第67話:侵攻の結末6

バイズ辺境伯達は、この森に入った目的は一応、達したと言える。

死体の回収は困難 ―なぜなら魔獣の腹の中― なので、本人のものと確認できるものを持ち帰りたいとのことだった。

具体的には、武具だ。

私とレーベルはそれぞれ、クソ王子とクソ貴族の武具が落ちている場所を記憶しているので、回収は可能だ。


レーベルに確認したところ、2人の武具が落ちている場所はそれほど離れていなかったので、カイトとポーラに回収をお願いした。

2人をセットで森に出すのは問題ないし、レーベルには私がバイズ辺境伯と話す際には、変なことを言わないように側にいてもらいたいのだ。

それに、バイズ辺境伯とは、これから生々しい話をするので、カイトがいないことは都合がいい。



「この森に入った目的は、一応達したわけだが、コトハ殿にはやはり聞きたいことがある。差し支えない範囲で答えてはもらえないだろうか?」


そう、バイズ辺境伯が切り出してきた。

予想通りだ。


「・・・うん。答えられることなら答えるよ」


まあ、そりゃ聞かずに帰れはしないよね。

考え方を変えれば、バイズ辺境伯領のすぐ近くに、クライスの大森林の魔獣よりも危険な化け物が住み着いたわけだし・・・

自分のことを化け物って呼ぶのは、なんかなぁ・・・・・・



「そうだな、この森にはどのくらい前から住んでいるのだ?」

「うーん、半年くらい前? その前のことは答えないからね。どこの国とも繋がりがないってことは明言しとくよ」


今回、ラシアール王国が目論んだ様に、クライスの大森林を領有できれば、森の周囲の国に対してかなり優位に立つことができる。

当然、逆に他国に領有されると困るわけだ。

なので、懸念は払拭しておいてあげようと思ったが・・・


「そう、か。つまりコトハ殿はどこの国にも属していないと・・・・・・」


ん?

思ってた反応と違う。

私がどこにも属していないとなんなの?



まさか・・・、


「ねえ。私が無所属ってことは、まだこの森を手に入れる可能性がある、とか考えてるの? 次攻めてきたら、国を滅ぼすよ?」

「い、いや。決してそういうわけではない。すまぬ、少し欲が働いてしまってな・・・」

「この森についてじゃなくて?」

「・・・ああ。コトハ殿に仕える国が無いのならば、ラシアール王国に手を貸してもらうこともできるのでは?と、考えてしまったのだ。もう少しはっきり言えば、私の頼みになるがな・・・」

「・・・んなわけないでしょ。カイト達の家族を殺して、2人に酷いことした連中が治めてる国なんか、滅ぼすことはあっても、助けることなんてないわよ」

「・・・で、あるよな。すまない。どうしても、昨日の魔法を使った光景が頭を離れんくてな。ごく稀に、森から出てくる魔獣の駆除を手伝ってもらえたら、どれほど助かるかと、そう考えてしまったのだ。申し訳ない」


あー、そういうことか。

自分達でやれば、多くの兵が死ぬ様な魔獣を、簡単に倒せそうな私に、駆除を依頼できれば、ってことね・・・

この人は、しっかり兵のこととか考えてるんだろうなー


「そうね。それについてはなんとも言えないかな。基本的にここに住んでるから、魔獣が森から出たことなんて分からないし、あなたと連絡を取る手段もないから。たまに町に行くつもりだから、その時に偶然そんなことが起こったなら、考えてあげる」

「・・・そうか。ありがとう。私が聞きたいのは以上だ。魔獣のことではないが、できたらこれから良い関係を築きたいと思っておる。最初こそ最悪であったが・・・」

「そのことは、あなたがマノスをきったことで、チャラにしてるからいいよ。私もこれからもここに住むつもりだし、さっきも言ったけど、あなたの領の領都に買い物とかに行きたいから、いい関係を築けたら嬉しいよ」


