第71話:名付けよう
スレイドホースに跨がって十数分後、拠点に到着した。
私が乗っている子以外のスレイドホースたちもみんな、ちゃんとついてきている。
毛並みや模様はみんな違うが、大きく分けて、黒っぽい色をしているのが1頭、私が跨がっている子だ。
ほかは、茶色っぽい子が3頭に、白っぽい子が2頭だ。
6頭のうち4頭は、頭や首、お尻周りに鎧と背中に鞍を装着している。
残り2頭は、頭の鎧だけだ。
森の中で走っている時に、後ろの鎧や鞍は落ちてしまったのかな?
それとも、人を乗せるのではなく、馬車を引いていたとか?
拠点の入り口を開けて、水堀の上に橋を架けてスレイドホースたちを拠点の中に入れる。
拠点内では、カイトとポーラが特訓をしていたが、私が帰ってきたのを見て、こちらに駆け寄ってきた。
「おかえり、お姉ちゃん・・・・・・?」
「コトハ姉ちゃん。お馬さん!?」
当然ながら、私と一緒に拠点へ入ってきた、スレイドホースたちに食いついた。
「ただいま。スレイドホースだよ。多分、ラシアール王国の騎士や兵士が軍馬として使っていたんだと思う。近くで、6頭だけでいるところを見つけて・・・」
「・・・このスレイドホースたちも、お姉ちゃんの従魔になったの?」
「・・・いや、まだ従魔にはなっていないと思う。なんかよく分かんないんだよね・・・」
スレイドホースたちを『鑑定』してみたが、リンにはある『コトハ・ミズハラの従魔』という称号も、私にはスレイドホースたちの主との称号もない。
カイトにリンを従魔にした時の状況や、今回のスレイドホースの足下に出現した魔法陣、黒い光の説明をした。
「なんか分かる?」
そうカイトに聞いてみたが、何も知らないらしい。
そうしていると、既にスレイドホースたちに近づき、撫でたり抱きついたりしていたポーラが、
「コトハ姉ちゃん! お馬さんたちの名前はなんていうの!?」
と、聞いてきた。
「名前はまだ付けていないんだよねー」
そう答えながら、リンには名前を付けたときにも黒い光がリンの身体を包んでいたよね、と考える。
名前を付けたら従魔になるの?
そんな簡単なわけないと思うんだけど・・・
それに、名付けが従魔になる引き金だとすると、その前に現れた魔法陣は何?
・・・・・・分からなすぎる。
ともあれ、この子たちはこれからここで暮らしてもらうつもりだし、名前が無いのも困る。
幸い、初見でも個体識別が可能なほどに、それぞれの模様や色が異なる。
それに最悪、『鑑定』すれば・・・・・・
「この子たちはこれから一緒に暮らすことになったの。でも、まだ名前を考えてないからさ、一緒に考えてくれる?」
そう問いかけると2人とも快く了承してくれた。
1人で6頭分の名前を考えるのは大変だし、カイトやポーラにとっても家族となるわけだから、一緒に考えてもらえばいいよね。
♢ ♢ ♢
3人で考えた結果、6頭の名前が決まった。
私を乗せてくれた黒色の子が、マーラ。特に模様は無い。
茶色の子のうち一番大きく、首から尻尾へ向かって何本か白色のラインのような模様が入っている子が、ポス。
茶色の子で、頭に白い星のようなマークがあり、全身にも白の斑点模様がある子が、スティア。
茶色の子で、模様が少なく、お尻の辺りに黒いラインが何本かだけ入っている子が、ウォロン。
白色の子で、ほとんど模様の無い子が、ワート。
白色の子で、黒い斑点模様の子が、ベッカ。
6頭のうち、スティアとワートがオス。残り4頭がメスだった。
・・・ちゃんと、確認した。
それぞれ名前を決めて、伝えていくと、リンの時と同じように、黒い光がスレイドホースの全身を包んで、その光が一点に収束し、私に向かってきて、私に流れ込んだ。
その後、『鑑定』すると、『コトハ・ミズハラの従魔』という称号と、私にも主の称号が追加されていた。
無事に従魔になったらしい。原理は不明だが・・・
6頭から、それぞれ装着していた、鎧や鞍を取り外す。
鞍はともかく、鎧は普段はいらない。
ウォロンとワートは、鞍を背負っていなかったが、それ以外の4頭が鞍を背負っていたので、全員で乗ろうと思っても大丈夫だ。
・・・いや、そうするとウォロンとワートが拗ねるかもしれない。
今度町に行ったときに、鞍を買う?
