『隣の美少年を食べたい』×「我が愛しの侵略者」+1

転がる石にコケは生えない


【character select】


武州人也作『隣の美少年を食べたい』より私(鰐見坂真帆)、美希

https://kakuyomu.jp/works/16817330657144567414


『明日はドラゴンとなり、ところによりにわかあめが降るでしょう』より神崎キサキ

「我が愛しの侵略者」よりアンゴルモア


【time stamp】


『隣の美少年を食べたい』の完全版(ノクターン掲載分)の本編終了後


【START】


 わたしもあれぐらいおっぱいがあれば。


 ……いいえ、キサキ。諦めちゃダメ。そう、まだ諦める時間じゃない。ねえさんを見ればわかる。ねえさんとおなじママとパパから生まれた次女のわたしが、ねえさんと同じぐらいのないすばでぃに育たないはずがない。そうよキサキ。これからが大事。スマホで『豊胸術』を調べていくらかかるんだろうとか『おっぱい 大きくする方法』とか色々試さなくてもいいの。時が解決してくれるのを待ちなさい。一体いつなんだよ。


「じょうずじょうずー!」


 お母さんと小さな女の子がバスケットボールぐらいの大きさのボールを投げ合いっこして遊んでいる。そのお母さんがボールを投げるたびに揺れるおっぱいを観察していた。そのボールと同じぐらいはありそう。大袈裟に言ってんじゃなくて。

 他人のおっぱいをジロジロ見るなんてまるでおじさんみたいじゃないかと思われたら嫌なのでわたしについて軽く触れておくと、今現在公園のブランコに揺られつつ、片手にガリガリくんなし味を持った神崎キサキ十八歳です。


「えいっ!」


 女の子が両手でボールを投げる。目鼻立ちが整っていて、まつ毛がくるんっとしていて、それでいて子どもらしく楕円形の輪郭で、一言で言えばめっちゃかわいい。ちっちゃい子はみんな可愛らしいけどその中でもバツグンに将来有望。保育園でも人気なんだろうな。幼稚園かもしれねぇ。

 順当に育てばお母さんのようなぐらまらすぼでぃになっちゃいそう。なっちゃいそうってなんだ。超うらやましい。巨乳は肩が凝るっていうけど貧乳も別に肩は凝るわ。誰だってそう。


 子ども、子どもかあ……。


「むぅ」


 ガリガリくんなし味の棒には何も書いていなかった。ハズレである。当たっていたら即交換してもらいたいところだったが、ハズレていたので計画は失敗。明日ミライからは百円玉一枚しか預かっていないから、残りでうまい棒でも買おうかな……。百円渡して「買い物行ってこい」ってなんだよ。明日の中では、わたしはいつまで経ってもいくつになろうと子どもなんだろうなァ。もう十八歳だし、嫁なのにね。

 家に帰ったところで、だ。わたしの予想が正しければああいう、おっぱいの大きな女の人を――今日は誰ちゃんだろう。覚えててもしょうもないから覚えてない。もうビョーキみたいなもんだと思ってる――連れ込んでいるに違いない。その場にわたしが居合わせたらどうなるかって、そりゃあ、もう。行き場がなくて気まずくなる。自分の家なのにね。


「はぁ……」


 あのお母さんに「どうすればあなたのような体型になれますか?」って聞いてみようか。不審者だろそれ。わたしもそれなりに「かわいい」と言われるんだけど、それでも、見ず知らずの女の子から「おっぱいを大きくしたいんです!」と頼まれたら普通は困るだろ。怪談扱いされちゃう。というか、そんな変に目立つことをしたら、あのセクシーなお母さんにケーサツを呼ばれるかもしれない。明日に迷惑はかけられない。


 だから、黙って親子の戯れを眺める午後。ブランコ、楽しくはないよ。単にベンチ座ってるよかいいかなと思って座ってるだけ。


「ふんふんふふんふふーん♪」


 鉄腕アトムの鼻歌が聞こえてきたのでそっちに視線を向ける。エコバッグ片手にゴキゲンなその人を見て「げっ!」と、ブランコから飛び降りてささっとツツジの影に隠れた。またでかいおっぱいが増えた……。


 見たことある人だったから。

 見たことあるってか、苦い記憶が蘇ってくる相手だ。


 あれは確か、五年前ぐらい。わたしが明日に弟子入りして数ヶ月経った頃。あの女の人=モアさんが、明日に頼まれたタバコを買えなくて右往左往していたところを助けてくれて、家まで来て、明日を半殺しにした。まじでやばいやつ。侵略者だって言ってた。本当にやばいやつ。触手出してくるし、壁から生えてくるし。


「ていっ!」


 女の子の放ったボールが、お母さんではないところへとコロコロ転がっていく。お母さんが「ありゃ」と慌てて追いかけるも、モアさんの前までボールは転がっていき、上機嫌なモアさんは気付かずにボールをフニャッと――子ども向けのボールだから、大きさのわりに当たっても痛くないようになっているのだ――踏んで、


「わぁ!?」


 前のめりに転けた。

 咄嗟に両手をついたおかげで、ケガはなさそうだ。あってもあの戦いぶりを思い起こせばケガなんてすぐ治るだろうけど。ぶわっと腕が泡立つ。思い出すだけでこれだ。立ち向かえる相手じゃない。


 で、でも! ど、どど、どうしよう。あの侵略者がキレちゃう。ちっちゃい子ども相手に。ボールなんてなければ転ばずにすんだのだぞ! とでも言いそうだ。まずい。わたしがケーサツを、いや、ケーサツ相手じゃどーにもならない……!


「すいません! 大丈夫ですか!?」


 お母さんがモアさんのケガを心配している。いいや大丈夫だろ。ってわかるのはモアさんの正体を知っているわたしだけか。


「大丈夫だぞ!」


 ほらー。


「ごめんなさい……」


 女の子が本当にすまなそうな顔をして謝っている。それをモアさんは「我の不注意のせいだぞ!」と返した。あれ、怒らない。そこでキレて人間死すべしってなるんじゃないの……? 侵略者心広い?


「太陽の下で遊ぶのは心身の発達に効果的と聞く。大いに励むが良い!」


 むしろ推奨してるっぽい?


「うん!」


 女の子は元気にお返事できてえらい。お母さんのほうは若干引いてる。なんか言葉遣いが独特よねモアさん。わたし的には一般市民は襲わないと知ってちょっと安心した。

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