『不死の呪いと魔法使い』×『ドラゴンのいる異世界を、じいちゃんと』

【嫁探しの旅】異世界から異世界へ行ってみた!〈前編〉


【character select】


 こむらさき作『不死の呪いと魔法使い』より、へニオ、ネスル、ウィロウ、フィル、シャンテ、フリソス(カティーア)

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884402503


『ドラゴンのいる異世界を、じいちゃんと』より桐生貴虎(キー坊)


【time stamp】


『不死の呪いと魔法使い』Chapter6:TAKE ME HIGH


【START】


 未明、おれは異世界から異世界へと飛んだ。

 心配させちまうから、じいちゃんにはナイショだぜ!


 今回は移動魔法の応用版。

 イセカイコが作ってくれた〝修練の繭〟が、サザンクロスの輝く夜に日本まで飛ばしてくれるのなら、他の時間帯に使ってみたらどうなるのって話。


 つまりは行き先ガチャ!

 異世界ダーツの旅、みたいな?


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 異世貝(※改良版の時空転移装置。二枚貝の形をしているから『異世貝』と名付けられた。じいちゃんのネーミングセンスはわかりやすくてすげーぜ!)を使用した時空転移に近いGがかかり、おれの脳みそが上下にシェイクされる。


 そのうち視界が真っ白になって、宙に投げ出されるような感覚があって、それから、自由落下フリーフォールを始めた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 異世界への移動は成功した、気がする!

 現代日本でも、クライデ大陸でもない、見慣れない景色が広がっているから。


 なんかでかい塔と、カラフルな建物、それらを円形に取り囲む城壁。

 きっとこの世界で重要な施設に違いない。


 やっぱりおれってガチャ運いいんだな。

 タイガーチャンネルでソシャゲの実況をした時も、初っ端から最高レアを三枚抜きして有識者のリスナーがびびってたもん。


 Q.着地はどうするの?


 A.どうにかなれ!


「どうにかなれー!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 クライデ大陸の魔法は、想像力が試される。

 おれは無事に着地した時のイメージをしていればいい。ダメだった時のことなんて、一切考えない。いけるいける! 気持ちの問題!


『あれはなんだ?』

『人、じゃないか?』


 誰か氏!

 おれを受け止めてくれ!


 頼む!


「――全く、無謀なやつもいたもんだな。気に入った」


 現地民のざわめきの中に、なんだか聞き取れる言葉があるぞ。

 おかしいな。

 クライデ大陸みたいに、この世界も日本語が通じるのか?


『フリソス先生?』

『あれは、俺の昔の知り合いでね。人を驚かせるのが好きな奴なんだ。――そこをどいてくれ、俺が受け止める』


 いや、おれの聞き間違いっぽいな……。


 落下予測地点に、金髪の男の人? が移動してくる。どうしよう。押しつぶすかもしれない。でも、地面にごっつんこしたらおれは確実に死ぬと思う。さよならじいちゃん。不甲斐ない孫でごめん、ちゅ。


 ちゅじゃねえ!


「ヘルプみいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 金髪赤目のイケメンの胸に飛び込むしかない。イケメンのほうもこっちの世界の魔法? みたいなのを使っているのか、おれの落下速度がゆるやかになる。ラピュタじゃん。あの、飛行石がピカーってするやつ。カバンにナイフとランプを入れてくるべきだったぜ。


「きゃっ」

「おっと」


 イケメンにお姫様抱っこされるおれ。周りから拍手喝采を受ける。なんだか恥ずかしくなって、両手で顔を覆った。きゃー、見ないでー。


「……さて、どちらからいらっしゃったのかな?」


 流暢な日本語でござるな。

 ひょっとして、日本に住んでた?


「クライデ大陸からお越しの桐生きりゅう貴虎きとらです」


 年齢は、おれと同じぐらいに見える。

 しかし命の恩人だ。敬語を使っておくのがベターってもん。仲良くなって「いいよ!」って言われたらタメで話そう。


「クライデ? ――にしては、持ち物が」

「おわあ! いつの間におれのリュックを!」


 金髪のイケメン、手癖が悪い。助けてくれたのはいいんだけど、おれのリュックを勝手に盗み取って中身を漁ってやがる。見せてほしいなら言ってくれればいくらでも見せるよ!


