第91話:不穏な気配
出入口用のゴーレム作りは難航していた。
身体のうち、メインとなる“壁”の部分を作るのは簡単だ。
一方で、出入口をどのように開閉させるかが難しい。
現在考えているのは、壁の下部に小さな脚を取り付ける方法だ。
壁の内部に収納できるようにして、出入りする際に、その脚を使って立ち上がり、横にずれることができるようにする。
課題は、脚の強度と命令式の書き込みだ。
壁はかなり頑丈に作る予定であり、必然的に重量が増える。
そのため、脚を複数設置することになるのだが、強度や動きのスムーズさを考慮して、適切な脚の数を実験している最中だ。
またこれまでのゴーレムと違い、身体構造が人間のそれとはまるで違う。
そのため、どのように魔石に命令式を書き込むか、検討中である。
そんな中で、少し煮詰まってきたので、気晴らしも兼ねて、バイズ辺境伯領の領都へと向かうことにした。
バイズ辺境伯から頼まれていた軍馬の回収は、完了している。
・・・・・・侵攻で逃げた軍馬の数は不明だが、かなり時間が経っているし、生き残りはいないであろう。
合計で7頭のスレイドホースと10頭の馬を確保し引き渡したので、依頼完了でいいだろう。
今回の目的は、情報交換に加えて、余っているファングラヴィットやフォレストタイガーの毛皮・牙などの素材の売却、食材の購入である。
素材は、ゴーレムに使うことが増えてきたのだが、毛皮の使い道はまだあまり無いし、牙や爪も大量にある。
宝物庫がパンパンになっているし、捨てるのも勿体ない。
バイズ辺境伯は、騎士団の装備に使いたいとのことで、仕入れ先を隠すように頼みつつ、売っている。
♢ ♢ ♢
マーラに乗り、妊娠しているポスとベッカを除く、スティア、ウォロン、ワートの3頭に荷物を持ってもらい、領都を目指す。
持って行く荷物の量的には、マーラの他に1頭連れてくれば十分なのだが、それをすると留守番になった2頭が拗ねるのだ。
なので、妊娠という留守番の理由が立たない3頭は、遊びも兼ねて一緒に出てきた。
マーラたちは、出会った時よりもかなり成長している。
まず何よりも、身体が大きくなった。
それぞれ個体差はあるが、当初普通の馬と同じくらいであったのに対して、現在では倍近くなっている個体もいる。
その筆頭がマーラで、身長も高くなり、かなりゴツゴツした分厚い身体になっている。
戦闘能力も上がっており、大きく2種類のタイプがいる。
マーラとスティアは物理型。ウォロンとワートが魔法型だ。
ポスとベッカはしばらく拠点から出てはおらず、戦闘能力は未知数だ。
物理型のマーラとスティアは、魔法を使うことはできないが、とにかく当たりが強い。
ただ真っ直ぐに、全力で走り、体当たりしていく。
一度食事中に、ブラッケラーに遭遇したが、マーラが一目散に突っ込んでいった。
そのまま体当たりして、ブラッケラーを弾き飛ばしていた。
死にはしなかったようだが、その後のブラッケラーの動きを見る限り、骨が折れるなど大怪我をしているようであった。
魔法型のウォロンとワートは、高速で走りながら、『土魔法』や『風魔法』を使い、攻撃や防御を行う。
その威力も精度もかなりのものであり、フォレストタイガー数頭を相手に、互角にやり合い、その内2頭の首を刎ねていた。
そんなわけで、最近はゴーレムによる護衛も必要ではないほど強くなっていた。
もともとスレイドホースは、かなり強力な魔獣であることに加えて、魔素が豊富な環境で、魔素を多く含んだ『アマジュの実』を毎日食べていたことが理由であると、推測される。
それを踏まえると、運ぶ荷が無くても、護衛としては適任であろう。
今回は、私1人でのお出かけだ。
カイトとレーベルは、カイトの旅立ちに向けた準備を。ポーラは、2人の仕事の穴埋めや自分の訓練をしている。
道中は特に問題なく、領都に到着した。
お馴染みの門番さんに入都手続をしてもらい、町へと入る。
なんか、いつもよりも入都待ちの列が長いような気がする・・・
町へ入り、領主の屋敷を目指す。
何度も訪れており、さすがに道に迷うことは無い。
ただ、町の中を巡回している兵士の雰囲気が重たい気がする。
ピリピリしているというか、物々しいというか・・・・・・
私の感じていた違和感は、領主の屋敷に到着して確信に変わった。
普段は、入り口の門を2人の衛兵が守護しているのだが、現在は軍馬に乗った騎士を含む20人近くが警備していた。
・・・・・・この感じは領主の屋敷が襲われでもした?
何度か顔を合わせたことのある騎士がいたので、挨拶し要件を伝えると、問題なく取り次がれ、案内された。
少し待っていると、疲れた様子のバイズ辺境伯と執事のボードさんが入ってきた。
「ようこそ、コトハ殿。お待たせして申し訳ない」
「・・・久しぶり。全然待って無いし、それはいいんだけど。・・・・・・なんかあった?」
「・・・・・・うむ。やはり気づくか・・・」
「いや、気づくでしょ・・・。町中物々しいし、屋敷の警備ごっついし・・・。今思えば、入都審査に行列ができていたのも、審査が厳しくなっていたからだったりする?」
「・・・それが理由であろうな。・・・・・・・・・実はな、2日前に屋敷に侵入者があったのだ」
「侵入者?」
「ああ。寝静まった頃に、門の警備をしていた衛兵を殺して侵入された。他にも屋敷の敷地内を巡回していた衛兵が数名殺されていることから、侵入者は複数名であろう。敷地内の工房や、武器庫に入り、何かを探していたようだ。盗まれた物は無かったが、荒らされておったわ」
「・・・・・・そんなことが」
屋敷に侵入し、何かを探していた。
侵入に際し、警備の兵に見つからないように闇に紛れることではなく、道中にいる者を殺すという選択をしたということは、戦闘になっても勝てる自信があったのか、やむにやまれず殺しを選択したのか・・・・・・
いずれにせよ、殺してまでも調べたい内容があったということだ。
それってまさか・・・・・・
「もしかして目的は、私の持ち込んだ素材だったりする?」
「・・・・・・可能性は高い、・・・・・・・・・いや、他に思いつかぬ。コトハ殿に売ってもらった魔獣の素材を使った武具は、少し前に騎士団の一部に支給した。それを知った貴族や他国が、情報を求めて間諜を派遣した、というのが可能性としては一番高い」
「仕入れ先はバラしていないんでしょ?」
「無論だ。だが、少し目の利くものであれば、あれらの武具に稀少な魔獣の素材が使われていることは分かるものだ。騎士団の装備品であれば、我が屋敷にその余りや、入手ルートに関する情報があると考えても不思議では無い。その調査のために、ここまでするとも、これほど素早いとも思わなかったがな・・・・・・。確かに、先の遠征の折、領地を拡大し、褒美も賜り、発展のきっかけになっている我が領は、国内の貴族はもちろん、他国の関心も買っておる。そのため領都に多くの間諜が紛れ込んでおることは織り込み済みであったが、ここまで大胆な行動を仕掛けてくることは、予想外であった・・・」
バイズ辺境伯はそう、苦々しげに、悔しそうにこぼした。
自分の予測や、警備の指示に問題があったと後悔しているのであろう・・・・・・
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