第53話:真実を知ろう

散策しようか、と思ったが、日も暮れてきているので、明日にしよう。

明後日までは滞在できるしね。





翌朝、宿の1階にある食堂で、朝食を食べていると、2人の来客があった。


「おはようございます。ちょっとよろしいでしょうか?」

「・・・ん? 私たち?」

「はい。カイト様とポーラ様に、お話があるのですが・・・」


カイトとポーラに?

カイトとポーラの名前を、私たちの他に知っている人はほとんどいない、よね?

そう考えると、とっさに2人の前に立って、魔法の発動準備をした。


「お、お待ちください。私たちに敵意はありません!」


ん? この2人、一昨日見たような?

もしかして・・・


「トレイロの護衛の人?」

「・・・はい。私はレイル。こっちはキエラです。冒険者をしております。本日は、内密にお話があり、参りました」


うーん。護衛の人か。

なら名前を知っててもおかしくないし、ここをトレイロに聞いたのだとすれば、納得できる。

でも、なんの用?

敵意はなさそう、だし、大丈夫そう?


「・・・・・・わかりました。私たちの部屋へ」


レーベルに目線で合図し、万が一の場合に備えておいてもらう。

カイトとポーラは私の近くに。レイルとキエラから少し離れて歩いて行く。

部屋に着くと、彼らを部屋の奥にいかせ、逃げ道も確保しておく。



「それで、カイト達に話って?」

「はい。単刀直入に申し上げます。私たちは、2年前まで、マーシャグ子爵家にお仕えしておりました」

「・・・・・・えっ?」

「マーシャグ子爵家って?」

「・・・僕たちの家の名前」

「私たちは、当時、マーシャグ子爵の指示で、調査に出ていました。その出先で、知らせを聞きました。その後、いろいろ調べましたが、お二人の消息を掴むことはできず。ようやく掴んだ情報も、既に滅んだ村の情報でしたので。そして、一昨日、私たちを助けていただいた皆様の中に、お二人をお見かけし、お声を掛けさせていただいたのです」

「・・・なるほど」

「それで、2人がカイトの家に仕えていたのは分かったけど・・・」

「はい。最初は、お二人を陰ながらお守りしたいと考えていました。しかし、一昨日の様子を見るに、それは不要だと思います。ですが、私たちはマーシャグ子爵家、特にラザル様に助けていただいた恩があります。勝手ながら、一言、カイト様達にご挨拶をさせていただきたいと思ったのです。そして、もし希望されるのでしたら、事の真相について調べたかぎりの情報をお教えさせていただきたいと思った次第です」


なるほどね。

雇い主の親に恩を返せなかったから、生き残った息子にせめて礼をしたいと。

まあ、少し自分勝手な気はするけど、昨日のトレイロみたく、この世界は建前や面子を大切にする。きちんと恩は返したいってことなのかな?

いや、この人達が今できる、最大限の誠意ってことかな。


それに、カイト達の家がどうして潰されたのかについての情報か。

これは、カイト達、というかカイト次第だな。

カイトは家のことはもう気にしていないと言っていた。とはいえ、自分の家が潰され、親や兄が殺され、自分達が劣悪な環境に追いやられ、命の危険にさらされたことを考えると、事情を知りたいと考えて当然だし、復讐を考えても不思議じゃない。


