第52話:必要なものを揃えよう2

「・・・仕組みはよくわかんないんだけどさ、『剣と盾』のトイレが清潔で臭わないし、良かったの。あれを再現することってできる?」

「・・・トイレでございますか。おそらく、スライムでございますね。『ディーズスライム』と呼ばれる、小さなスライムでございます」

「・・・・・・スライム?」

「はい。『剣と盾』のような高級宿や、貴族の屋敷など高級な物件に備え付けられているトイレには、スライムが使われています。トイレの下部に、スライム用のプールがあり、そこに排泄物が集まります。『ディーズスライム』は、プールに落とされた排泄物を取り込み、養分とします。そのため、プール内が過度に汚くなることもなく、臭いがひどくなることもありません」

「なる、ほど・・・。そのスライムって、買えたりする?」

「もちろんでございます。ただ、結構、値が張りますが・・・」

「どのくらい?」

「1匹で金貨2枚になります。野生の個体は少なく、貴族の家などで分裂し、増殖した分が売りに出される程度ですから」

「もちろん、買います。何匹くらいいるかな・・・?」

「我々の家ですと、5匹もいれば十分かと」

「うーん。じゃあ、7匹お願い」

「・・・承知致しました」


よし。これは思わぬ収穫だ。

日本の清潔なトイレに慣れている私には、拠点のトイレは耐え難いものがあった。

合計で140万円と、めちゃくちゃ高かったけど、これは譲れない。

帰ったら、トイレの改造だ!



その後、買いたいものは伝え終わったので、トレイロの案内で、2階の別室にある、新品の服の売り場に向かう。

トレイロの部下の人 —さっき紹介してくれたところによると、番頭さんらしい— は、マットレスなどの準備をしてくれている。


この世界では、古着を着るのが一般的だ。

新品の服を買って着るのは、貴族や、商人など一部の金持ちだけらしい。

より金持ちだと、オーダーメイドになる。

トレイロは、『セルの実』を売った私たちを、よくわからない金持ちと見ているらしく、新品を勧めてくれた。

まあ、新品でも値段的に買えそうだし、新品を買おう。


服売り場には、新品の服がいくつも掛けてあった。

買うのが貴族だったりするだけあって、やたらと装飾の派手なものが多い。

森の中で暮らしている私たちにとって、装飾は邪魔なだけなので、それぞれシンプルなものをいくつか選んで、購入しておく。



服を選び終わったので、1階に下りる。

1階に下りてまず、カイトの武器を見てみることにした。

武器なんて私にはよく分からないので、レーベルとカイトがいろいろ話しているのを後ろから眺めている。


「カイト様が習っていたのは、どのような剣の扱いでしょうか?」

「・・・えーっと、こういうのです」


カイトが示したのは、両刃の真っ直ぐな剣だ。

それほど長さはなく、片手でも扱える感じ?

陳列棚には、装飾の凝った華美なものから、装飾の全くない実用向け?なものまでいろいろ展示されている。

華美なヤツは、儀式用とか?


カイトが示した片手剣の1つを、レーベルが取り、カイトに渡す。

カイトは剣を受け取ると、棚の無い場所へ移動し、剣を軽く振ってみている。

なんか、様になってるなー


「どう?カイト」

「・・・うん。習ってたのは、こんな感じの剣だよ。少しだけど扱い方も覚えてるみたい」

「ふーん。レーベルは、この剣の扱い方を教えられるの?」

「無論でございます。この剣はオーソドックスな片手剣ですから、扱い方も心得ております。カイト様は、『身体強化』をかなり使いこなせておりますので、剣を組み合わせることで、より強くなれると思います」

「なるほどねー。じゃあ、買おっか。訓練用に、レーベルのも買っとこう」

「そうですね・・・。加えて、訓練用の木剣も購入しておきましょう」

「おっけー」

「お姉ちゃんは買わないの?」

「私用の剣?」

「うん。お姉ちゃんなら剣も扱えそうだし」


・・・・・・いや、無理だから。

日本人の高校生に剣の扱いは無理よ。

いや、確かに。ここに並んでる剣を扱って、敵をばったばったと切っていけたら気分いいと思うけどさ・・・





買うか。

お金あるし。

展示されている剣の値段を見ても、『セルの実』の収入で十分に買える。

買わないと、練習することもできないしね。


「よし、買おう。使えたらかっこいいし」

「・・・・・・う、ん」


カイトが何か言いたそうにしているけど、無視だ。

いろいろ眺めて、少し短めで反りのある、剣を選んだ。

なんでも、2本1セットの両手剣らしいので、2本まとめて買っておく。

使えなかったら、カイトにあげればいいし。


「じゃあ、これを」


カイトはやはり何かを言いたそうにしているけど、スルーしておく。



「後は、食材かな? 野菜とか、調味料とか買いたいね」

「そうですね。肉は最高級のものが簡単に手に入りますが、野菜や調味料は見当たりませんので」


食材売り場に移動して、並んでいるものを見ていく。

見た目自体は、トマトやナスなど、見たことあるような野菜もあれば、真っ赤な葉野菜など、見たことのない野菜もある。

まあ、よくわかんないから、レーベルになげておく。


レーベルは、野菜を大量に選び、さらにそれぞれの種を選んでいた。

拠点の空き地で育てるらしい

まあ、毎回買いに来るわけにもいかないもんね。



こうして、異世界で初めてのショッピングは大満足に終わった。

倉庫のようなとこに、頼んだものがまとめてあったので、リンに収納してもらう。

『ディーズスライム』だけは、『マジックボックス』に収納できないので、カゴに入ったまま受け取った。

『マジックボックス』には、生きている魔獣や魔物は収納できない。植物は収納できるのに不思議なものだ。

受け取った金貨から代金を支払ったが、まだまだ金貨は残っている。


「皆様。本日は誠にありがとうございました。また何か必要なものがありましたら、是非トレイロ商会へお越しください。また、『セルの実』など貴重なものを入手された際にも、売り場所としてご検討いただければ幸いです」

「こちらこそありがとう。また来るね」


そう言って、トレイロ商会を後にした。



 ♢ ♢ ♢



買いたいものは買えたし、リンの従魔登録もできた。

領都に来た目的は達成したわけだ。

このまま帰ってもいいんだけど・・・


「用事は済んだけど、どうする?」

「うーん、僕は特に用はないけど・・・」

「ポーラ、もうちょっと町を歩いてみたい!」

「そうだね。もう少し町を散策してみようか」



せっかくだし、もう少し見て回ることにしよう。


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