第68話:侵攻の結末7

バイズ辺境伯は、私の要求や警告は基本的に受け入れてくれた。

まあ、それほど無茶振りしたつもりもないしね。



これで、話が終わりかと思っていると、


「コトハ殿。これまでの話を受けて、1つ提案があるのだが、聞いてはもらえないだろうか。こちらの思惑と、そちらの利点を説明するので、受け入れるかはそれから考えてくれればよいのでな・・・」


提案?

いまさら、変なことは考えないと思うけど・・・


「・・・まあ、とりあえず聞くよ」

「感謝する。提案というのはな、定期的に連絡を取り合わないか、というものだ。こちらとしては、コトハ殿に連絡をとる術を持っておきたいのだ。・・・・・・我々だけでここを訪ねるのは、はっきり言って自殺行為である。となると、コトハ殿に会いたければ、町に来るのを待つほかない。できることならそれは避けたいのだ。もちろんその目的は、先程申した、魔獣についてだがな・・・」

「まあ、言いたいことは分かるよ。それで、私にとってのメリットは?」

「まず、定期的に外の情報を知ることができる。これでも私は、ラシアール王国で一番面積の大きいバイズ辺境伯を預かっている。当然、国から日々情報が届くし、自己の間諜を多く、国内外に放っておる。それらから集まる情報もある。この森に関する情報や、コトハ殿が欲しい情報を提供できる」


なるほど、情報か。

実際、今回のラシアール王国の侵攻を知ったのも、偶然みたいなものだ。

森から出たところで見つけただけ。

あのタイミングで町に行こうとしてなかったら、気づくのは、森の中で遭遇してからになった。

それで、何か問題があったかは、分からないが、いつの時代も情報の価値は高い。

それに相手は、ラシアール王国の辺境伯だ。

自分でも言ってるように、その多さや正確性も信用できるだろう。

ただし・・・


「そちらが与える情報が真実だという保証は?」


まあ、これだよね。

「侵攻計画なんか、ないでーす」って言われても、それが嘘で、不意を突かれる可能性は当然ある。


「ああ、残念ながらそれは、信じてくれと言うしかない。だが、1つ言うのならば、私は、先程コトハ殿がした警告を真剣に受け止めている。次に敵対すれば、王国が滅ぼされると確信しておる。当然私も殺されるだろう。そんな相手を騙す気はない。国を滅ぼしかけた、ロップス殿下やレンロー侯爵の二の舞にはなりたくないのでな」


・・・・・・・・・なるほどね。

うーん、・・・まあ、これは受けるべきかなー・・・?

情報の信用性は、他の情報源を入手して、すり合わせていけばいいだけだ。

最初に得る情報源としては、リスクよりも価値が上回るか。

こちらは、その情報を批判的に調べればいいだけだ。

それに、こっちの負担はほぼない。



「分かった。さっきの話だと、頻度を決めて定期的に町に行く時に、情報のやり取りをする感じね」

「ああ。その通りだ。頻度は・・・」

「レーベル。食料的にどのくらいの頻度で、町に行ったらいい?」

「・・・・・・そうですね、町で入手するものが、野菜や調味料が中心であることを考えると、月1くらいかと」

「おっけ。バイズ辺境伯もそれでいい?」

「ああ。それで頼む」

「よし。あ、でも先に言っとくけど、定期的に会うからと言って、あなた達の頼みを必ず引き受けるわけじゃないからね?」

「ああ、それも承知している。後できれば、森に異変があれば教えてほしい。住んでいる者の情報が最も信用できるのでな」

「うん、了解。あとは・・・、情報を交換しに行くのは、レーベルが担当することがあってもいいよね?」

「ああ。レーベル殿からコトハ殿に、伝えてくれればいい。・・・だが、最初、一度だけ、コトハ殿に領主の屋敷まで来てもらいたい。身元は伏して、私の友人として迎えるのでな・・・・・・」

