第79話:本の内容

机に置かれた本のうち2冊は、興味を引かれるものだった。

そのうち1冊は、おそらく龍族について書かれているものだ。

遺跡のような場所を訪れた際のことが書いてあったり、龍族と悪魔族の関係について書いてあったりする。

だが、読むことはできるが、内容を理解するのは少し大変そうだった。

というのも、言葉が難しいのか、婉曲な表現で書いてあるのか、難しい古文の文章を読んでいるような感覚になって、意味を把握するのが大変だったのだ。


もう1冊はゴーレムについて書かれている本だ。

書いてある内容は、ゴーレムの構造や能力、作り方などで、ゴーレムに関する入門書といった感じだった。

だがこの本は、私の知識が不足しているようで、書いてある内容の意味が分からない箇所があった。



できたら、この2冊は購入して、ゆっくり読み解いてみたい。

龍族は、私のご先祖様にあたる存在なわけで、今なお謎の多い『魔竜族』という種族の謎に迫れるかもしれない。

それにゴーレムは、異世界の定番の1つだし、興味がある。

少し見た感じ、その製造には、魔石が必要らしく、宝物庫に眠る魔石の使い道になるかもしれない。


それに、結局何も得られるものが無かったとしても、構わないのだ。

拠点の整備も大分進んでおり、食料庫には蓄えもある。

ラシアール王国の侵攻も終了したので、外敵を過度に警戒する必要もない。

・・・・・・・・・・・・つまり、暇なのだ。

ついこの間も、時間ができたので魔法をいろいろ追求しようと考えていたが、状況はそれと変わっていない。

・・・いや、日々、カイトとポーラが逞しくなり、私の代わりに狩りや見回りをするようになっているので、暇度合いが増しているくらいだ。





部屋にトレイロが戻ってきたので、本棚の本を数冊と、机の上の本を2冊を買いたい旨伝える。


「承知しました。本棚に置いてあった本は、ラシアール王国で貴族教育に用いられる本としてはメジャーなものです。机の上の本については・・・・・・・・・、コトハさんは読むことができたのですか?」

「・・・うーん、一部だけね。レーベルならもう少し分かるかもしれないし、買って帰りたいなって・・・」

「・・・・・・分かりました。私どもには読むことができませんし、お譲り致します」

「ありがとう。お値段は?」

「・・・本棚の本は、本の中では希少性の低いものですし、古本になりますので、全部まとめて金貨2枚で。机の上の本は・・・・・・・・・・・・、コトハさんの言い値で結構です」


・・・・・・トレイロめ。

言い値ってことは、私がこの本にどれくらいの価値を見いだしているかを知りたいってことじゃん。

そりゃ、私が誤魔化した金額にする可能性はあるけど、それはしないと信じているのだろう。


・・・・・・難しいな。本音を言えば、金貨10枚くらい、100万円くらいなら払っても構わない。

それくらい、興味を引かれている。

だがそれをして、この本や私がこの本を読めることへの興味を深められても困るし・・・



「・・・・・・2冊で、金貨10枚でどう? その代わり詮索は禁止ってことで」

「・・・なるほど。面白いことを仰いますね。興味はありますが、今回はそういうことに致しましょう」

「ありがとう。今後も、面白そうな本を見つけたら仕入れておいてくれない? さっきも言ったけど定期的に町に来る予定だから、その時に買い取るからさ」

「・・・・・・・・・・・・分かりました。探しておきましょう」


よし。まあこれでいいや。

私にとっての真価は一応ぼかしてあるし、この本に何かを感じていることは、向こうも分かっているのだし。

それに今後も面白い本を仕入れてくれるかもしれないし・・・

勝ち寄りの引き分けってところかな。



代金を支払って本を受け取り、1階へ移動した。

ここで、レーベルに頼まれていた野菜類や調味料類を購入する。

1階部分はスーパーみたいな感じで、欲しい商品を箱に入れて、受付横の会計場所へ持って行き、そこでお金を支払うシステムだ。


ただ私は、トレイロの好意で、お店の店員さんを1人付けてもらって、その人にどれが幾つ欲しいかを伝えていくシステムで、買い物を行った。

注文したものを、箱詰めしてマーラに載せやすいようにしてくれるらしい。


そういえば、トレイロにもマーラのことを聞かれた。

ただ、家の子、と答えただけで納得してくれた。

トレイロは数頭のスレイドホースを保有しているらしく、それ以上は特段欲していないようなので、それ以上は聞いてこなかったのだろう。





1階での買い物が終わると、再び2階の応接室へと案内された。


「申し訳ない、コトハさん。1つ、頼み事と言いますか、伺いたいことがあったものですから・・・」

「・・・別に構わないけど、何?」

「・・・はい。前回、買い取らせていただいた『セルの実』についてです。もしかして、まだ在庫がお有りなのではないかと思いまして・・・」


うーん、どうしよう。

いや、あるよ?山ほど。食糧庫に積んである。

ただ、話に聞いてる希少性といい、あの時の買取値段といい、大量に持っていることを知られたくはない。


「うーん、在庫はあるけど、売れるのはほとんど無いよ? 行き先が決まってたり、家で使ったりするのが多いから・・・」

「お一つだけ、お売りいただきたいのです。前回の倍の金額をお支払い致しますので・・・」


1つ?

それじゃ、大した商売にはならないよね・・・


「値段はさ、前と同じでいいから、何でか教えてくれない?」


トレイロは少し迷っていたが、


「分かりました。端的に申し上げれば、貴族への贈答品として必要なのです。前回買い取らせていただいた5個は既に、お世話になっている貴族や、これから関係を深めたい貴族に贈らせていただきました。ですが、今回の遠征の結果、力を増した貴族で、もう1人関係を強化しておきたい貴族がおりまして。そのために、必要なのです」

「・・・なるほどねー。そういうことなら別に売っても構わないよ。前と同じ値段でね。次は3週間後くらいに来るつもりだけど、それで間に合う?」

「はい! ありがとうございます」


そう言ってトレイロは深々と頭を下げた。

トレイロ商会が発展していくのを助けたってなれば、これからも私たちのことを優遇してくれるよね。


「あーただ、間違っても、私から買ったって言わないでよ?」

「無論です。ご迷惑をおかけするようなことは、致しません」


なら、安心だ。

トレイロみたいに賢い商人は、口が堅いだろうし。

加えてトレイロは、私たちが強いことも知ってるからね。

危険は冒さないでしょ。




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