第10話:魔法の練習をしよう

カイトとポーラと一緒に、洞窟を出て、森を目指す。

今日の目標は、『アマジュの実』以外の木の実や、食べられるキノコの発見と、周囲の地理の把握だ。


洞窟を出て、いつものように階段を作ろうと思い、ふと、思いつく。


「カイトー、階段作ってみる?」

「・・・へ? 階段って、『土魔法』で?」

「うん。カイトのステータスによれば、カイトも『土魔法』使えるみたいだからさ。練習がてら」


カイトにそういってから思い出す。カイトの『土魔法』のレベルは0だ。

昨日の私の『闇魔法』の実験経験から察するに、カイトはまだ『土魔法』を使うことはできない。

そんな風に思い出しながら、カイトに謝ろうと思っていると・・・


「わかった! やってみるね。お姉ちゃんの役に立ちたいし!」


そういって、カイトは「『土魔法』!」と叫んだ。

すると、握り拳ほどの大きさの土の塊が、できあがり、すぐにポロポロと崩れ落ちた。


「・・・え?」


・・・いま、間違いなく土の塊ができてたよね!?

どういうことだろう。そう思い、カイトのステータスを『鑑定』すると、『土魔法』のレベルが1になっていた。

このタイミングで、レベルが上がったの?


・・・・・・うーん。よくわからない。ただ、カイトが『土魔法』を使えるようになったことだけは間違いない。

私がいろいろ考えている間にも、カイトは土の塊を生み出しては、ボロボロと崩していた。

ポーラは横で、カイトが土の塊を作り出すのを見ては、「おーっ!」と歓声を上げている。


「・・・うまくできない・・・・・・。お姉ちゃん、コツとかある?」

「えーっとねー、作り出したいものを、強く思い浮かべることかな。まん丸な形とか、コップとか、階段とか。どれもやることは、強くイメージすることだよ」

「・・・呪文を唱えたりはしないの?」

「呪文? 作り出したいものを声に出すと、イメージを補ってくれるけど、基本的になにも言わなくても発動できるよ?」


そういうと、カイトは昨日から何度も見た、驚いたような呆れたような表情を向けてきた。


「・・・・・・お姉ちゃん。無詠唱で魔法使えるのって、一部の大魔法使い様だけだよ!」


あー、はい。やっぱりそういう感じね。


「けど、カイトもいま、なにも言わずに土の塊つくってたじゃん。それも無詠唱でしょ?」

「・・・確かに。なんとなくお姉ちゃんの真似してみたんだけど・・・」

「呪文を唱えるっていってたけど、カイトは呪文とか知ってるの?」

「・・・いや、知らないよ、何回かお屋敷の騎士の人が、魔法を使ってたのを見たことがあるだけで・・・」

「そっか。なら、無詠唱で頑張ってみるしかないね!

階段作るのは、まだ難しいみたいだから、土の塊をしっかり作れるように練習してみよっか」

「うん!」


そういって、カイトと話していると、


「ポーラも! ポーラも魔法使いたい!」


といって、ポーラが割り込んできた。うっかり、ポーラを放置してしまっていた。

反省反省。

ステータスを見た感じでは、ポーラの方が使える魔法は多くて、能力も高い感じだった。


とはいえ、ここで魔法の練習を続けていては、周囲の散策する時間がなくなってしまう。


「ごめんね、ポーラ。魔法の練習は、帰ってきてからやろっか。ポーラも魔法使えるみたいだからさ」

「ポーラも魔法使えるの!?」

「そうみたいだよ。けど、しっかり練習しないといけないから、後でね」

「わかった!」



 ♢ ♢ ♢



ひとまず、私が階段を作って、崖を下りる。

『アマジュ』が生えているのとは、反対側、カイト達の流されてきた、川の方向を目指してみる。


カイト達を襲った、あのでかい虎がいるかもしれないから、昨日よりも慎重に歩いて行く。

道しるべとして、地面を耕すことも忘れない。


10分ほど歩くと、森が少し開けて、川が見えてきた。

周りに魔獣がいないことを確認してから、川の方へ出てみる。

川幅は5メートルほど。綺麗な水で、結構深そうだが、底がよく見える。

15センチほどの川魚が泳いでいるのをいくつか見つけ、捕まえられないかと思ったが、諦める。

おそらく、転んで流されるのがオチだろうから。



3人で川に近づき、足下に気を付けながら、水を掬って飲んでみた。

うん、冷たくて、おいしい。

川の流れる音を聞きながら、森や、空を見上げる。

やっぱり、綺麗な場所だ。なんだか、心が落ち着く。



川の反対岸を見ると、昨日捕まえたファングラヴィットが水を飲みに来ていた。

ただ、残念ながら、この距離では捕まえられないし、仮に倒せても、回収できない。

それどころか、気づかれて襲われたら大変だ。



そう思い、来た方の散策に戻ろうかと、森の方を見ると、昨日の虎が、私たちを睨みつけていた。



 ♢ ♢ ♢



しまった!と思ったが、もう遅い。

景色なんかに見とれている場合じゃなかった!

・・・昨日、虎からカイト達を助けることができて、ファングラヴィットも狩れて、調子に乗っていたのかもしれない。


・・・後悔していても、状況は打開できない。

そう思い、なんとか虎を退ける方法を考える。



昨日の、『ファイヤーウォール』は使えない。背後には大きな川。向こう岸にファングラヴィットのおまけ付き。

・・・・・・昨日の夜、練習したあれしかないか。そう思っていると、


虎―フォレストタイガーが、


「グァフ!!」


と、大きく吠えた。


すると、フォレストタイガーの顔の周りに、昨日作った石器のようなものが現れ、こっちに向かって飛んできた。まるで弾丸みたいだ・・・



私はとっさに、カイト達の前に出て、庇うように立った。


・・・前に出てから、なんか魔法を!と思ったが、そんなに素早く魔法を発動することができるわけもなく、体が動かなかった。






痛いっ!と思い、とっさに目を閉じたが、痛みを感じることはなかった。

同時に、パリッン!という、音が響いたかと思うと、飛んできた石の弾丸は、私の目の前に落ちていた。



・・・え?と思っていると、目の前に透明な、板のようなものが見えた。


この板・・・・・・


「・・・『自動防御』か。私に攻撃が向かって来たから、『自動防御』のスキルが発動したのか。私が前にいれば、カイト達も守ることができるのか・・・」



とりあえず、今は、この状況の打開だ。

フォレストタイガーは、何が起きたのか理解できていないようで、「グルゥゥ」と唸りながら、こちらの様子をうかがっている。



私は、昨日の夜試した、『土魔法』による攻撃を試すべく、ラグビーボールほどの土の塊、いや、石の弾丸を作り出して・・・


「発射!!」


と、叫んだ。







・・・石の弾丸は、フォレストタイガーの口付近に命中すると、そのまま体を貫き、後ろにある森の入り口にある木にぶつかり、ものすごい音を立てて、木を、折り倒して、砕け落ちた。

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