第66話:侵攻の結末5
レーベルが、薬草を混ぜた『アマジュの実』ジュースを持ってきた。
「どうぞ。魔法薬になります。少し苦いですが、効果は確かでございますので」
レーベルの差し出した『アマジュの実』のジュースは、薄緑色をしていた。青汁みたいな見た目だ。
確か、ストレートの『アマジュの実』のジュースは黄色い濁り色だったから、レーベルの混ぜた、薬草の色なんだろうな。
バイズ辺境伯達は、少し逡巡した後、ジュースに手をつけた。
すると、まあ分かってはいたが、バイズ辺境伯達の身体が光り出し、傷が癒えていった。
ただ、当然そんなこと予想もしていないバイズ辺境伯達は、
「な、何が起こっている!?」
と、慌てふためいていた。
「大丈夫。怪我が治っていると思うよ?」
バイズ辺境伯達は、各々自分の身体を確認してから、
「治っている、のか?」
「アーマス様。擦り傷や打撲はもちろん、骨折していたと思われる、指の骨も治っております・・・。痛みも引いておりますね・・・」
「・・・・・・私の怪我も治っている、な」
うん、驚いてるねー
「効果あったみたいでよかったよ。食事も用意するから、待っててね」
「あ、ありがとう。・・・・・・・・・・・・い、いや、ちょっと待ってくれ! 今のは一体!?」
「うーん、魔法薬?としか。詳しくは説明できないし、するつもりも無いから詮索はしないでね?」
「・・・す、すまん。つい、気になってな・・・」
バイズ辺境伯は、さすがに超えてはならないラインを弁えているようで、これ以上は聞いてこなかった。
騎士達も気になっているようだが、主が追求しない以上、それ以上は聞いてこない。
・・・たぶんだけど、マノスだったら何度も聞いて怒鳴って、拠点内を勝手に調べたんだろうなー
そういえばアイツはどうなったんだろう。生きたまま食われたのか、殺されてから食われたのか、殺されただけなのか・・・
近くに死体が転がってるのも嫌だから、できれば食べていて欲しい。
頼むよ?フォレストタイガー・・・
その後はファングラヴィットや野菜なんかを使った煮込み料理をレーベルが振る舞って、無事に好評を得た。
まあ、ファングラヴィットであることは知らせなかったが。
寝る場所は、さすがに家の中に入れる気にはならなかったので、拠点の空き地を使ってもらう。
バイズ辺境伯達も、最初からそのつもりであったようで、問題は無いようだった。
ここは安全だけど、一応騎士達が交替で見張りをするようだ。
♢ ♢ ♢
翌日、朝食を済ませてから、必要なことをしておく。
「あなた達もあるんだろうけど、私たちも聞きたいことって言うか、話したいことあるんだけど・・・」
「・・・あ、ああ。そうだな。我々も同じだ。聞きたいことが多くある」
まあ。そうだよね。
なんだかんだ、こっちのことは何も伝えていない。
ここに住んでいることと、カイトのことくらいだ。
ポーラは一応、紹介はしたが、挨拶しただけだ。
もっともこれは、カイトがポーラに貴族時代のことを説明するのを避けたいと言っていたことに配慮したためだ。
もう少し大きくなったら、全て説明するつもりらしいが、今は完全に理解できるとは思えないし、まだカイト自身も整理しきれていないことがあるため、ペンディングした形だ。
「そっちからでいいよ?」
「うむ。まずは改めて、助けていただいたこと、怪我の手当てのため魔法薬を分けてもらい、食事と安全に寝ることのできる場所を提供してもらったことを感謝する。そして、昨日の元部下の無礼極まりない言動を、詫びさせてもらいたい。申し訳なかった」
そう言うと、バイズ辺境伯と騎士達が深々と頭を下げた。
この世界において、頭を下げる行為がどの程度の表現方法なのかは知らないが、おそらく最大限の気持ちの表し方なのだろう。
マノスのことはもう気にしてないし、助けたのは打算からなので、問題ない。
「いいよ。昨日のことは忘れたし、助けたのはこっちにも考えがあってのことだしさ。それで、聞きたいことは?」
「そうだな。まずは、我々がこの森に来た目的を話すこととしよう」
