第30話:執事を雇おう

転生してからの謎だった、『魔竜族』という種族について、少し分かった気がする。

まあ、根本的に、なんで転生したの?とか、どうして龍族の卵に宿ったの、私の魂!?とか、そもそも魂って、何?とか、謎は尽きないが・・・



はぁー・・・

仕方がない、いつも通り、後回しだ。

とりあえず、目の前の問題・・・・・・、私に仕える気満々の執事について考えなくては・・・



「・・・えっと、種族については、分かったわ。教えてくれてありがとう。・・・・・・それで、その、私に仕えるっていう件だけど・・・」

「はい!」


うん。強い。


「さっきも話したけど、私は前世では、そんな誰かにお世話してもらうような立場の人間じゃなかったの。だから、いきなりお仕えしますって言われても、正直困っちゃうのよね・・・」


私がそう言うと、目の前の男、レーベル・・・、レーベルなんとかは、分かりやすく意気消沈している。

・・・う、なんかすっごい罪悪感が・・・


「・・・えーっと、その、ダメと言っているわけじゃなくて・・・。少し、慣れるまでに、時間が欲しいかなーって・・・」


今度は、顔をキラキラさせながら、こちらを見ている・・・

はぁ。やりにくいなー、もう!


「それに、私は1人で生活しているわけじゃないの。だから、一緒に暮らしている子たちにも相談しないとだし・・・」

「一緒に暮らしている子たち、でございますか?」

「うん。森で助けて、そのまま一緒に暮らしているの。私にとって、弟と妹みたいな存在よ。だから、申し訳ないけど、あの子たちと一緒に暮らせないのなら、あなたと一緒にいるわけには・・・」

「なるほど。ご主人様の弟君と妹君でございますか。それならば、私にとって、お二方もまた、ご主人様となるわけですね!」

「・・・2人は人間よ?」

「問題ございません! 龍族に連なるご主人様のご家族であらせられるのであれば、お二方も、龍族に連なるものといえましょう! ですので、お仕えさせていただくことになんの問題もございません!」

「・・・・・・そう」


もう、いいや。

とりあえず、帰って2人に紹介しよう。

少なくともこの感じなら、2人に危害を加えることはないだろうし・・・


そう話していると、リンが、「僕も家族!」とでも言うように、私と、執事の前に出た。


「そうだね。リンも大事な家族だよ」

「・・・おー、これは。また珍しいスライムを、従魔にしておられるのですね」

「珍しい?」

「ええ。オリジンスライムは、滅多に人前に姿を見せません。というのも、数がかなり少ないのです。オリジンスライムは、今この世界に数多いる、様々な種類のスライムの起源たるスライムであり、全てのスライムの先祖は、このオリジンスライムになります。ですが、オリジンスライム自体は、特に攻撃手段を持たず、防御も脆弱な、ある意味最弱のスライムであるため、生存競争に敗れ、ほとんど絶滅しているのです」


なるほど。

進化した子孫よりも、攻撃面、防御面で劣るから、淘汰されていったということね。

・・・ん? そしたらなんでこの森で生きていけるの?


「・・・でも、そんなに弱いなら、どうやって、この森で生きてきたんだろう・・・」

「おそらく、この森に住む魔獣や魔物にとって、狩りの獲物としては小さく、魅力的ではなかったのでしょう。食べてもほとんど栄養になりませんし、かといってこちらを害される心配も皆無。そう判断され、無視されていたのだと思います」


確かに・・・

ファングラヴィットといい、フォレストタイガーといい、そしてさっきのブラッケラーといい。どいつもこいつも、この森の生き物はでかい。それこそ、ブラッケラーにとってリンなんて、小石程度にしか見えないだろう・・・


「なるほどね・・・。最も危険な森だからこそ、生き残ることができたってわけか・・・」

「はい。ですが、このオリジンスライムは、種族自体はオリジンスライムではあるのですが、既に魔力量は、通常のオリジンスライムを遥かに凌駕しています。いえ、他のどのスライムも遠く及ばないでしょう。それに放つオーラもオリジンスライムのそれではもはやないかと。それこそ、この森の外でならば、一帯の主となっていてもいいような存在です」

「この子の名前はリンよ。・・・というか、オリジンスライムは最弱なんじゃないの?」

「リン殿でございますね。よろしくお願い致します。

リン殿ですが、ご主人様が放たれている魔力を近くで吸収し続けているため、魔力が変質し、魔力量が増加し、能力も高くなっているのではないかと、愚考致します」

「私の魔力?」

「はい。私が感知できたように、ご主人様は絶えず魔力を放たれています。それも強力な魔力を大量に。一種のオーラとでも言いましょうか。それを、近くで暮らしている、リン殿が吸収したのではないかと」

「・・・・・・私、オーラなんて出してるの?」

「はい。ご主人様の姿形を見なければ、近くに龍族がいるのかと感じてしまうほどの、強いオーラを放っておられます。おそらく、ファングラヴィットやフォレストタイガーなどの、この森における下位の種族は、気づけばすぐに逃げ出すでしょう。先程のブラッケラーは、今やこの地上で最強の種の一つであるため、逃げる、という選択をした経験がなく、オーラを感じてもとどまっていたようですが」



・・・・・・うーん。

じゃあ、最近、拠点の周辺でファングラヴィットを見かけなくなったのは、私のオーラを感じていた、ってことなのか。

なんか、もう、私って、強い魔獣じゃん。

縄張りを持ったから、その周辺から“エサ”になる魔獣が逃げていった感じ?





もういいや、疲れた。

考えるのは止めて、帰ろう。

この執事も、一緒に来たいのなら勝手にすればいい・・・

あー、けど、一つ確認しておかなくては・・・


「・・・わかった。いろいろ教えてくれてありがとうね。もう、一緒に来るのはいいんだけどさ。その、私に仕えてくれるとして、お給料はどうしたらいいかな? お金とか持ってないんだけど・・・」


目の前の執事は、驚いたような表情でこちらを見た。初めて表情崩したな・・・


「もちろん、不要でございます。こちらからお願いしてお仕えさせていただくのですから。むしろ私が、お支払いしたいくらいでございます」

「それは結構です!」

「・・・左様でございますか。ですが、本当に、対価などは不要でございます。お仕えさせていただくだけで、嬉しく思います」

「・・・はぁー。わかったわ。とりあえず、家に帰りましょうか。2人のことも紹介したいし、まだ聞きたいこともあるし」

「承知致しました、ご主人様」

「あーあと、それやめて。ご主人様ってやつ。なんかむず痒い」

「左様でございますか・・・。では失礼ながら、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「あ、そっか。自己紹介してなかったね。私の名前は、コトハ・ミズハラ。名字名乗ると面倒そうだから、コトハって名乗っているわ」

「承知致しました。では、コトハ様とお呼びしてもよろしいでしょうか」

「ええ。あなたの名前は確か・・・」

「私の名は、レーベルバルド・クーサルスタインと申します。ですがこれからは、コトハ様に付けていただいた、レーベルを名乗ることと致します」

「・・・・・・そっか。じゃあ、レーベル。よろしくね!」

「はい! よろしくお願い致します」



こうして、水原琴波、こっちではコトハ・ミズハラは、執事を雇うことになりました・・・


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