第101話:領都防衛3
〜カイト視点〜
戦端が開かれた。
突撃してくるファングラヴィットは、向かって右側が少し前に出ていた。
そのため、防衛陣形の右翼側から、激突した。
5人1組で臨んでいた騎士さんたちは、訓練通りに、ファングラヴィットを各個撃破している。
ただ、懸念していたように、数の差が現れている。
ファングラヴィットを受け止める構えを組んで、5人一体となっていた騎士さんたちの横を、ファングラヴィットがすり抜けていく。
後方に構えていた組で、ある程度は対処できるけど、それでも漏れは生じる。
次の瞬間、すり抜け先頭を疾走していたファングラヴィットが、お姉ちゃんたちの作った土の防壁に体当たりをかました。
次々に、頭から突っ込んで行くが、防壁が壊れる気配はない。
それどころか、トップスピードで突撃した個体から順に、気絶していた。
それを逃すレーノさんたちではなく、順次、始末していった。
ただ、順調に進んでいたのもここまでだった。
先頭集団の惨劇を目の当たりにしたファングラヴィットたちは、防壁への突撃を止め、騎士さんたちを、狙うようになったのだ。
前線でファングラヴィットを受け止めていた騎士さんたちも、何度も何度も体当たりを受け止めており、次第に耐えられなくなっていた。
タイミングよく構えを取ったように見えたのに、ファングラヴィットの突進で、後ろへ弾き飛ばされている。
・・・・・・このままじゃ、まずい。
「レーノさん! 僕が真ん中に突っ込みます! 手当たり次第に攻撃するので、弱ったところを仕留めてください!」
「心得た!」
レーノさんや騎士さんたちは、打ち合わせ通りに、展開している。
僕のやることは1つ。
さっきみたいに、正確に急所を攻撃するのではなく、どこでもいいから攻撃する。
ファングラヴィットの厄介なところは、素早く動き回ることなのだ。
頭でも胴体でも手足でも、どこでもいいから攻撃して、トップスピードを出せなくする。
出し惜しみせず、最初から全力でやる。
『身体強化』を発動して、近いやつから手当たり次第に殴りつけ、蹴りつける。
運良く顔や首に攻撃が入った個体は死んでいるが、ほとんどがその動きを鈍らせているに過ぎない。
けど、それで問題ない。
僕の攻撃で、少なからず怪我をした個体は、再び走り出すことなく、近づいてくる騎士さんたちに向かって、唸り声をあげている。
だが、素早さを失った手負いのファングラヴィット程度であれば、精鋭である第3部隊の騎士さんたちにとっては、問題ない相手だった。
残念ながら負傷させることに失敗した個体は、僕を避け、盾を構える騎士さんたちを目指していく。
ここに手を貸すことはできないので、最後の力を振り絞ってもらうしかない。
騎士さんたちの無事を祈りながら、攻撃を続けた。
どのくらい時間が経ったか分からない。
いや、実際には十数分だと思うけど、こんなに神経をすり減らしたことはないかもしれない。
ただ、どうにかファングラビットを全滅させることができたと思う。
まだ何羽か、動いている個体はいるが、すでに立ち上がることさえできなくなっており、近くにいた騎士さんが、始末に向かっている。
お姉ちゃんやポーラたちも、ゆっくりだが順調に、ツイバルドの数を減らしている。
今から向かえば、援護できるけど、多分いらないよね・・・・・・
コトハお姉ちゃんのあの目。もの凄くムカついてる気がするし・・・
たぶん、どデカいの使って終わらせそう。
「カイト殿。お疲れ様です。お怪我はございませんかな」
「レーノさん。お疲れ様です。何回か攻撃は喰らいましたが、問題ないです。皆さんは?」
「ああ。・・・・・・残念ながら、7名戦死した。いずれも、盾を担当していた騎士だ」
「・・・・・・そう、ですか。僕がもっと、うまくやっていれば・・・・・・」
