であり、現状でも、魔獣や魔物を受け止めることが、最優先の役割であると判断したとのことだ。

その上で、なんとかカーラ侯爵やランダル公爵と敵対している領主と連絡を取り、王都奪還に向けた方策を検討する予定とのことだった。


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