第94話:調査結果1

目の前の襲撃者は、実は『人間』ではなく、首を刺されても平気・・・・・・・・・、なんてことはなく、刺した爪を首から抜くと同時に、血が吹き出し、そのまま絶命した。



よく考えると、もう少し慎重に口を割らないか試したり、拷問したりする方法もあったと思われる。

先程、襲撃者の1人の四肢を切断していた様子から、レーベルは拷問とかも得意そうであったし・・・・・・


そう思い、今更ながらレーベルに「拷問するべきだった?」と聞いてみた。

すると、


「あまり意味が無かったと思われます。忠誠心故か、人質でも取られているのか分かりませぬが、口を割ることは無かったと思われます」

「・・・・・・それは、経験?」

「経験と言うよりは、本能でしょうか。『悪魔族』は他者の恐怖に敏感で、心の機微を感じ取ることに長けています。最後に殺した男を含めて、襲撃者の3人とも、強い恐怖を抱くことも、感情が揺らいでいる様子もありませんでした。最後にコトハ様が話しておられるときも、心が揺らぐ様子はなく、死を確信し受け入れている様子でしたので」

「拷問しても無駄だった、と・・・・・・」

「はい。時間の無駄だったかと」


そっか。

思っていたよりも感情的になっていて、早まったかと思ったが、結果オーライというか仕方が無いか。

今後はもう少し慎重にいきましょう・・・・・・



「それに、敵の正体に心当たりがございます」

「・・・・・・え?」

「襲撃者の所持していた、魔道具です。先の侵攻時にラシアール王国の兵士が所持していたものを改良したものであると思われますが、これに使われている命令式に心当たりがあるのです。許可をいただけるのであれば、それを確認し、出所を探って参ります」


レーベルにそう言われ、迷わず許可を出した。

2、3日で帰って来るとのことなので、とりあえずそれを待つとしよう。

その間、私は拠点の防御体制を再検討しておこう。



 ♢ ♢ ♢



カイトとポーラに、襲撃者のことを伝えるかどうか迷ったが、伝えることにした。

2人しかいない時に襲撃があることも想定されたし、敵の存在と情報の共有は必要だと判断した。

戦闘の詳細は伝えないが、バイズ辺境伯の屋敷に襲撃があったこと、昨晩我が家にも襲撃があったこと、襲撃者3名を、私とレーベルが始末したこと、レーベルが事情を探っていることを伝えた。


2人は、襲撃者に気がつかなかったことにショックを受けていたし、一緒に戦いたかったと言ってくれたが、今回は寝ていて良かったように思う。

結構大きな物音がしていたと思うが、2人が気づかなかったのは、最近根を詰めて特訓していたからであろう。

ちなみにいつもポーラと一緒に寝ているシャロンは、物音に気が付き起きていたようだが、ポーラのそばで彼女を守っていたらしい。



よく考えると、私が直接人を殺めたのは今回が初めてだった。

しかも、かなりエグい殺し方をしたものだと、思い返していた。

その様子を見られなかったのは、良かったように思うのだ。

この世界で生きていく以上、2人もいつかは人を殺すことがあるかもかもしれない。

ただ、今の2人にそんなことをさせる気はないし、見せる気もなかったのだ。



2人が起きる前に死体は片付けておいたし、見える範囲の血痕は掃除しておいた。

なので2人には、壊されたゴーレムの回収と、戦闘に参加したゴーレムに修繕箇所がないかの確認をお願いした。

私は、襲撃者の侵入経路の特定だ。





連中は、腐っても諜報のプロなだけあって、壁を大々的に吹き飛ばしたり、穴を開けたりした痕跡はない。

だが、警備用ゴーレムと襲撃者が睨み合っていた場所や、殺した襲撃者の所持していた鉤縄のような道具から察するに、出入口用の空間を塞いでいた石壁に鉤縄をかけて、よじ登ったのであろう。

