第72話:従魔契約とは

翌朝、馬房へ行くと、マーラたちはすでに活動を開始しており、ポス以外は外へ出ていた。

ポスはまだ寝ているみたい。

・・・いや、あなた昨日一番に寝てたよね?

ほんと性格が全然違うんだなー



外へ出て歩いていたマーラたちは、それぞれ地面に生えている草を食べていたり、キョロキョロしながら拠点内を歩き回ったりしていた。

そして、ウォロンは、何故かリンを背中に乗せていた。

リンは何やら自慢げにしているし、ウォロン嬉しそうにしているから、触れないでおこう・・・


だいたいみんなが見える場所で声を上げて、集合させる。

やはり、私の指示というか、話している内容を理解しているようだ。

まあ、リンも私の言うことは完全に理解しているし、驚きはしないが。


とりあえず、『アマジュの実』を数個ずつ与えていくが、朝食としても全然足りないだろう。

スレイドホースって、一番小さいベッカでさえ、普通の馬 ―私の知っている地球の馬― よりは大きいんだもの。

『アマジュの実』がいろんな意味でイカれた木の実であることは分かっているが、量だけで考えれば足りないと思う。


カイトやポーラも起きてきたので、3人で6頭を誘導しながら拠点から出て、森に入ってすぐのところで、各々食事をさせる。

私たちは魔獣が来ないかの見張りだ。



30分くらいして、みんな満足したようなので、拠点に戻る。

マーラたちには、拠点内では自由に歩き回っていいが、外へは出ないように伝えて、解散する。

さっきマーラたちが食べる様子を見ていたが、拠点のすぐ近くで食事を続けていれば、そのうち食事に困ることになりそうだった。

やはり、交代で森の中に繰り出すしかないようだ。





朝食を終え少しすると、レーベルが帰ってきた。


「ただいま戻りました」

「おかえり、レーベル。無事送り届けれた?」

「はい。森の入り口付近には、ラシアール王国軍の陣地がまだありましたので、私は森からは出ずに見送りましたが、無事合流したことは確認しております」

「そっか、ご苦労様」


そう言って労いながら、道中の話を聞くが、特に問題はないようだ。

バイズ辺境伯達は、レーベルの指示に従いながら、危なげなく森を歩き、出口に辿り着いた。

最後も、私たちへの礼を告げて、森から出ていったらしい。



レーベルと話していると、何頭かが近寄ってきたので、マーラたちを紹介しておく。


「なるほど、スレイドホースですか。コトハ様の新しい従魔でございますね」

「・・・うん。たまたま遭遇してね。多分、ラシアール王国軍のよ」

「そうでございましょうね。ただ、戦時に放置した軍馬は、敵や拾った者の所属となることが多いですから、気にしなくてもいいでしょう。コトハ様の従魔になったということは、他の者の従魔では無かった、ということですから」



・・・・・・ん?

そっか、そうだよね。

リンもマーラたちも、私の従魔になったわけだけど、それ以前に誰か主がいたのかは考えたことがなかった。

けど、普通に考えて、他人の従魔を、従魔にはできないよね。



そう思っていると、


「レーベル、それは『人間』の国では当たり前だよ。従魔契約って、すごく難しくて、使える人って少ないもん。ラシアール王国でも、貴族のスレイドホースは、従魔契約されてないことが一般的だよ」


と、カイトが教えてくれた。



「左様でございますか? それは失礼致しました。昔は従魔契約など一般的で、力ある者は複数の魔獣や魔物を従え、軍勢を形成している者が多かったですから。古の龍族にも、多数の従魔、眷属がおりましたので」


レーベルは少し驚いたようにしている。

なるほど、レーベルにとって従魔契約は簡単、というか普通のことなんだ。

どんどん分からんくなってきたな・・・・・・





・・・・・・眷属?

従魔ではなくて?


「眷属って? 従魔とは違うの?」

「・・・そうでございますね、従魔が成長したら眷属になる、というのが正しいでしょうか」


ん? ますます分からんぞ。





レーベルに、リンやマーラたちが従魔になった時の状況や、あの魔法陣のことを話して、何か知っているか、聞いてみる。


レーベルは、私に教えるべきか悩んだようだが、これは私だけの問題じゃないことや、自分の知っていることが、全く知られていない内容であることを悟ったようで、説明してくれた。

安易にレーベルに聞かない、と言っていたのは、今回は例外としよう。



レーベル曰くあの魔法陣は、『適合化の魔法陣』と呼ばれていたらしい。

そもそも従魔契約は、主となる者の魔力と従魔となる魔獣や魔物の魔力を繋ぎ、相互に力の行き来ができるようにするもの。

まあ基本的に、主となる者の力が、従魔となるものの力より強大なため、主人から従魔へと力が流れる。

この力は、魔力や魔素、それ以外のものも含まれるらしいが、正確には分からないらしい。

とにかく、従魔になると主から力を受け取り、パワーアップする。


この力の行き来を正常に行うためには、主と従魔の魔力が適切に繋がれている必要がある。

ただ、生物の身体を構成する魔素は、種族はもちろん個体ごとに異なり、作り出す魔力も当然異なる。

そのため、単に魔力を繋ごうとしても、偶然に最初から両者の魔力が噛み合ったときにしか、魔力が繋がらない。つまり、従魔契約が成功しない。

これが、『人間』にとって、従魔契約が難しい理由だろうとのこと。

従魔契約が結べた者は、魔法に優れているのではなく、運が良かっただけだろうとのことだ。

カイト曰く、実際に従魔契約の成功経験があっても、2回目以降の成功がない者も多いらしい。


このとき、互いの魔力を噛み合わせるため従魔契約の準備として使われるのが、『適合化の魔法陣』だ。

魔法陣という名前だが、魔法の1つで、発動すると従魔となるものの足元に魔法陣が現れるから、そう名付けられたらしい。


『適合化の魔法陣』は、主となる者の魔力を従魔となる者に流し、その身体の魔素や作り出す魔力に一部干渉することで、主となる者の魔力に適合させる。

干渉すると言っても、新たに追加する、というのが正確なようで、主人に合うように体を作り変えてしまうわけではない。

アタッチメントを取り付ける感じだ。


この、『適合化の魔法陣』を使い、魔力が繋がりやすくしてから、従魔契約を結ぶことで、主従関係が結ばれる。

従魔契約自体は、主となる者が従魔となるものを、「従えたい」という意思を示し、従魔となるものがそれに応じることだけで成立する。

どうやら名前を付ける行為は、その意思表示の一種らしい。


そして、従魔契約を結ぶと、主の力が従魔に供給される。

そのメカニズムはよく分からないらしいが、従魔は主の力に応じて、魔素適応度が向上したり、魔力量が向上したりするなど、強くなっていくらしい。

その、最終形態が眷属化だ。


どのラインからが眷属となるのかは定かではないが、主の強さや従魔になってからの期間、ともに戦った経験などが積み重なって、従魔が眷属となるらしい。

眷属となると、主との繋がりがより強化され、主の能力を一部使えるようになるなど、さらに強くなる、とのことだった。


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