第93話:撃退

私たちが物陰から出て、侵入者の前に出ると、襲撃者も直ぐに気がつき声を上げた。


「いたぞ、あの女だ!」

「おい、お前がバイズ辺境伯に魔獣の素材を提供している女だな!?」

「話を聞かせてもらおうか!」


・・・・・・はい?

いやいや、話聞きに来た態度じゃないでしょ・・・・・・



「ふざけるな。貴様らは偉大なるコトハ様の家へ、無断で踏み入った。それだけで万死に値するのに、あげく無礼な口を利くでないわ!」


私が突っ込んでいると、初めて聞くようなレーベルの怒声が飛んだ。

ぶち切れている人を見ると、不思議なことに冷静な気持ちになれる。

この様子だと、レーベルが先に皆殺しにしそうなので、聞きたいことを聞いておこうかな。


「アンタらの質問に答える気なんてないよ。勝手に家に入って何言ってんの? むしろこっちが聞きたいんだけどさ、アンタ達は何者?」

「ふんっ! 答えるとでも思ったか?」

「・・・・・・一応期待を込めて? でも、答えないなら手段は1つだよ?」



私はそう言うと、レーベルに目で合図した。

目が合うと同時にレーベルが1人に飛びかかった。

一瞬で侵入者の1人に接近し、顔面を殴り飛ばした。

・・・・・・いや、ほんとにぶち切れてるな。

私もやりますかねー・・・


「1回だけ言うね。降伏したら?」

「冗談を」


私の提案は、そう無下にされたのであった。

・・・・・・そりゃそうか。

調査対象に見つかり、あっさり降伏する間諜とかいないよね・・・




私も諦めて、襲撃者の1人に接近する。

と同時に、ゴーレムに手で指示を出し、残りの1人を拘束させる。


とりあえず私は、自分の担当の襲撃者を殴り飛ばして気絶させる。

『竜人化』させた右手で軽く殴っただけで、遥か後方へ吹き飛んだ。

別に殺しても構わないので、そこまで手加減してはいない。

残りの1人は、既にゴーレムたちが拘束している。

8対3で膠着状態であり、それも互いに様子を窺っていたからである。

8対1になり、私から明確に指示を出された以上、拘束するのは容易かったようだ。



一方でレーベルは、少しやり過ぎている。

数発殴って敵を圧倒した後、手足を切り落としながら、いたぶっていた。

もの凄くいい笑顔をしているのが、少し・・・・・・、かなり怖い。

レーベルは、手を変化させている。

刃のようなものが鋭く光っており、それを容赦なく振るっている。

・・・・・・あんなことできたんだ。



「・・・・・・レーベル、それ生きてるの?」

「はい、一応生きております。放置すれば、30分もせずにくたばるでしょうが・・・」


それはそれは・・・・・・

まあ、レーベルの怒りが発散できたようだし、残り2人は拘束できた。

そもそも口を割ってくれるとも思えないし、四肢を切り落とされたそいつは、会話できるようには見えなかった。

ならまあ、要らないか・・・・・・



「話もできなさそうだし、要らないか。森の方へ処分しておいて」

「承知致しました。そういえば、こいつらがここまで魔獣に襲われずにたどり着いたのは、この魔道具によるところが大きいようです」


そう言って、見覚えのある水晶玉を差し出してきた。

それから、バラバラになった襲撃者を、南側の森へ投げ飛ばした。


「・・・・・・これって、この間の魔除けの魔道具? あれって、この森の魔獣には効かないんじゃなかったの?」

「はい。ですがこれは、改良されているようです。以前のそれよりも魔素へ深く干渉するようになっており、フォレストタイガー程度であれば、わざわざ近づいては来ないのでしょう。コトハ様や私にとっては、変わりありませんが・・・」


なるほどね。

改良した結果、ここまでたどり着くことができたんだな。

ブラッケラーやグレイムラッドバイパーなんかであれば、意に介せず襲ってくるのであろうが、アイツらは頻繁に見かけるわけでもない。

ここまでたどり着ける可能性は、十分にあった。



 ♢ ♢ ♢



襲撃者の撃退は、ものの数分もしない内に完了した。

私が殴り飛ばした方は、未だに気絶しており・・・・・・、っていうか死んでる!?