「お前の処遇は、俺の一存では決められない。だから、魔法院で一番偉いやつに会わせてやるよ」


 物色し終わったリュックサックを、ポイっとこっちに投げてきた。左手には昼飯にしようと思って持ってきた塩むすびがある。握り拳サイズの。クラヒカリの新米をいい感じに炊いて、クライデ大陸式の製塩法で作られた食塩をふりかけて作った。


「おれの飯!」

「これはお代としていただいておく。俺が受け止めてなかったら、お前、死んでたんだぞ。安いもんじゃないか」

「うっ」


 図星。……じいちゃんなら、もっと上手くやったんだろうな。悲しいけど、この金髪が受け止めてくれなかったら大変なことになっていたのはジエンドだったのは事実。言い返せない。


「あとのことは偉いやつが決める。……おい! そこの! こいつを案内してくれないか」


 後半は何言ってんだかわからなかった。

 こっちの世界の共通語っぽいものなのかも。


 野次馬のうちの一人のおっさんが『俺?』と自らを指差して、そのあと、金髪とそのおっさんが俺にはわからない言語でなんやかんやとやりとりして、金髪が「この人についていってくれ」とおれに耳打ちしてくる。


 別におれは異世界で騒ぎを起こすつもりはさらさらない。極めて友好的に取材をして、お土産を持ってクライデ大陸のギルドハウスに戻る。だから、おっさんについていって高い塔の上まで連れてこられて、の前まで来ても、後ろめたいことはない。


「あなたの目的は?」

「日本語お!?」


 なんだあ。

 日本語通じるんじゃん。


 さっきの金髪さんといい、この美人さんといい。


「……ええ。あなたが使用している言語を解析して、魔法を通して会話できるようにしたわ。これで、魔法院の中では不自由なくコミュニケーションが取れますよ」

「ははあー。お手数おかけします」


 助かる。

 知らない言葉で悪口言われたらしんどいからな。


「あなたの目的は?」


 同じ質問を繰り返されている。おれは、言葉の端っこの部分にいらだちを感じ取った。このめっちゃえらい人、たぶんすげー忙しいんだと思う。こういう上司いたなあ。おれの直属の、ってか、おれの所属していたところはみんな優しくて、五分ぐらい遅刻しても全力で「すいませんっした!」と言えば笑って許してもらえたけど、別の課の人にとんでもなく神経質な人がいてさ。一分でも会議室の使用が長引くとガミガミ怒ってくるの。だからその課が次に使うってわかってる時は五分前に会議を切り上げてテーブルの拭き掃除をしてたのよね。


「この世界についていろいろ取材して、この装置で映像を撮影して、動画にします! 悪いようにはしません! あと、ついでに嫁探しを……」

「なるほど」

「できれば、この世界の魔法とか、文字とか、勉強させてもらえると嬉しいなって感じです。こっちの世界のお金も持ってませんし、住み込みで働かせてもらえるところがあればなんでもやります! あ、なんでもは無理です! できる限り、頑張らせてもらいます!」


 話がわかる人でよかった。

 さっきの金髪イケメンとは違うぜ。


「金に関しては、あなたの持ち物をこちらの世界の通貨に交換できますので、換金所に行っていただければ」

「マジですか?」


 すげー!

 異世界に理解のある異世界だ!


「文化交流の一環として、あなたを学院カレッジで受け入れます」


 マジ!?

 おれ、留学生扱いってこと?


 すっげ。


「え、でも、おれ、大学卒業してるんで、入るとしたら大学相当のところ……?」

「文字を学ぶとなると、初等部になるんじゃないかしら」


 ですよねー。

 小学校からやり直し、ってか。これもまた経験ってことで。日本の小学校とはわけが違うだろうし。


「では、あとのことは学院の者に任せます」

「はい! 忙しいところ! お時間いただき、ありがとうございます!」


 めっちゃえらい人はにこやかに微笑んで――よく見たらすっげー美人じゃん。女性でトップだから、相当やり手なんだろうな――手を振りかざすと、後方の扉からその『学院の者』が現れた。


 今のおれのセンパイ、ネスルさんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る