第4話:子どもを助けよう
広場のような場所では、大きな虎が、2人の子どもを威嚇している。虎の大きさは自動車ぐらい。でかい。
先程のうなり声は、この虎の声のようだ。
2人の子どもは、1人がもう1人を庇うようなかたちで、虎に向いている。といっても、前に立つ子も、虎を絶望したような目で見つめている。後ろの子は、怖くて身動きがとれない感じだ。
虎の方は、2人の子どもに警戒しつつ、距離を詰めている。おそらく、見たことがない生物である人が、敵なのか餌なのか迷っているのだろう。動物は、未知の生物を見ると警戒するものだ。
・・・・・・さて、私はどうするべきだろうか。
正直、今の私にあの子たちを助ける余裕はない。私は、自分のことも周囲のこともなにも分かっていない。自分が『魔竜族』とかいう謎の種族なのは知っているが、この種族がどの程度強いのか分からない。というか、種族的に強くても、私は生まれて2日目だ。当然戦ったことなんかない。
そう考えつつも、目の前で死にかけている子どもを見捨てるのも気分のいいものではない。それに、転生して初めて出会った人だ。何より、怯えながらも、もう1人を守ろうとしている子の助けになりたい。
そう思い、虎に『鑑定』を発動してみた。
♢ ♢ ♢
『フォレストタイガー』
魔の森に生息する大型の虎型の魔獣。鋭い牙と爪をもち、魔法を操る。
♢ ♢ ♢
・・・・・・うん。虎ね。
というか、この虎、魔法が使えるの!? 異世界の動物なんだから、魔法くらい使えるか・・・
この虎とまともに戦って、勝てる気はしない。子ども達の前に出て行っても、爪でザクッとやられるか、魔法でサクッとやられるかの未来しかみえない。
可能な手段としては、どうにかしてこの虎を追い出すしかない。
その手段は?
「・・・魔法・・・、か」
そう呟きながら、考える。アニメや映画の魔法使いが、地面から吹き上がる火の壁で、敵を攪乱していた光景を思い出した。
これならいけるかも!
そう考え、虎の前に『火魔法』で、火の壁を作ることにする。
しかし、いざ、魔法を発動しようとして、足がすくむ。
もし、火の壁の効果がなかったら? 私に気づかれて、こっちに向かってこられたら?
そんな恐怖が心を支配する。
・・・だけど、怖がっているときではない!
こうしている間にも、虎は子ども達に迫っていく。覚悟を決めろ! そう自分を怒鳴りつけながら、集中する。
魔法はイメージだ。虎の視界を遮るような、火の壁。映画で見た、火の壁。
イメージを固め、虎と子ども達の間に狙いを定めて、
「火の壁!!!!」
と叫んだ。
その途端、虎と子ども達の間に、森の木々よりも高い火の壁が現れた。
虎は驚いたのか、後ろにジャンプし、火の壁を見ている。
それを見て私は、出現した火の壁に驚きつつも、
「こっち!! 走って!!」
と子ども達に向かって声を出す。
子ども達は、火の壁を見て呆然としていたが、私の声に反応した。前に立っていた子が、後ろに座り込んでいた子を無理矢理立たせて、私の方へ走り出した。
虎は、私の声が聞こえたのか、こちらを睨みながら、
「グァゥ!!」
と大きく吠えている。
それを見て私は、今度は、私と虎の間を狙って、火の壁を出現させた。
そうしていると、子ども達が私の方にやってきた。それを確認すると、
「こっち! ついてきて!」
と言いながら、腰の抜けていた方の子どもを抱き上げた。とても軽かった。見た感じ、5歳くらいだと思うが、それにしても軽い。ちゃんとご飯食べてないのかな?
そんなことを考えながら、洞窟の方へと走った。
洞窟のある崖の下につくと、素早く階段を作り出して、階段を上るように促す。
走って付いてきていたもう1人の子は、崖に現れた階段を不思議そうに眺めながらも、指示に従い階段を上っていく。
私の抱きかかえていた子は、どうやら気を失っているようだ。
階段を上り終えると、階段を消し、洞窟の入り口を塞いでいた土の壁も消す。
洞窟を開放すると、洞窟の中へと入る。
念のため、入り口を『土魔法』で塞ぎ、『光魔法』で明かりを生み出して進んでいく。
洞窟の奥につき、抱いていた子どもを、昨晩寝ていた寝床におろす。
この寝床、最初はベッドと呼ぼうとしたが、いくら軟らかくしたといっても所詮は土なだけあって、寝心地は良くなかった。そのため、とてもベッドと呼ぶ気にはなれず、野生っぽく寝床と呼んでいる。
子どもを寝床におろすと、もう1人の子が話しかけてきた。
「あ、ありがとうございます! 妹と僕を助けていただいて。もう、ダメだと思っていました。」
そう言いながら、緊張が解けたように、お礼を言ってくれた男の子は、地面に座り込んだ。
私も、どっと疲れが出てきたようで、地面にへなへなと座り込んだ。
昨晩作ったコップに、『水魔法』で水を入れて、一気に飲み干した。
男の子が見ていたので、『土魔法』でコップも作り、水を入れてあげると、一気に飲んでいた。
一息ついたところで、事情を聞くことにした。
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