これは、本音だ。

多分金に困ることはないだろうけど、領主とコネがあれば何かと便利だろう。

それに今後、ラシアール王国の他の町に行きたいとか思ったときにも、役立つかもだし。



「でさ、その前提として、こちらからも話というか、要求?があるのよね」

「要求、とな?」

「ええ、少し仰々しく言えば、休戦講和みたいな感じ? あなた達の認識はともかく、私たちからすれば、家に攻め込んでこられたのと同義なのよね。そのせいで、戦う準備とか、普段の活動に制限かかったりしたわけよ。それで、こっちが勝ったからさ、その賠償ってわけじゃないけど、報復しない見返りの要求かな?」


そう言って、軽く睨むと、騎士達が一気に剣呑な雰囲気を醸し出した。

こちらも負けずにレーベルが、睨みつけているし、私もバイズ辺境伯をじっと見つめている。

いや、実際にラシアール王国の兵士を多く狩ったのは、魔獣だけどさ・・・



「お前達、止めよ。コトハ殿の立場はともかく、我々は家に攻め入った、これは事実である。・・・だが、所詮私は、一貴族に過ぎない。賠償と言われても・・・」

「そんな無茶ぶりする気は無いよ」

「・・・とりあえず、聞かせてもらえるか?」

「1つ目は、カイトの両親や家の名誉を回復してほしいかな。カイト達は今後、ラシアール王国の各都市に行くことがあるかもしれないしさ。国民にはあまり知られていないらしいけど、貴族とか情報知っている人には伝わっているんだろうし、カイト達が嫌な思いをしないようにしてほしいんだよね。実際には、カイトの親は悪いことしてなかったんだし」

「・・・そうだな。できることなら、したいとは思う。レンロー侯爵や派閥の貴族が多く死んでおるので、派閥の力は弱まっておる。叩くことはできるであろう。だが、いかに亡くなったとはいえ、ロップス殿下の関与があったことは公表できんであろう。せいぜい、爵位的に同格の、レンロー侯爵の悪事を暴くことが限界だ」

「・・・うん、それでいいよ。レイルとキエラって冒険者を、領都で探してみるといいかも。2人は、カイトの家に仕えていたらしくて、事件の後、独自に調査したって言ってたから、証拠とか掴んでるかも」

「・・・なるほど。ありがとう。戻り次第、手配しよう」


よし、これでカイト達の家については大丈夫かな。

自分の親や生まれた家が、犯罪を犯して取り潰されたとして、歴史に残ることなんか、嫌だろう。

実際に、誠実に仕事をしていただけだしね。



「2つ目は、私たちのことを隠しておいてほしいかな。知られたら面倒になる未来しか見えないからさ」

「そうであるな。もちろん、コトハ殿たちのことは、他言しないでおこう。だが、息子には伝えたいのだが、いいだろうか?」

「・・・別にいいけど、なんで?」

「私は今年50になるが、どう考えてもコトハ殿の方が長生きするであろう。それにコトハ殿は『魔族』だと言っておったし、おそらく私の子孫、何世代にも渡って、隣に住む者として共存していくことになろう。そう考えると、息子から、子孫へと、伝えておく必要があると思うのだ。私が今回助けられた恩、ラシアール王国の無謀な進軍を忘れぬためにもな・・・」

「ふーん。まあ、それくらいならいいけど、変に広めないでね?」

「・・・ああ。徹底させよう」


これは、当然だ。

知られたら、襲撃対象になったり、貴族の権力争いに巻き込まれたりと、面倒の予感しかしない。


「3つ目は、私たちがあなたの領都に自由に出入りできるようにしてほしいかな。買い物するからさ」

「・・・うむ。問題ないな。無差別に誰かを襲うなどしないであろうし、町に入っても問題はないであろうな」


ここまでは、概ね予想通りの返答だ。

私の寿命については考えたことなかったな・・・・・・



そして、次が本命。


「で、最後なんだけど。これは要求というか、警告ね。改めて、この森のこの拠点を中心とした範囲は、私たちにとって家だから。次、攻めてきたら容赦はしないから、そのつもりでいてね」

「・・・・・・・・・・・・ああ。そのような愚行はさせぬよう、全力を尽くそう」




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