第51話:必要なものを揃えよう1
トレイロ商会の建物は、冒険者ギルドの建物に引けを取らず、大きく堅牢な建物だった。
この町の建物は本当に、厳ついというか、強そうだ。
中に入ると、冒険者ギルドよりは多くの人がいた。
1階は様々な商品の売り場になっているようで、武器や防具、食料に、服など生活に必要なものが売られていた。
いろいろ物色したいが、先にトレイロに挨拶しておきたい。
それに『セルの実』の代金も受け取らなくてはいけない。
・・・そういえば、昨日宿に着いてから、トレイロが木の実を持ち逃げする可能性や、途中で死んでしまう可能性を考慮しなかったことをカイトに指摘された。
確かに、不用心であったとは思う。ただ、仮に『セルの実』を4個、持ち逃げされたとしても、私たちにはほとんど被害はない。ムカつくだけだ。
まあ、この世界は前世の日本と比べて、治安は比べものにならない程に悪い。それに人は、それはもう簡単に死ぬ。
町にいる間は、そのことをもう少し考えて行動するようにしよう・・・
受付のお姉さんに、挨拶し、名乗ってから、トレイロに会いたい旨伝えた。
「コトハ様と、そのご家族、執事の方ですね。トレイロより申しつかっております。2階の個室へご案内致します」
そういってお姉さんは、受付裏にあった階段へと案内してくれた。
2階に上がると、1階とは違い、廊下と、ドアが並んでいた。
おそらく、それぞれが商談用の個室なんだろう。その1つに通され、トレイロを呼んでくると言われたので、待つことにする。
数分して、トレイロが入ってきた。
「コトハ様、カイト様、ポーラ様、レーベル殿。トレイロ商会へお越し下さいまして、ありがとうございます。そして、改めて昨日は、助けていただきありがとうございます」
「・・・いえ。お礼なら昨日聞いたので」
トレイロは開口一番、昨日の礼を言ってきた。
まあ、命を助けられたら、礼ぐらい繰り返すもん?
私としては、昨日で終わったんだけどなー
「そう致しましたらまず、『セルの実』の代金をお支払い致します」
そう言うと、後ろに控えていた部下の人に合図をした。
部下の人が、私の前に、トレーの上に積まれた金貨を置いた。
・・・なんか、いっぱいある。
「『セルの実』4つ分の代金として、金貨80枚。それから昨日のお礼として金貨50枚の合計金貨130枚でございます。ご確認ください」
「・・・え? お礼って」
そんなのいらないです、と言おうとしたところで、トレイロが遮った。
「命を助けていただいたお礼をしないのは、商人として、あってはならないことなのです。どうか、お納めください」
「・・・」
「ありがとうございます」
私が、どうにか食い下がろうとしていると、カイトが受け取った。
金貨は、カイトからレーベルへと渡され、レーベルが確認していた。
・・・・・・まあ、受け取っておくか。
よくわかんないけど、建前とか面子とか、そういう私には分からないものもあるんだろう。
「トレイロ、ありがとうね」
「いえ。気持ちでございますので」
「そっか・・・。それでさ、今日来たのは、『セルの実』の代金のこともあったのだけど、いくつか買いたいものがあってね」
「承知致しました。この店の品揃えは、領都の中でも1、2を争うものと自負しております。お望みの商品をご用意できると思います」
「よかった。欲しいのは、まず布。服とかタオルとかも欲しいんだけど、ベッドのシーツが欲しいんだよね。それに、もしあれば、マットレスも欲しいかな」
最初は、タオルが欲しかった。服はまあ、『身体装甲』で出すことができるけど、そのイメージの参考になるのと、もし何らかの事情でスキルが使えなくなったことを想定すると、用意しておくべきだと思ったのだ。
そして昨晩、『剣と盾』で、マットレスとシーツのあるベッドで寝てから、これは是が非でも買って帰りたいと思っていた。
「承知致しました。まず服ですが、下の店舗部分にて販売しているのは古着になります。新品の服は、専用の部屋がございますので、後ほどご案内致します。それからタオルですが、この店で扱っている最高級のものをお持ち致します」
そう言うと、先程、金貨を渡してくれた部下の人が部屋を出て行った。
「そして、マットレスとシーツですが、お望みのものはどのようなものでしょうか」
「・・・えっと。昨日は『剣と盾』っていう宿に泊まったんだけど、そこのマットレスとシーツが良かったから、同じ感じのがあればそれがいいんだけど・・・」
「なるほど。『剣と盾』のマットレスとシーツは、私どもが用意したものになりますので、同じものをご用意致します。おいくつ必要でございますか?」
「うーん。私たち4人分と・・・。万が一を考えて・・・、6セットありますか? シーツは各3枚で」
「もちろんでございます。すぐに用意させますが、お持ち帰りは大丈夫でしょうか?」
あー、忘れてた。
自宅まで配送とかないよね・・・
仮にサービスとしてはあっても、クライスの大森林の拠点に運んでくれるわけないか。
リンの『マジックボックス』に入るかな?
