第81話:ポーラの従魔探し2
さて、どうしたものか。
子どもの方は、親が死んでいることに気づいていないのか、必死に呼びかけているように見える。
・・・いや、おそらく気づいているが、受け入れたくないといった感じかな。
ただ、子どもの方も怪我をいくつもしている。
特に、左脚の動きがおかしい。
あれは折れているか、捻挫?をしているか・・・
ここで私たちの取る行動としては、3つの候補がある。
1つ目はこのまま立ち去ること。
現状、この生き物とは無関係だ。放置すれば、生き残った子どもは、エサを食べられずに餓死するか、フォレストタイガーなどに襲われるかして、死ぬと思うが、一応無関係だ。
2つ目は積極的に始末すること。
見るからに肉食の魔獣だし、親の亡骸を見る限り、成長すればかなり大きくなり、強そうだ。
それに、たぶん飛ぶことができるのだと思うし、厄介なのは間違いない。
最後は助けること。
親を失い、この危険な森に放り出された子どもを1頭助けてもバチは当たらないだろうし、見捨てるのも心苦しいものがある。
それに、拠点に住んでいるのは、理由は違えど、元いた場所に戻れなくなったものが多い。
本音を言えば見捨てたくは無い。
「ポーラ、どうする?」
今回の散策の目的はポーラの魔獣探しだ。
決める責任を負わせることになるのは少し躊躇われたが、ポーラの意思を尊重することにした。
「コトハ姉ちゃん。大きい方は死んでるの?」
「・・・・・・うん。全く動かないし、かなり酷い怪我で出血も多いから・・・」
「小さい方は、子ども?」
「・・・たぶんね」
「・・・・・・お母さんが死んじゃったの?」
「・・・そうみたい」
「・・・・・・・・・助けてあげたい。お母さん死んで、ひとりぼっちなんでしょ? 可哀想だよ!」
「・・・そっか。了解」
まあ、そう答えると思っていた。
ポーラに判断を任せるのはセコイと思うが、ポーラにとってこれは必要だと思った。
ポーラを見ていると、しばらくは拠点で世話をすることになるだろう。
というか、高確率で従魔にしようとするだろう。
リンたちを、深く考えずに迎え入れた私が偉そうに言えたことではないが、従魔にして、迎え入れるということは、その子に責任を持つ事になる。
リンは、何でも食べたし、気づいたらかなり強かったが、マーラたちは単独で森へ行くことはできず、食事の用意や安全の確保などは、私の責任である。
ポーラにも、従魔を迎えるにあたっては、その責任をちゃんと持ってほしい。
その、第一段階として、この子の処遇を自分で決めさせたかったのだ。
さて、助けるとなると、まずは怪我の治療をしなくてはいけない。
つまり、どうにかして『アマジュの実』をそのまま、あるいは、ジュースにして摂取させないといけない。
もしかしたら、傷口に塗り込んでもいいのかもしれないけど。
でもその前に、この子が、一体何なのか。
ほぼ確実に魔獣だとは思うが、確認しておこう。
というわけで、『鑑定』だ。
♢ ♢ ♢
『ベスラージュ』
狼のような身体に、翼の生えた魔獣。
地上を走る速度、飛行する速度ともに、トップクラスを誇る。
高い身体能力をもち、体格で勝る相手であっても、軽々とねじ伏せることができる。
『水魔法』と『風魔法』を得意としており、成獣の放つ魔法は、一撃で大型の魔獣を消滅させるほどの威力を持つ。
太古からその姿形を変えずに生きている。
♢ ♢ ♢
なるほど。
なかなかに、強烈な紹介文だな。
見た目の通り、空も飛べるみたいだが、地面を走っても速いと。
肉弾戦も得意な上に、魔法の威力も相当らしい。
魔法主体のポーラにとって、いい相棒になりそうだな。
まあ、それも助けられたらの話か。
「ポーラ。その子は、ベスラージュって言う魔獣らしいよ。とりあえず、近づいてみよっか」
そう言って、私とポーラで、木の陰から出て、ベスラージュの子どもに近づいていく。
カイトは、別の魔獣に襲撃されないように、周囲を警戒している。
ベスラージュの子どもは、すぐに私たちに気がついて、立ち上がり、前脚を少し開いて、姿勢を低くして、こちらに向き直った。
「グルゥー」と唸っているところを見ると、警戒されている。
そりゃ当然か。
親を失い、得体の知れないものが現れたんだから。
しゃがんで、目線を合わせつつ、
「落ち着いて! あなたの怪我を治してあげたいの!」
そう言いながら、リンから受け取った『アマジュの実』を差し出すが、警戒は解かれない。
どうしようか。
ここに実を置いていき、自分から食べるのを待つのも手だが、それではいつ食べてくれるか分からない。
それに、食べる前に襲われるかもしれない。
今はただ、怪我を治して拠点に連れ帰るのが正解だと思うのだ。
迷っているとポーラが、私から『アマジュの実』を取って、
「怖くないよ。大丈夫。これを食べて、怪我を治そうねー?」
そう、優しく微笑み目線を合わせ続けるためしゃがみながら、ゆっくり近づいていった。
不思議とベスラージュの子どもは、ポーラに対しては警戒をゆっくり解いていき、近づくことを許容している感じだった。
ポーラがベスラージュの子どもに触れられる距離まで近づき、『アマジュの実』を差し出した。
ベスラージュの子どもは、鼻で臭いを嗅いだ後、小さく噛み付いた。
よかった、食べてくれた。
ベスラージュの子どもが『アマジュの実』を食べると、何度か見た光が、身体を包み、ベスラージュの子どもの怪我を治していった。
無事に怪我も治ったところで、これからのことを考えなくては・・・
そう思っているとポーラが、
「ねえ。私たちと一緒に来ない? あなたのことを守ってあげられるし、ご飯も用意できるよ。それに・・・・・・、あなたはお母さんを亡くしたんでしょ? 私と一緒なの。私はお兄ちゃんと、コトハ姉ちゃん、レーベルに助けられたから、今度は私が助けてあげたいの・・・」
そう、ベスラージュの子どもを真っ直ぐ見つめながら、伝えていた。
カイトはポーラに家についての詳細を説明していないし、ポーラも特に聞いてこない。
けれど、幼くして両親を失い、ひどい場所へ送られた記憶は消えないだろう。
ただそれでもポーラは、今を全力で、前向きに生きている。
そんなポーラが、今度は自分と似た境遇のベスラージュの子どもを助けたいと思っているのだ。
自然と胸が熱くなり、泣きそうになってしまったが、なんとか堪えて、ポーラたちを見つめる。
ベスラージュの子どもは、ポーラの言葉を理解しているのか、ポーラと自分の親の亡骸を交互に見た後、ポーラに頭をこすりつけた。
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