でも、4人しかいないのは一緒だし・・・
今更ながら、マーラたちは、ラシアール王国軍の軍馬だったはずだ。
騎士や兵士を乗せて、森に入り、魔獣に襲われたのだろう。
その際に、逃げ出したり、騎乗していた者が死亡したりして、あそこに流れ着いたのだと思われる。
従魔になったことで、その強さがよく分かるようになったが、スレイドホースはそれほど強くない。
ファングラヴィットに劣るし、フォレストタイガーには間違っても勝てないだろう。
おそらくだが、マーラたちと同じ境遇になり、後にフォレストタイガーらに食われたスレイドホースは多くいると思う。
となると、拠点の外に自由に出すわけにはいかないな。
だが、スレイドホースをこの拠点内に留め続けるのも難しいと思う。
馬とは違うだろうが、本来は広い牧場のようなところで自由に駆け回っていたいはず。
この拠点の中を駆け回ることなどできないから、定期的に外へ出て、走らせてやった方がいいだろう。
幸い、森の中でもしっかり走れるようだし。
後は、マーラたちに乗って、町へ行ってもいいものか。
この世界の文明レベルを考えるに、軍馬は重要な軍事物資のはずだ。
それも、マーラたちは単なる動物の馬ではなく、格上のスレイドホース。
それに使用していた騎士や兵士は死亡していても、所有者は国や貴族家な可能性もある。
町で見つかって、「私の馬だ!」と絡まれる未来がハッキリ見える。
町に行く前に対策を考えねば・・・
♢ ♢ ♢
マーラたちは、思った通り、拠点の周りに生えている木の葉っぱや小さな木の実を食べてくれた。
そして試しに与えてみた『アマジュの実』もそれはもう美味しそうに、競い合うかのように食べていた。
そういえば、マーラたちも、リンと同じく言いたいことがなんとなく伝わってくる。
みんな「おいしい!」や「もっと食べる!」といった感情を伝えてきた。
驚いたのは、それがカイトやポーラにも伝わっていたことだった。
聞けば、最近はリンの言いたいことも分かるらしい。
ポーラは前から分かっていた感じだったけど・・・
私たちは急ぎ、マーラたちの寝る場所、馬房を作った。
といっても、屋根と2面の壁、6頭それぞれ用の個別スペースとしての仕切りを作っただけだ。
これは、カイトが自分の家にあった馬房を思い出しながら、指示をくれたものだ。
馬房をマーラたちにお披露目すると、興味深そうに入っていき、既にポスとベッカは座って寝ている。
食事の光景やこの様子を見るだけでも、6頭ごとに性格が大分違うように思えた。
とりあえず、明日からは、マーラたちの食事を集めなくてはならない。
というか、交替で森に入り、自由に食事をしてもらった方がいいかもしれない。
カイトは乗馬できるらしいし、ポーラと一緒に乗ってもらって、2頭ごとに森に出ればいいだろう。
・・・というか、私は乗馬経験なんてないのに、さっきよく乗れたな。
それにもうすぐ、レーベルも帰って来るだろう。
レーベルが一緒だから、バイズ辺境伯達は安全に森を出ることができただろうけど、その後は上手く運んでいるのだろうか・・・
そう思って馬房を眺めていると、さっきまで寝ていたらしく、マーラたちに気がついたリンが馬房に飛び込んで、何やら身体を震わせていた。
どうやら、「僕が上!」とでも言っているようだ。
・・・私の従魔内での上下関係的な?
マーラはリンを無視して座り込んで寝てしまい、他の子たちも同様だが、ウォロンだけがリンに近寄り、リンに鼻を擦り付けていた
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