そう思ってカイトの方を見ると、


「えっと。父があなた方に何をしたのか知りませんが、これまでマーシャグ子爵家に仕えてくれたことで、それは十分だと思います」

「・・・もったいないお言葉です。ありがとうございます」


そう言うと、2人は深々とカイト達に向かって頭を下げた。

ポーラは事情が分かってはいないようで、不思議そうに見つめている。


「それから、今更復讐とかは考えないんですが、その、何があったのかは知りたいです」


そう、レイルに告げた。


「分かりました。調べた内容を全てお伝えします」



それからレイルとキエラが話してくれた、カイトの家が潰された事情は、なんというか言葉を失うようなものだった。

カイト達の家、マーシャグ子爵家は、ラシアール王国の財務状況の監督をする仕事をしていた。

メインの仕事は、貴族から税金を集めることと、国のお金の収支を管理すること。

カイトの父親は、清廉潔白な人で、数々の不正を見つけてきた。

それを邪魔に思った貴族が、同じく邪魔に思っていた王子と組んで、嵌めた。

罪をでっち上げ、あっという間に取り潰して処刑。


なんともまあ、やりたい放題だ。

レイルとキエラは、そんなカイトの父親の調査を手伝っていたようで、その伝手を頼って、事の真相を調べたらしい。

カイトは、その話を聞いて、悔しそうな、悲しそうな表情をしている。

普段はしっかりしていて、ポーラの面倒を見て、私を手伝ってくれているが、まだ12歳の少年だ。

この世界の子どもの成熟が早いにしても、まだ子ども。

親の死の真相や、自分に降りかかった不幸の理由が判明すれば、抑えきれなくなっても不思議ではない。


ちなみにポーラは、レーベルと一緒に町に行かせた。

さすがに、この話を聞かせることはしない。そもそも、ポーラは貴族時代の記憶がほとんど無いのだから、無理に思い出させる必要も無い。


「ありがとう、ございます。話してくれて。父や兄が、犯罪をしたと聞いていました。嘘だとは思っていましたが、それ以外何も知らされなくて。父や兄が、犯罪者では無かったと知れただけでも、よかったです」

「うん。カイト。カイトのお父さんやお兄さんは、まじめに仕事をしていた。悪いのはその貴族と王子。・・・・・・カイトがその気なら、復讐を手伝うよ?」

「・・・ううん。憎くないってのは嘘になるけど、今更どうしようもないし。今は、お姉ちゃんとポーラとレーベルと一緒に暮らせて幸せだから、それでいいよ。その人たちが僕たちに関わることもないだろうし・・・」

「・・・・・・そっか。まあ、クライスの大森林には来ないもんね」


そう言うと、レイルとキエラが、驚いたようにこちらを見た。

やらかした。クライスの大森林に住んでることは内密にしておかないといけなかった・・・


「あ、今のは聞かなかったことに・・・」

「あーいえ。確かに驚きましたが、もちろん口外することはありません。ですが、現在、その貴族と王子、レンロー侯爵とロップス王子が、クライスの大森林に侵攻するための、軍を準備しています」

「・・・へ? クライスの大森林に進軍? なんで?」

「表向きは新たな領地の開拓とされていますが、実はラシアール王国は現在、財政状況がかなり厳しいのです。その理由は2つ。1つ目は、マーシャグ子爵がいなくなったため、不正や使途不明金が増えたことです。まあこちらは、影響がある、という程度。2つ目が主な理由で、塩の販売が不調なのです。隣国のジャームル王国に販路はほとんど奪われておりますので。王国は、一発逆転をかけて、クライスの大森林を通るルートの開拓、また副次的にクライスの大森林の一部を領土に加える予定であるそうです。クライスの大森林には手つかずの資源が多く眠っていると言われていますので・・・」


そういえば、ラシアール王国とすぐ西にあるジャームル王国はともに塩の販売をしているってカイトに教わったな。

その、塩の販売が不調だから、新たなルートの開拓ね。

言いたいことは分かるけど、そんなのできるんなら、とうの昔にやってない?

それだけ切羽詰まってるのか・・・


「その侵攻を、クソ貴族とクソ王子が率いてるわけね・・・」

「左様にございます。私たちが助けていただいたのも、そのための陣地を領軍が築いている場所へ、物資を届けている最中のことでございました」


なるほどね。

途中で見た軍隊は、それか。


さてさて、どうするかねー

道中も話していたけど、攻めてこられるのは困るんだよね。

レーベルが大袈裟に言ってた、クライスの大森林が全部私のものだという説はさておき、拠点や行動範囲内に入ってくるなら、始末する必要が出てくる。

うーん。面倒くさくなってきたな・・・


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