そう思い、リンを見ると、「大丈夫!」と伝えてきた。頼もしい。
「えっと。この子、リンが、収納できるので大丈夫です」
「・・・・・・なんと! まさか、『マジックボックス』を使えるスライムですか!?」
「ええ。そうですけど・・・」
「・・・ああ。失礼致しました。コトハ様、差し出がましいようですが、リン殿が、『マジックボックス』を使えることは、知られないようにすることをオススメ致します。『マジックボックス』のスキルは、それを使えるだけで一生安泰、とすら言われる稀少なスキルでございます。貴族や軍、商人からすれば喉から手が出るほど欲しいスキルですから。それを、従魔のスライムが使えると知られれば、必ずバカなことを考える輩が現れますので・・・」
「・・・わ、分かった。ありがとう、教えてくれて」
「いえ。興奮して申し訳ありませんでした。それでは、用意させますので」
そう言うとトレイロは、部屋から出て、外の誰かに指示を出していた。
うーん。やっぱり稀少なスキルだったか。
なんとなく察してはいたけど、想像以上だったな。
これは、今までよりも慎重にならないとな。
今は、万が一に備えて持ってきた『アマジュの実』や『セルの実』、道中で採取した薬草や、貰った金貨などは、全てリンに預けている。
町にいる間は、一部の金貨はカバンか何かに入れておこうかな。
「追加で、カバンも貰える? 全部この子に預けていたからさ。町では自分で持つようにしたいから」
「承知しました。カバン類は、1階に並んでおりますので、後ほどごらんください」
「後は、金属製品かなー。鍋とフライパンとか。レーベル、お願い」
調理器具は、レーベルに任せる。
私もたまに料理はするし、ポーラも教わっているけど、一番使うのはレーベルだし、彼に任せよう。
後は・・・・・・
「そういえばさ。カイトは武器を使ったりしないの?」
「うーん。一応、剣術の基礎は習ったけど・・・。素手で戦えちゃうしなー」
「カイト様。今後のことを考えると、武器の扱いにも慣れておかれるべきかと。私がお教えできますので」
「・・・・・・・・・なら、欲しいかな?」
「おっけー。レーベル、武器もお願い」
「承知致しました」
「後は? 2人ともなんかある?」
「あ、解体用の道具も欲しいです。特にナイフとか」
カイトの言葉にレーベルが頷き、トレイロも素早く部下に指示を出している。
武器は、後で1階で見るらしい。
他にはなんかないかなー?
・・・・・・そういえば。
『剣と盾』のトイレ。水洗式とかではないんだけど、便器があって、そこで用を足してっていう形は、前世のトイレに似ていた。
拠点では、深めの穴を掘っただけの場所をトイレとして利用している。
定期的に、穴を埋めて、場所を変えるのだが、結構面倒くさいし、臭うのだ・・・
『剣と盾』のトイレは、かなり清潔で、臭いもしなかった。
あれを再現できればいいんだけど・・・
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