第80話:ポーラの従魔探し1
その日の夜は、『剣と盾』に宿泊し、翌日帰路に就いた。
バイズ辺境伯は自分の屋敷に部屋を用意すると言ってくれたが、貴族の家に泊まるのは何だか疲れそうで遠慮しておいたのだ。
道中は魔獣に襲われることもなく、何かトラブルに巻き込まれることもなく、森の入り口まで1日、森の入り口から拠点まで1日の合計2日間で帰宅できた。
マーラは買い込んだ野菜などを載せても余裕そうで、足取り軽く、どんどん加速していた。
これからも定期的に町へ行くことを考えると、マーラたちと出会えてよかった。
♢ ♢ ♢
拠点に帰ると、3人にバイズ辺境伯から聞いた話をしていく。
今回の遠征、そして失敗に絡む後始末で、カイトたちの家、マーシャグ子爵家を陥れたクソ王子やクソ貴族、その関係者は大体片付いた。
後は、バイズ辺境伯がマーシャグ子爵家の悪評を払拭したら、完了だ。
カイトにそれを伝えると、少しだけ嬉しそうにした後、
「これで完全に過去と決別して、前を向いて生きていけるよ。ありがとう」
と、お礼を言ってきた。
だが、私は礼をされるようなことはしていない。
どちらかと言えば、クソ王子共の自滅だろう。
けれども、カイトとポーラのためには何でもするつもりなのは間違いない。
それに2人は、まだ12歳と6歳の子どもなのに、辛い経験をいくつもしてきている。
ここでの暮らしが、どの程度の水準なのかは知らないけど、できるだけ不自由なく、楽しく暮らしていきたいものだ。
翌日から、カイトは買ってきた本 —本棚にあった貴族の教養の教科書― を使って、ポーラに勉強を教え始めた。
既にポーラは、読み書きやある程度の計算をすることはできるし、戦闘能力はかなり高い。
おそらく、同年代の女の子と比べても、その能力は飛び抜けてるだろう。
だが、カイトは、とても厳しくポーラに勉強を教えていて、ポーラから何度も「助けて」の視線を向けられたが、その度にカイトに怖い目で見られたので、黙って退散した。
翌日、ポーラを助けられなかった結果として、ここ最近ポーラが何度も主張していた、従魔探しをみんなで行うことが決定した。
いや、ポーラが私に見捨てられたと拗ねたことで私が陥落し、お兄ちゃんに虐められたと叫んだことでカイトが陥落したのだ。
レーベルやリン、マーラたちは黙って見ていた・・・
「従魔っていうけどさ、ポーラはどんな子を従魔にしたいの?」
「・・・えっとねー、可愛い子! それから強い子!」
「可愛い子と強い子、ねー。強い子はそれなりにいそうだけど、可愛い子って難しいな。基本的に魔獣って、ゴツいし怖いし・・・」
リンやマーラたちは、可愛いと思ったが、珍しいことだった。
でかい牙を持つ大型犬サイズのウサギに、自動車サイズの虎。
どう考えても可愛くはない。
その他に出会った魔獣も、基本的にでかい獣ばかりで、可愛さは無かったけど・・・
まあ、ポーラにとって可愛い子、であればいいのかな?
「・・・とりあえずさ、森の中を歩いてみようか? 川の方とか、魔獣が多そうな場所を目指して・・・」
「うん!」
ポーラがそう返事をしたので、本日の予定が決まった。
いや、見つかるまで毎日の予定、かもしれないけど・・・
まあ、未知の魔獣に出会えるかもしれないし、楽しみも多いけどね。
♢ ♢ ♢
せっかくなので、マーラたちも全員連れて行き、リンも連れて行くという、フルメンバーで出かけることになった。
マーラたちは、単独で森へ出すことはできないけれど、私たち4人が一緒なら守ることができるだろう。
リンは、どうやらかなり強くなっているらしく、最近はよく単独で森へ出て、何やら狩りの練習をしているらしい。
この前も、夕方帰ってきたかと思えば、ファングラヴィットを2体、『マジックボックス』から取り出して、自慢げにしていた。
・・・・・・毒でかなりグロいことになっていたので、魔石だけ回収して燃やしたけど。
私はオーラを出していないし、マーラたちというこの森では弱者に分類される魔獣が固まっている。
それに魔獣が多く生息していると思われる、私たちの行動範囲外、拠点から見て南東方向の川を目指していることもあって、魔獣はそれなりに襲ってくる。
だが、残念なことに、森へ出て3時間、出会ったのはファングラヴィットとフォレストタイガーという、お馴染みの魔獣だけだった。
川へ到着し、川沿いに下流を目指して進んでいく。
ラシアール王国へ向かうのとは反対向きだ。
道中、ワニ型魔獣のグリロブスにも遭遇したが、ポーラにとって可愛くなかった —そりゃ見た目は全く可愛くないけど— らしく、カイトに討伐されていた。
グリロブスの皮や魔石が手に入ったから、よかったけど。
購入した本で勉強して、ゴーレム作りをしてみたいと思っているので、その材料になりそうな素材はできるだけ確保したいのだ。
それから4日間に渡り、可愛い魔獣探しを行ったが、ポーラのお眼鏡にかなう魔獣は出てこなかった。
3日目からは、スレイドホースのポスとベッカは、「拠点で寝ていたい」と伝えてきたので、残りの4頭とリン、カイト、ポーラ、私で森へ出ている。
レーベルは、2日間で多く狩ったファングラヴィットの処理や、私の買ってきた野菜などを使って料理をするとのことで、拠点に残った。
それにレーベルは、私の買ってきた机の上の本、龍族についての本に興味を引かれているらしく、時間があれば読んでいる。
5日目になって、拠点から日帰りで行ける川沿いの場所は、探し終えた。
マーラたちのおかげで、行動範囲が広がったとはいえ、野宿するつもりはないので、日帰りできる距離でしか探していない。
今日は、拠点の真南方向を探してみることにした。
拠点の南側は、これまでそれほど探索したことがない。
当然のように、ファングラヴィットやフォレストタイガーは出てくるが、やはり未知の魔獣、それも“可愛い魔獣”は、なかなかお目にかかれない。
今日も空振りかと諦めて、拠点へ帰っている途中、「クゥゥン」という、小さな鳴き声が聞こえてきた。
2人もその声に気がついたようで、目で合図して、マーラたちに向かってもらう。
鳴き声は、木が倒れてできた小さな空き地から聞こえていた。
到着すると、慎重に木の陰から、空き地の様子を確認する。
そこには、大小2頭の白い生き物がいた。
四足歩行で狼のような見た目をしている。ただ、狼とは明らかに違う。というのも、背中に一対の羽が生えているのだ。
身体の大きい方は地面に横たわっており、もう1頭がそれに寄り添っている感じだ。
よく見ると2頭ともひどく汚れているし、傷だらけだ。
特に、大きい方はお腹の辺りをザックリと切られているようで、大量に出血していた。
おそらく、この2頭は親子だろう。
母親か父親か分からないが、親が怪我をして動けなくなっており、子どもが寄り添っている感じだ。
いや、木の折れ方を見る限り、墜落したのかもしれない。
・・・・・・・・・残念ながら、親の方は既に息絶えていると思われる。
子どもが必死に、傷口や顔を舐めているが、全く動いている様子が無いのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます