第5話:話を聞いてみよう

私が助けた男の子に名前を尋ねると、


「名前は、その・・・、名乗ることができないんです」

「名乗れない?」

「あ・・・、その、助けていただいたあなたには、きちんと名乗ってお礼を申し上げるのが礼儀だとは思うのですが・・・、その、名乗ることを禁じられていまして・・・」

「禁じられてるって、誰に?」

「国王陛下です」

「国王!?」


驚いて、叫んでしまった。国王が名乗るのを禁じるってなに?っていうか、この子国王の関係者なの?

それに、やっぱ国王とかいるんだ・・・、ってことは、貴族とかもいるのかなぁ

なんて考えていると、


「僕は2年前まで、貴族だったんです。正確には子爵家の次男でした」

「子爵家の次男・・・」

「はい。ですが、2年前にいきなり家に騎士がやってきて、父と母と兄を連れて行ったんです。僕や妹は家から出ないようにと言われて。それから少しして、家の前に馬車がやってきて、乗るように言われました。指示に従って、馬車に妹と、妹のお世話をしてくれていたメイドと一緒に3人で乗りました。

それで、カナン村という村に連れて行かれたんです。僕たちは馬車から降ろされると、村長と呼ばれる男の屋敷に連れて行かれました。

そこで、国王陛下の名で『今までの名前を名乗ることを禁じる』っていう命令と『この村から出ることを禁じる』っていう命令を受けました。そして、カナン村で村長の指示に従って仕事をしながら暮らすようになりました。」

「・・・・・・そう、なの。その、お父さん達は・・・」

「少ししてから死刑になったと聞きました」

「・・・そう、・・・・・・でも、そしたらなんでこの森にいるの? その、カナン村は近いの?」

「カナン村は、この森の端から少ししたところにあります。僕たちがこの森にいるのは、村から追放されて、川に流されたからです」

「流された!?」

「はい。村の畑に魔物が侵入して、畑を荒らしたらしくて。それを、村人が僕たちのせいにして・・・、それで『罰として、川流しだ』って」

「なにそれ・・・」

「それで、川に木の板を浮かべて、そこに妹と2人で乗せられたんです」

「あれ? 一緒に村に来たっていう、メイドさんは?」

「・・・彼女は、村に来てすぐに逃げました」

「・・・・・・そっか。それでその、流されたあとは?」

「妹が落ちないように抱き留めながら、必死に、木の板にしがみついてました。でも耐えられなくて、2人そろって川に落ちてしまったんです。それで、気がついたら、岸に寝転がっていました。妹も横にいて、2人で森を歩いていたら、でっかい虎に襲われて。それで、もう死ぬんだって思っていたら、お姉さんが助けてくれたんです」

「・・・なる、ほど。ああ、私の名前はコトハよ。よろしくね。

でもあれね、名前がないと不便よね。村ではなんて呼ばれてたの?

「村では『お前』とか『ガキ』とかですね・・・・・・」

「・・・・・・そう、ごめんなさい。いろいろ辛いことを聞いてしまって」

「いえ! 名乗ることができない理由を説明するのは当然ですし・・・」

「・・・あ、のさ、・・・もしよかったら、私が新しく名前を付けてもいいかな?」

「お姉さんが? 名付けてくれるの?」

「ええ。私で良ければ」

「うん! お願いします! 命の恩人のお姉さんに名付けてもらえるのは嬉しいです!」

「・・・そっか」


そこまで素直に喜ばれると、少し照れる。

しかし、名前かぁー

自分で言い出しておきながら、難しい。

少し考えてから、2人の見た目と、雰囲気で名付けることにした。


「カイトってのはどうかな? 妹さんは・・・、ポーラ」

「カイト・・・・・・、ポーラ・・・・・・、うん! ありがとお姉さん!」

「喜んでもらえて良かったよ」

「そういえば、お姉さんはこんな危ないところでなにをしてるんですか?」

「・・・・・・・・・危ないところ?」

「うん。ここって、クライスの大森林でしょ? 強力な魔物が多く住んでいて、入った人間は誰も生きて帰ってこないっていう」


まじか!! ここ、そんな危険な場所なの!?

っていうか、そんなこと知らないよ! 

私はここで生まれたんだよ! しかも昨日!


心の中でそんなことを叫びながら、考える。

私のことをどこまで話していいのだろうか。異世界で死んで転生したことは?

種族が『魔竜族』であることは?

魔法が使えることは・・・、さっき見せているから知ってるか。


そんな葛藤をしながら、誤魔化しつつ事情を話した。


「・・・正直にいうと、わかんないんだよね。私は、気づいたらここにいてさ。周りを調べようと思って、森に出てたら、虎の鳴き声を聞いて、カイト達を発見したんだよね。だから、ここがそんな危険なクライスの大森林?ってことも知らなかったし、なんでここにいるのかもわかんないんだよね」

「そうなんですね。・・・でも、感謝しないとですね! お姉さんがここにいたことに! じゃなかったら、僕たちは死んでましたし!」


前向きだなーと思いながら、苦笑いを返した。


そうしていると、


「お兄ちゃん?」


寝ていたポーラが目を覚まし、カイトのことを呼んだ。


「ポーラ! 大丈夫か!?」

「ポーラ?」

「ああ! 僕たちを助けてくれた、コトハお姉さんが名付けてくれたんだ!

僕はカイト。お前はポーラってな!」

「コトハお姉さん?」

「初めまして。私のこと覚えてるかな?

カイト、あなたのお兄さんに事情を聞いて、勝手に名前を付けちゃったんだけど、よかったかな?」


ポーラと、私が勝手に名付けた女の子は、カイトと私の言葉の意味をゆっくり確認するように、頷きながら、


「・・・・・・うん! ポーラ! 私の名前はポーラ! 嬉しいよ!コトハお姉さん!」


と笑顔で答えてくれた。

喜んでくれたみたいで、良かった。


ポーラは私に助けられたことは覚えていたようで、カイトに促され、


「助けてくれてありがとう!コトハお姉さん!」


と、満面の笑みでいってくれた。めちゃくちゃかわいかった。


「どういたしまして。

でもポーラ、お兄ちゃんにもお礼言わないと」

「あ、そうだ。お兄ちゃんもありがとう!」

「あ、ああ。当然だろ」


カイトは照れくさそうに、そういって笑った。



 ♢ ♢ ♢



「それで、2人はこれからどうするの?」


ポーラにも水を渡し、落ち着いたところで2人に聞いてみた。

といっても、身寄りのない2人には帰るとこなんてないだろう。

それにここが危険なクライスの大森林である以上、2人で森を抜けることも厳しい。


「・・・えっと、その。もし、よかったら、お姉さんと一緒に暮らしたいなぁって思うんですけど・・・

・・・・・・・2人が無理なら、ポーラだけでも!」

「やだ! ポーラ、お兄ちゃんと一緒がいい!」

「・・・だけど、2人もお世話になるわけには・・・・・・」

「ストップ。ごめんね、聞き方が意地悪だったよね。2人がよければ、これから一緒に暮らさない?

といっても、私もまだ周りのこととか全くわかんないんだけどさ」

「いいんですか?」

「もちろん! 1人は寂しいし。それにカイト達みたいに仲のいい兄妹を引き裂くようなことするわけないよ」

「ありがと、お姉さん!」

「ありがとう!」

「うん。これからよろしくね、カイト、ポーラ!」


こうして異世界に転生して2日目、一緒に暮らす仲間ができました。

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