そう言って、バイズ辺境伯が語ったのは、彼らがこの森へ入った経緯だった。
なんと驚き・・・・・・、でもないが、クソ王子を探して精鋭部隊で突入したらしい。
だが残念ながら、騎士達は段々と数を減らし、バイズ辺境伯もボロボロになったところで、私たちと遭遇したようだ。
バイズ辺境伯はお世話になった貴族の遺品である武具を見つけたらしく、それを持っていた。
その武具は、血で汚れていたので、水を用意してあげたら、綺麗にしていた。
そして、
「コトハ殿達に出会うまで、ロップス殿下やレンロー侯爵の痕跡を見つけることはできなかった。もし何か知っていることがあれば、教えていただきたいのだが・・・」
「うーん、そうだね・・・。・・・・・・・・・知ってるよ、2人がどうなったのか」
「ほ、本当か!?」
「うん。2人とも死んでる。クソ・・・、ロップスって王子は、魔獣に首を引きちぎられるところを私が直接見てるよ。レンローって貴族は、レーベルが死体の一部や、武具を発見している。レーベル曰く、そのレンローって貴族の魔力が確認できたらしいよ」
そう言うと、4人は黙り込んでしまった。
自分の国の王子や高位貴族が死んだことを知ったから驚いているのかと思ったが、そうではないらしい。
「・・・・・・そうであったか。やはり死んでおったか。・・・・・・ん? 確認させてもらいたいのだが、コトハ殿は、ロップス殿下やレンロー侯爵を知っておったのか?」
「うん。カイトの仇敵だし。森の入り口で会ったしね」
今度は私が、森の入り口での出来事を、簡単に伝えておいた。
「・・・なんと、その様なことが。ロップス殿下が体調を崩したとは聞いたのだが、コトハ殿の鉄拳制裁を食らったわけか」
・・・・・・なんだろう。さっきから、バイズ辺境伯や、騎士達の態度が想定と違う。
アレでもこの人達の住む国の王子なわけで、たとえ予期していても死んだことを悲しんだり、悼んだりするのかと思えば、むしろ嬉しそうな気さえする。
それに、森の入り口での出来事についても、なんだか満足そうだ。
「・・・あのさ。一応私、その王子が死ぬのを目の前で見ているし、助けようと思えば助けられたんだけど、あえて見殺しにしてるのよね。それについて、なんか怒ったり、追求したりはしないの?」
「・・・・・・そうだな。それが当然なのかもしれぬ。だが、ロップス殿下とレンロー侯爵は、欲に目がくらみ、短絡的で無謀な計画のもとで、多くの兵を無駄死にさせた。そして我々も、その巻き添えを食わされた。結果、ラシアール王国は多くの兵を失い、優秀な貴族を失い、多くの民を危険にさらしたのだ。その原因たる王子や侯爵の死を悲しむことなどできないというのが本音であるな。もともと人望も無かったしな。そしてコトハ殿達は、ラシアール王国に属する者ではないので、形だけ取り繕っておく必要もないしの」
それから一呼吸置いて、
「それに、立場はともかく1人の人間として、カイト殿達の境遇や、森の入り口での出来事を踏まえれば、助けないのは当然であろう、と思うのだよ」
と、おそらく本音を語ってくれた。
「・・・・・・なるほどね。まあ、ファングラヴィットやフォレストタイガーが出ただけで、『町が滅ぶ』とか言ってるうちは、この森を攻めるのはやめておいた方がいいと思うよ。それよりも強いのもいるわけだし」
「・・・・・・そうであるな。昨日のコトハ殿の動きを見ても、我々では逆立ちしても敵わぬであろう。今回の計画も魔除けの魔道具に頼ったものであったが、その効果も期待通りとは、いかぬかったしの・・・」
「魔除けの魔道具って、なんか球体のやつ? あれはこの森の魔獣にとっては、不快な程度だからね。むしろ、喧嘩売ってるだけになるよ」
「・・・せめてこの森で実験を行い、そのことを知っておれば、大勢の死を避けられたと思うと、後悔しきれぬな・・・・・・・・・」
バイズ辺境伯が悔しそうにそう言い、騎士達も唇を噛みしめていた。
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