「それは違うぞ。むしろ、カイト殿がいなければ、あの作戦で、危険の中に飛び込む役目を担ってくれなければ、もっと大勢が死んでいた。それに、カイト殿たちから提供された、魔法薬。あの薬のおかげで、大怪我を負った騎士が何名も命を繋ぎ止めたのだ。騎士たちの長として、心から感謝する」
レーノさんがそう言うと、後ろにいた大勢の騎士さんが、僕に向かって頭を下げてくれた。
騎士さんたちの感謝が伝わってくる。
だけど、僕がもっと強ければ、そう思ってしまう。
もっと強くなりたい、いや、強くならないと・・・・・・
「それで、カイト殿。コトハ殿に援軍を出す必要はあるのだろうか・・・」
「うーん、いらないと思います。あの雰囲気は、もう直、ブチギレそうですし、大丈夫だと思います」
「そ、そうか。まあ正直、我らになす術などないのだがな・・・・・・」
それから、レーノさんに頼んで、戦死した騎士さんたちの元へ案内してもらった。
みんな、正面から強い衝撃を受けたことが、見るだけで分かるように、傷だらけだった。
金属製の騎士鎧は、グシャグシャに割れ、全身血だらけだった。
どの騎士さんも、ここに来てから挨拶を交わした覚えがある。
黙祷し、冥福を祈る。
この騎士さんたちのお役目は、僕たちが一緒に成し遂げないと・・・・・・
♢ ♢ ♢
〜コトハ視点〜
鬱陶しいなー!!
ツイバルドは、私の攻撃の有効範囲を的確に見破り、安全距離を維持している。
そして、目を逸らした隙を狙って、軽く体当たりしては、空へ逃げ戻っていく。
そのタイミングを見破れた場合に、爪で首を裂いて倒すことができるのだが、効率が悪すぎる。
別に、身の危険を感じているわけではない。
攻撃を喰らっても、痛くも痒くもないし、ポーラたちにも危険はない。
ただ、カイトたちの状況は芳しくないように思えた。
事前に聞いていた、対ファングラヴィット用の陣形を組んで、戦っているようだが、何人もの騎士が吹き飛ばされている。
それにカイトが、群れの中心で大立ち回りを演じている。
もう直、終わりそうだが、次がいつくるかも分からないし、早いとこ片付けないと。
石弾を放つ間隔を短くし、ツイバルドが体当たりしてくる隙を与えないようにしていく。
ポーラとシャロンにも協力してもらい、絶え間ない石弾と風刃の嵐が吹き荒れる。
ダメージこそ無いものの、ツイバルドの動きを止めることに成功した。
それと同時に、敵の大まかな位置を把握し、両手に魔力を込めていく。
今回は正確な狙いなど必要ない。
なぜなら、これからやるのは、ただ強大なエネルギーを放出するだけだからだ。
いつぞやのブラッケラー。
あいつが、私に向かって放ってきた強烈な光線。
それを参考に、考えてはいたが、森で使うのは躊躇われたため使う機会のなかった、必殺技だ。
「くたばれ、クソ鳥ども!」
苦労させられた恨みを込めてそう叫びながら、両手を前に突き出す。
そして、『火魔法』を発動する。
ただただ、両手に集めた魔力を、火炎へと変換し、前に向かって放出するだけ。
火炎放射というのが適しているだろう。
意識するのは、ただ真っ直ぐに、全力で、火炎を打ち出し続けることのみ。
狙いも何もなく、ツイバルドが群れている場所に向かって、火炎放射をし続ける。
これまでの安全距離は関係なく、全力で放出していく。
この攻撃は、結構疲れるのだ。
クライスの大森林に近いとはいえ、森の中に比べて、大気中の魔素濃度は低い。
私の身体では、魔力が尽きることなく、魔素から魔力への変換を行える程度ではあるが、その疲労感は変わってくる。
ましてや、身体中の魔力を全て使い、変換し、また使うというのを繰り返しているので、かなりハードなのだ。
それに、終わった後にもかなりの疲労が残る。
そのため、できれば使いたくなかったのだが、そうも言っていられない。
火炎放射を始めて数十秒後、空中のツイバルドは、全て燃え滓となって、地面に墜ちてきたのだった。
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