出入口を塞いでいる石壁は、普段から消しては塞ぐことを繰り返すこともあって、簡単な作りだ。

それ以外の壁には水堀があり壁の上には返しを付けていたが、石壁には、出すごとに作るのが面倒で、付けていなかったのだ。


そもそも出入口以外にも、拠点の防御は対魔獣を念頭に整備しており、人型種が襲撃してくることを想定していなかったのだ。

この前の侵攻で懲りたと思っていたし、その時に使っていた魔道具も役立たずだったからね・・・・・・


後悔していても仕方がないし、幸い被害はなかった。

敵の正体はまだ分からないし、追撃が来るかも不明だ。

とりあえず、防衛設備を更新しなくては・・・

それに、出入口のためのゴーレム開発も急がないと。



 ♢ ♢ ♢



襲撃から3日後、レーベルが帰ってきた。

この間、ゴーレムの修繕や、拠点の防御の強化をしていたが、出入口用のゴーレム完成には至っていない。

もう少しで、構造も命令式も纏まりそうなんだけどね・・・



「ただいま戻りました」


レーベルは特に怪我をしている様子もないし、無事に調査できたようだった。

カイトたちも呼んで、報告を聞く。


「おかえり、レーベル。早速だけど、何か分かった?」

「はい。まず魔除けの魔道具を改良したのは、ジャームル王国の高位貴族でした」

「・・・・・・ジャームル王国? それって・・・」

「ラシアール王国の西側にある国だよ」


カイトがフォローしてくれた。

確か、ジャームル王国で塩を作れるようになって、貿易に困ったのが、この前の侵攻の原因の1つだったっけ・・・?



「ラシアール王国のランダル公爵が失敗作の魔道具を持ち込み、改良を依頼したようです」

「・・・ランダル公爵って?」

「ラシアール王国の宰相だよ」


再びカイトのフォローが入る。



「じゃあ、ラシアール王国がジャームル王国に改良を依頼したの?」

「いえ、この件にラシアール王国は関わっていないようです。改良した貴族家、ボーマズ侯爵家というのですが、その家の内部を調べ、話を聞いたところ、ランダル公爵が個人的に動いているようです。一方のボーマズ侯爵側は、ジャームル王国の王宮へと話を通し、許可を得ているようでした」


・・・・・・全然分からない。

とりあえず、そのボーマズ侯爵家に、ランダル公爵が改良を依頼したと。

ラシアール王国は関わっておらず、ジャームル王国は許可している。



「私は、ボーマズ侯爵家に召喚されたことがありました。当時ボーマズ侯爵家には、『人間』にしては異常に魔素に適応しており、知らず知らずの内に膨大な魔力を作り出してしまう幼子がおりました。私はその子が勝手に魔力を作り出さないようにする魔道具の製作を依頼されたのです。そして作り出した魔道具に用いていた、魔素の制御式と、改良された魔除けの魔道具に用いられていた制御式が酷似・・・、といいますか同じであったので、出所が分かったのです」

「・・・・・・その制御式は、珍しいの?」

「珍しいかは分かりませぬが、私が考案したものですから」


なんと・・・

『悪魔族』は高い戦闘力に加えて、高度な魔法知識を有している。

召喚の多くは、戦闘力を見込んで、「〜を殺してほしい」、「〜を滅ぼしてほしい」というものだが、稀に魔法に関する悩みから、その知識を教え請う者や、魔道具の製作を依頼する者もいたらしい。

前者の場合は、基本的に召喚者を殺して帰っていたそうだが、後者の場合には面白そうだからと、契約に応じていたらしい。



「レーベルが、魔道具を作ったのはどれくらい前なの?」

「300年ほど前ですね。その幼子が成長し、あるいは死亡し、その魔道具が不要となった後、研究対象にでもなったのでしょう。あまり汎用性のある制御式ではありませんでしたが、魔除けの魔道具には適していたようですね」


・・・・・・なるほど。

レーベルの確信している感じから、それは間違いないのであろう。

となると、レーベルが昔協力したボーマズ侯爵家とランダル公爵が通じて、魔除けの魔道具を改良したということだろうか。



でも、その目的は?

言うまでも無く、魔獣から身を守るためだとは思うけど・・・


「ランダル公爵は、魔獣に怯えて、改良を依頼したの?」

「・・・いえ、私が調べたかぎりですと、改良は依頼の一方。もう1つ、魔獣や魔物をおびき寄せることのできる魔道具の開発も依頼し、成功しているようです」



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