思ったよりも強く殴りすぎたせいで、首が180度回転し、首の骨がねじ曲がり、折れているようだった。

・・・・・・しくった。

どうやら、拠点へ侵入され、攻撃されたことに、思ったよりもムカついていたようだった。


「結局、ゴーレムに任せた1人しか拘束できなかったか・・・」



ゴーレムたちは、襲撃者の1人を完全に制圧した後、武器や防具を剥ぎ取り、顔を覆っていた布を取り去っていた。

その上で、両手両足を、ゴーレムが1体ずつ馬乗りになり拘束していた。

それぞれ本来曲がってはいけない方向に、曲がっている気がする。

襲撃者 —声から分かってはいたが、男のようだった— は、うめき声を上げながら、逃れようと身体を動かしているが、無駄なようだ。


ゴーレムは、軽快に動いているが、その重量はかなりのものである。

特に警備用ゴーレムは、身体の芯を太く強く『土魔法』を押し固めて作られていることに加えて、体付きもがっしりしており、同じく『土魔法』で作った防御用の鎧を身に纏っている。

ゴーレムの出力は不明だが、少なくとも私では持ち上げることはできない。



ゴーレムに指示を出し、襲撃者の男を、起き上がらせ、拠点の空き地に置いてあった椅子に座らせた。

依然として、両手をゴーレムが拘束しており、レーベルが何時でも殺せるようにと、私と男の間に立っている。


「それじゃあ、話を聞かせてくれるかな?」


そう男に問いかけた。

男は私を、ぎっ!っと睨みながら、


「答えると思うか?」

「うーん、そうね。答えないなら、他の2人みたいに殺すけど?」


私はそう言うと、殴り飛ばし首の回転した男の死体の方を見た。

・・・・・・というか、驚くほど簡単に「殺す」って言葉が出てきたな。

さっき殺したことに気がついたときもそれほど驚かなかったし、やっぱ変わったんだよなー・・・

いや、この世界に適応したって方が正しいか?



「ふんっ! この仕事は死と隣り合わせ、どうぞ殺せばいい!」

「・・・・・・そっか」


私は男をジッと見つめた。

年は・・・・・・、20代後半くらい?

筋骨隆々というよりは、すらりとしてすばしっこそうな感じだ。

見た目は『人間』。『魔族』や『エルフ』を見たことは無いが、それぞれ見た目は『人間』とは少し異なるらしいので、『魔族』や『エルフ』ではないであろう。



私の選択肢としては2つ。

1つ目はもちろん、こいつを始末すること。そのことに心理的な障害はないし、話す気が無いのであれば、それが最も適切な気がする。

2つ目はこのまま拘束し、バイズ辺境伯に届けること。ほぼ間違いなく、こいつはバイズ辺境伯の屋敷を襲撃した連中の仲間か本人だ。

私には分からなくても、バイズ辺境伯ならこいつの正体が分かるかもしれない。



「・・・・・・どうする?」


私はレーベルにそう尋ねた。

あえて、襲撃者の男に聞こえるように話すことで、「できたら口を割ってくれたらいいなー」っと、思いながらだ。

ただ、こいつにそんな気は無いようだ。

私の発言を聞いても、顔色を変える気配が無い。

本当に、死ぬことを覚悟しているのであろう。


「ここで始末するべきかと存じます。バイズ辺境伯に届けるにしても、どこから情報が漏れるか分かりませぬ。クライスの大森林に入り、生きて帰らずとも、魔獣に襲われたと思われるのが常でしょう。コトハ様の情報が漏れるリスクは、極力減らすべきかと」

「・・・・・・そうよね。はぁー・・・・・・」


覚悟を決めて、襲撃者の男に向き直る。


「最後にもう一度だけ聞くよ? 素直に全て話してくれたら、処遇は考える。話さないなら、殺す。どうする?」

「何度も言うが、話すことなどない!」


ご立派なこって・・・

私はそうため息をつくと、右手を『竜人化』させ、鋭く尖った爪で、襲撃者の男の首を突き刺した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る