第四話 二人の学園講師
目が覚めたのは見知らぬ部屋で、自分が取った宿の部屋でないことはすぐに分かった。
柔らかいベッド、白い天井、温かい人肌_________。
「!?」
勢いよく起き上がり、捲れた掛布団から見えたのはあのナイスバディな女性。
白いキャミソールにショートパンツという奇抜な格好をした女性に朝から鼻血が出そうになった。
東の国の女性はとても慎ましやかだったよ⁉
顔を両手で覆い、女性がいるベッドから降りる。
(私、ここまで初心だった…?)
泣きそうになりながらもなんとか寝室から出ると、そこには見知らぬ男性が一人。
(誰よこの人。)
次から次に処理しきれない事態が続いて内心パニックを起こしていると、男性が立ち上がり近づいてきた。
(な、なになになになに!!??私何かした⁉)
怖くなってギュッと目を瞑ったのと同時に、ポンポンと頭を撫でられる。
恐る恐る目を開けると、私の目線に合わせて屈んでいる男性。
垂れた目元は気怠そうなのにどこか優しく、口元は少し弧を描いている。
「随分お疲れだったみたいだな、ガキ。」
ピシリ…と体が固まったのが分かった。
(ガキって言った?私の事、ガキって……。)
頭を撫でていた男性の手をベシッと叩き落とす。
私の行動に驚いたのか目を見開く男性にズビシッ!と指を突き付けて。
「私はガキじゃない!!これでも立派な二十二歳だ!!」
フワリと舞ったヒラヒラの袖。
ガラじゃないその袖を見て、自分が身に着けている服に視線を落として_____。
「うわぁあああああ!!」
盛大に叫んで物陰に隠れる。
(ナニコレナニコレナニコレ!!!!)
白いフワフワなネグリジェ。
可愛いは正義!なんて言っていた時期が私にもあったがさすがにこの年でこんな可愛いものは着たくなかった!!!
(恥ずかしぃ……)
とうとう耐え切れなくなった私の涙腺。
ポロポロと零れだし、可愛い服にシミをつくる。
声もなく泣いていると、キィ……と扉が開く音が聞こえ、物陰から覗き見るとリビングに入ってきたのは寝起きのナイスバディな女性。
「グローリス先生、何してるんですか。」
朝から煩いとでも言うように、眉間に皺を寄せた女性は不機嫌を隠しもせず、男性に静かに言った。
「とりあえず、大人しく待っていてください。」
そう言って私がいる方へ歩いてきて目の前でしゃがむとおいでというように手を差し伸べた。
(め、女神…!)
勢いよく女性に抱き着く。
さっきまで包まれていた温もりに安堵してやっとのことで今の状況を理解した。
昨日私はこの女性に連行されて、連れて行かれた場所がウィルビット王国直轄の魔法学校。
そこの職員室の待合室で待っていろと女性に言われて大人しく待っていたら、ソファがあまりにも座り心地が良くて眠ってしまった。
んで、眠っている内にいつの間にか知らない場所に移動させられていて、女性がベッドで眠っていたことから、この部屋は多分女性の部屋。
そして、グローリス先生と呼ばれていたソファに座りなおした男性は女性と一緒に暮らしているか、はたまた無断侵入か。
どちらにしてもこの二人からはどこか信頼関係があるように見える。
そういえばこの女性、なんか引っかかるんだけど、幼い頃の記憶にはモヤがかかっていてうまく思い出せない。
でも引っかかることから知り合いだというのは何となく気づいた。
幾分か落ち着いた私は恐る恐る女性から離れ、部屋を見渡す。
内側から外は見えるものの、外から中は見えない結界。
加えて、音漏れ防止の防音結界……。
ずっと掛けられているのか強度が半端ない。
それより、一つ気になるのは……どうしてこの部屋だけこんな結界が掛けられているのかということ。
感知できる範囲を広げてみて調べたものの、他の部屋には結界なんて張られていない。
だとすると、何か秘密があるということ。
「イーユエ・ヴァレンタイン、落ち着いた?」
キリリとした目元を緩める女性。
優しく問いかけてくる声は女性にしてはハスキーで、格好のせいか色気が半端ない。
美しくて色気がヤバいとか…これ、老若男女問わず惚れるんでない?