「ん? 町に行くついででいいならいいけど、なんで?」

「此度の礼をきちんとしたいのと、息子へ紹介し、定期連絡に関する取り決めについても周知させたいのだ。その場にいてもらいたい」

「・・・・・・うーん、まあ、いいよ。じゃあ、2週間後くらいに行くよ」

「相分かった」


よし、これでまとまったかな。





昼食の用意をしていると、カイト達が帰ってきた。

無事、目当てのものは回収できた様で、運搬係のリンから受け取っていた。

もちろん、バイズ辺境伯達の目の届かないところでやっている。



「・・・・・・確かに、これはロップス殿下や、レンロー侯爵のものであるな。ありがとう、カイト殿、ポーラ殿」


そう言って、バイズ辺境伯や、騎士達が軽く頭を下げた。

貴族のことを知っているカイトは、なんか居心地悪そうにしているが、我慢しなさい。



バイズ辺境伯達は、昼飯を食べたら帰路につく。

既に予定よりも森に長く滞在しているらしく、王国がどうなっているか、心配らしい。

それに、いち早く、クソ王子とクソ貴族の死亡を伝えなければならない。


ただ残念ながら、バイズ辺境伯達だけで森を抜けることはできない。

ここに連れてくることを決めたときから分かってはいたが、森の入り口まで送らないといけない。


ただ今回はその役目は、レーベルが担当することになった。

ぶっちゃけ、私が押しつけた。

これから2、3日も、一緒に森の中を歩くのは、なんていうか、しんどい。

面倒はレーベルに押しつ・・・・・・任せて、私は、拠点の戦闘モードを解除したり、各所の微調整をしたりする予定だ。


バイズ辺境伯は最後に、短剣を渡してきた。


「バイズ辺境伯家の家紋が入った、身分を示すのにも使える正式な短剣だ。領都へ入る際や、屋敷へ来る際に、門番に見せてくれれば、優先的に入れるし、私へ取り次ぐことができる。持っていてくれ」

「・・・ん。ありがと」



 ♢ ♢ ♢


〜バイズ辺境伯視点〜


コトハ殿の執事であるレーベル殿の先導で、森の中を歩いて行く。

我々だけで歩いていたときとは異なり、どんどん進んでいく。

何度か、ファングラヴィットに遭遇したが、気づいたのと同時に、レーベル殿が倒していた。

拠点で挨拶をした時に感じてはいたが、レーベル殿もかなり強い。


コトハ殿の拠点では、驚きの連続であった。

そもそも、クライスの大森林という死地に、あれほど立派な拠点があるとは思わなかった。

そして、カイト殿にポーラ殿。

マーシャグ子爵家の次男と長女で、死罪を免れたが、実質死罪と同義の辺境の村送りになった。

送られたカナン村は、一応我が領に属してはいるが、閉鎖的な村で、最低限の税のやり取り以外は関わることが無い村であったが、レンロー侯爵が金を握らせ、2人を村で殺すように指示していたようだ。

まあ、結局、今目の前で切り刻まれた、ファングラヴィットに滅ぼされたわけだが・・・


そんな2人は、2人だけでこの森の中を行動できるくらいには強いらしい。

コトハ殿が、2人をとても大切にしているのは見れば分かったが、そんなコトハ殿が、2人にロップス殿下らの武具の回収を頼んでいたのだ。

それほど強いのだろう。


そして、治療に使われた魔法薬や、出されたこれまで食べたことのない美味しさの食事など、驚きが絶えなかった。

最終的に、これからもコトハ殿と定期的に連絡を取ることができるようになったことは、今回の最大の成果であろう。



私はこれから、難しい立場に立たされる。

ラシアール王国がクライスの大森林に再度手を出すようなことが無いように、努めなければならない。

仮に再度の軍事作戦が行われれば、私がコトハ殿との約束を破ったこととなり、私の死を意味する。

・・・そして、王国の滅亡を意味する。



見た目は、17、8くらいの若い女性。

貴族の娘と言われても驚かないほど見目麗しい女性であったが、その言動はかなりハッキリしていた。

そして、マノスの足を躊躇わずに吹き飛ばしたことといい、拠点での会話中も何度も凄まれたことといい、彼女は敵を倒すことに一切の躊躇がない。

そしてそれに見合う、実力を兼ね備えている。

間違っても、敵に回していい相手ではないのだ。



・・・・・・果たしてそれを、宰相のランダル公爵や、国王陛下に上手く伝えられるだろうか。

コトハ殿との約束もあって、コトハ殿のことを伝えることはできない。

それに、直接会ってみなければ、あの恐怖は感じることができないだろう・・・




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