私、墜落寸前なんだけど。
コホン…心の暴走はまあ、置いといて。
女性の問いかけに首を縦に振る。
それを見た女性は一つ頷くといきなり真面目な顔になった。
「イーユエ・ヴァレンタイン、貴女が大人であることは身分証を見て確認しました。故に、まずは謝罪をさせてください。」
「あ、はい。」
「それから、この身分証は大和国で発行したもので間違いありませんね?」
ピラリ、と見せられたのは私のギルドカード。
左上に顔写真があり、その隣には名前。
名前の下に記載されているのは生年月日に、発行場所とランク、偽造がされないための番号がある。
そのため、身分証の役割も果たす。
「ごめんなさい、貴女の荷物を見せてもらったの。特にこれといって危険なものはなかったし、貴女のことが知れたから返すわね。」
そう言って渡された荷物を受け取る。
寝ている間に着替えさせられていたこともあるし、そりゃあ、持ち物検査だってされるだろう。
これは私の落ち度で、真っ当なことをしただけで彼女たちが悪いわけじゃない。
だけど何だろう。この嫌な感じは。
「えっと…」
どこか困ったような言うか悩んでいるような女性の挙動に首を傾げる。
そんな様子を見兼ねたグローリス?が横から口を挟んできた。
「嬢ちゃんよ、お前学校には通ったことあんの?」
「え?ないです。」
(なんなんだ?藪から棒に。)
不審に思って視線だけグローリスに向ける。
グローリスは垂れ目のせいか真面目な風には見えないけれど、発される声は真剣そのもの。
「じゃあ誰かに教えてもらったことは?」
「……何が聞きたい?」
私が質問で返すと、グローリスはニヤリと怪しく笑った。
待ってましたと言わんばかりに。
「お前、文字が読めるだろ。」
「だったら?」
不安がよぎる。
これは逃げなきゃって、頭の隅で警告が鳴る。
「旅をし出したのはいつだ。」
「答えない。」
「じゃあ、大和国に入国したのはいつだ?」
「……それも、言わない。」
「お前のギルドカードが発行されたのは七年前だ。それまで何をしていた?」
尋問だ。
顔は優しいのに、発する言葉にかけられた威圧感。
それとは違う、覇者のような風格を思わせる雰囲気。
(これは、ヤバいな…。)
冷汗が背中を流れているように感じる。
実際は、冷汗なんかかいてないのに。
「っ…」
つい、口を開きそうになる。
言ってしまえば楽になれる。
だけど、言ってしまえば後戻りはできない。
何故って?
きっとこの男は私を試している。
なんで試す必要があるのか分からないけれど、きっとこの結果次第では碌なことに巻き込まれかねないと思うから。
「……っ何をしていようと、私の人生だ。私が歩んできた人生をそうそう他人なんかに教えるわけないだろ。」
「……ふ、ハハハハハッ!」
「!?」
私の答えに、いきなり笑い出したグローリス。
さっきまでの雰囲気は消えていて、私の傍で控えていた女性も安堵の息を吐いている。
私はその空気に戸惑い、女性とグローリスを交互に見て、何なの…?と言葉をこぼした。
「ハハハッ……確かにそうだわな。自分の人生を他人に教えるより、もっと有意義なことがあるはずだ。ルェイリー、合格だ。認めてやるよ、こいつの入学を。」
「ありがとう、ジャック・グローリス先生。」
普通の優しい顔に戻ったグローリス。
そしてやっと知れた女性の名前。
だけど、どうして私、学校に通うことになった!?
どこに合格する要素があったよ‼
学校って…私より年下の子たちがいっぱいいるでしょ!?
絶対馴染めない!無理‼てか、今更学校に行っても学ぶことないんだけど!!!!
あ、でも私の知っていることと、習うことの照らし合わせができるのは魅力的だ。
あーーーでもなぁーーーー………。
「これからよろしくな?イーユエ・ヴァレンタイン。」
こう言われたらもう通うしかないよね。
私は頭を抱えて頷いたのだった。
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